第611話 また違った角度から観る

「ハァッ! ……フゥ……まだ少し、肩に余計な力が入ってそうだな……」


 今日は火の日、明後日に武闘大会を控えた今、当然のように個人特訓をしている。

 そして今回は、対戦中に木刀を弾き飛ばされたときを想定して突きや蹴り、それから受けや払いなど徒手格闘を重点的に練習しているところだ。

 とはいえ、木刀を弾き飛ばされたとしても、魔法で氷の剣とかを生成することも可能ではある。

 そう考えると、素手による戦闘方法なんかは練習する必要がないと思われるかもしれない。

 だが、ソイルという阻害魔法のスペシャリストと当たる可能性もあるからね。

 加えて、ソイルに限らず、奥の手として阻害魔法を使ってくる奴がいるかもしれないので、やはり対策はしておくべきだろう。

 といいつつ、俺に対して魔法の出力勝負を仕掛けてくる奴なんか本当にいるのかって思わなくもないけどね。

 ただ、そういった慢心を突いてくる奴がいないとも限らない。

 それに……予選の様子を観た限り、シュウという名の武術オタクのメガネは徒手格闘をメインとしているようだからね……自分でも練習しておいて、いわゆる徒手格闘脳を鍛えて対応力を上げておきたいと思うんだ。

 そうして、しばらく徒手格闘の練習を続ける。


「……よし、それじゃあ……今日もよろしくお願いします! レミリネ師匠!!」


 目の前にレミリネ師匠の姿を思い描き、模擬戦を始める。

 そこで今回は、先ほどまで続けていた練習の総まとめとして、徒手格闘で挑むことにした。

 といったところで、早速レミリネ師匠から剣による鋭い突きが放たれる。

 それを間一髪で躱すも、続けて連撃がくる。


「ハッ! フッ! ……ここッ!!」


 そんな連撃を掻い潜り、反撃の一打を加えようとしたが……アッサリ対処される。

 そしてまた、レミリネ師匠から次々に攻撃が飛んでくる。


「なんの……これしきッ!」


 とはいうものの、やはり防戦一方。

 だが、それでも構わない。

 レミリネ流剣術を徒手格闘で受けて立つとしたら、どういった立ち回りとなるかっていうことを学べるからね。

 とはいえ、武術的引き出しの多いシュウなら、もっと高いレベルで対応可能なんだろうなぁって気はする。

 それでも、一歩一歩自分なりの歩みを進めるしかないからね。

 そんな感じで、夕食の時間までほとんど防御に費やす時間となった……まあ、たまに反撃も試みたりはしたけどね。


「今日もご指導いただき! ありがとうございます!!」


 こうしてイメージのレミリネ師匠にお礼の言葉を述べ、稽古を終えた。


「……フゥゥゥ……やはり、間合いが近くなるぶん、受ける圧が強くなるな……それに、とっさの判断力も一段と要求されるって感じがしたね……まあ、単純に練度が足りてないだけって部分もあるだろうけどさ……でも、これはこれで学ぶ部分もあったし、いい刺激となった……なんというか、レミリネ流剣術をまた違った角度から観ることができたって感じだ……」


 なんて、シャワーを浴びながらブツブツと独り言を呟く。

 そうしてシャワーを浴び終えたところで、男子寮の食堂へ向かう。

 そこで今日は、ロイターたちが先に来ており、俺に少し遅れてヴィーンたちも来た。

 あとセテルタは……たぶんエトアラ嬢と一緒だろうね。

 ちなみに、俺たちは武闘大会の本戦で争うことになるが、だからといって普段の生活スタイルに大きな変化はない。

 そのため、こうして夕食も一緒に食べたりするし、夕食後の模擬戦だって継続している。

 まあ、これまで運動場で公開しながら模擬戦をしてきただけに、今さら手の内がどうとかってことを気にする必要もないだろうからね。

 といいつつ、今週は授業が休みになっているので午前中と、午後から夕食までのあいだは個人特訓の時間としているので、そのあいだに各自何かしら奥の手を模索している可能性はあるけどね。

 そうして適当に雑談を交わしながら夕食を終え、運動場へ移動。

 そこでは、ファティマとパルフェナが既にスタンバっており、俺たちとほぼ同時にエトアラ嬢とセテルタたちも到着。

 また、予選のあいだ減っていたオーディエンスも、今では予選前ぐらいの人数に戻ってきている。

 それに付け加えるなら、王女殿下の取り巻きたちなど、本選進出者たちも見に来ているようだ。

 フフッ、敵情視察といったところかな?

 いいだろう! 存分に見て行くがいい!!

 ただ、この夕食後の模擬戦は平静シリーズを身に着けておこなっている。

 それに対し、学園主催の武闘大会では平静シリーズの着用は認められていない。

 よって、本戦当日の俺たちの動きは、また違うものとなっているだろう。

 そう考えると、ここでの俺たちの動きに目が慣れてしまうと、痛い目を見るかもしれないよって感じだ。

 ……でもまあ、王女殿下の取り巻きたちは平静シリーズを授けられて実際に使っているみたいだし、それ以外の奴らもウワサぐらいは聞いていると思うから、それぐらいのことは想定済みだろうけどね!

 そんなことを思いつつ、今日も元気に模擬戦に取り組むのである。


「ハァ……別に見たいわけじゃないけど……自分の体を動かすよりは楽でいいかなぁ……」


 なんて発言も聞こえてくるが……それはもちろん、めんどくさがりのトイだ。

 おそらく、仲間たちに無理やり引っ張ってこられたんだろうなぁ。

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