第152話 導き手

 ゲンが住んでいた山奥に到着した。

 そこには一軒の家があるだけ。

 残留魔力から判断しても、おそらくここがゲンとじっちゃんが住んでいた家だろう。

 その近くには剣が地面に突き立てられ、土が盛られている場所がある。

 たぶん、そこにじっちゃんが眠っているのだろうな。

 なので、その隣に同じように地面を掘ってゲンを埋葬し、墓標代わりにゲンが使っていた魔鉄の棒を地面に突き立てる。

 一応荒らされないように、魔力でがっちり固めておいた。

 あとは供える花だが……俺らしく魔力を込めた薬草にしようか。

 そうして、手持ちの薬草に魔力を込める。

 昨日は枯らせてばかりだったからな、落ち着いて、丁寧に……

 そんな感じでゲンのことを想いながら薬草に魔力を込めていると、無意識のうちに次々と込めていたのだろう……気付けばかなりの本数になってしまっていた。

 そんな薬草たちをゲンとじっちゃんに供えた……というか、植えた。

 墓の周りが薬草畑のようになってしまったが、これはこれでいいだろう。

 ……これでもう、やるべきことは何もないか。

 今から帰ってもじゅうぶん夜に間に合うが……

 そう思いつつ辺りを見回し、この長閑で落ち着いた雰囲気に癒しを感じ、今日はここで一泊することにした。

 まぁ、野営道具もそろっているし、食べ物もマジックバッグに大量にある。

 よし、野営研修の延長戦だ。

 それに……もう少し独りでいたいっていうのもあった。

 そうして石の小屋を作るなど野営の準備をし、それも終えたところで持ってきた椅子に座りくつろぐ。

 ちなみに今回はお堀や城壁は作っていない。

 もともと魔力の防壁でじゅうぶんだったからね、今回はいいかなって思った。

 そしてあとは、ゆっくりと流れていく時間の中で思索にふける。

 もっとああしていれば……もっとこうしていれば……

 当然そんなこともたくさん考えてしまうが、それも思い浮かぶままにする。

 ……それと今回の野営研修、結局主人公君のところにはぐれオーガは出なかったようだ。

 それから、俺のところに来たゲンとゲームのはぐれオーガ、これも別の存在な気がする。

 なぜなら、ゲンは死んだふりみたいな狡猾なまねはしなかったからな。

 ああ、そういえば俺が前に狩ったオーガが、はぐれオーガとしてゲームに登場する予定だったってこともあり得るのか。

 学園都市周辺ではめったにオーガが出ないことからも、その可能性は考えられるな。

 ということは……俺はイベントを潰していたってことになるわけだ。

 ……ははっ、まさかな。

 とはいえ、そうだとするのなら……ゲンの存在をどう見るかにもよるが、ゲームの強制力はそこまで強くないのかもしれない。

 そして現時点でこの世界は、主人公君のことをゲームの主人公として扱おうとはしていないのかもしれない。

 それなら……


「こんばんは」

「あ、ああ……すまんが、どこかで会ったか?」

「そうだねぇ……会ったとも言えるし、会っていないとも言える、さて、どちらでしょう?」

「……分からんが、なぞなぞ遊びをしたいなら、ほかをあたってくれないか?」


 なんだコイツ……こんなところで声をかけてくるぐらいだから、知り合いなのかとも思ったが、学園や街中でも見た記憶がないぞ……

 とりあえず、ただのミステリアス気取りなら迷惑としか言いようがないな。


「おっと、そんな不審そうな目をしないでおくれ、僕はただの導き手、導き手のゼンさ、よろしくね」

「……宗教の勧誘なら間に合っているぞ?」


 ……神頼みをする際は転生神のお姉さんにお願いしているからな……まぁ、あとはオッサン神も一応。


「いやいや、僕は信仰を求めているわけじゃないのさ」

「ふぅん? で、その導き手が俺になんの用だ?」


 怪しさ満点……マヌケ族の可能性が高いな。

 そして念のため魔力探知で探りも入れているが、反応なし。

 ただまぁ、あの騎士の男程度すら見破れなかったからな……ちょっと自信喪失気味なんだ。

 それはともかく、一応警戒だけはしておこう。

 ……ああ、しまった、ポーションを補充していなかったぞ。

 もし戦闘になった場合、その辺も気を付けて戦わないとだな。


「こう見えて僕、結構な情報通でもあってね、アレス・ソエラルタウト君、実は君のこともよく知っているんだ」

「ほう?」


 ……警戒レベルを上げるか。


「君がこの王国の上層部から受けが悪いこととか……昨日、そこの墓で眠るオーガを巡って王国騎士と揉めたことなんかも知っているし……あとはそうだな……君にとってとても興味深いだろう話としては、あの騎士がなんであんな無茶なことをしでかすようになってしまったのか……なんていうのはどうだい?」

「……どうせ、お前らお得意の思考誘導の魔法だろ?」


 あえて俺は知っているんだぞって雰囲気で断定気味に言ってみた。

 たぶんマヌケ族だろうからね。

 ……しかしよく考えてみれば、王国騎士団の中で九番隊副隊長というポジションにまでなった男があんな短絡的な言動なのは少し変だったものな。

 それになんというか、キレやす過ぎたし。

 ……隊長であるミオンさんの雰囲気が軽めなことには、この際目をつぶっておこうと思う。

 それはそれとして、コイツの目的が分からん。

 ……頼むから小難しい駆け引きを俺にさせないでくれ、そういうのは苦手なんだ。


「それは心外というものだよ、あれは彼の意思さ……まぁ、導き手らしく、道を示してあげたのは確かだけどね」

「なんだ、同じじゃないか」

「それは違うよ……よろしい、特別に教えてあげようじゃないか、彼に何があったのかをね……それを聞いてから判断するといい」


 騎士の男に悲しき過去が……って感じか?

 まったく、悲しき過去があるのは悪役だけでじゅうぶんなんだがな。

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