第612話 リッドばっかずりぃぞ!!

「今日もご指導いただき、ありがとうございます!」


 イメージのレミリネ師匠に挨拶をして、稽古を終えた。

 そしてシャワーを浴びてサッパリする。


「……さて、そろそろ行くか……それじゃあ、キズナ君! ちょっくら学園の外へ、リッド君たちに会いに出かけてくるよ!!」


 昨日、リッド君たちが到着したという知らせを受けていたのだ。

 それでまあ、移動の疲れなどもあっただろうから一晩の間を置いて、今日会いに行くことにしたのだ。

 そんなわけだから、腹内アレス君! もうちょっとだけお昼は待っててくれよな!!


『……』


 特に腹内アレス君から返事はないけど、とりあえず文句をいってこないので、了承と受け取っていいだろう。

 そんなことを思いつつ、学園の敷地内を歩いていたところ……


「……魔力操作狂いの奴、武闘大会前日だっていうのに……すんごい穏やかな顔をしてやがるな……」

「うん……本戦に進む人たちはみんな、多かれ少なかれピリッとした雰囲気を出してるっていうのにね……」

「いや、さっき見たんだが……トイの野郎はピリッとするどころか、相変わらずめんどくさいって駄々をこねてたぞ?」

「あいつもなぁ……本戦に進むことがどれだけ名誉なことかって分からんわけでもないだろうに……」

「それなんだけど……マジで分かってなかったりしてな?」

「……!! ……ま、まっさかぁ」

「一概にないとも言い切れないのが、ある意味恐ろしいところだ……」

「ま、トイみたいな妖精型思考の奴はともかくとして……魔力操作狂いには、圧倒的自信に裏打ちされた余裕があるんだろうなぁ……」


 妖精型思考……前世でいうところの宇宙人とか天然って感じかな?

 ただ、原作ゲームでは妖精ってほとんどモンスター扱いだったけどね……

 とはいえ、この世界の妖精も、イタズラとか遊び好きっていう前世における一般的なイメージと大きく変わるものではないはず。

 だから、積極的に狩る対象とはみなされていなかったと思う……あまりにもえげつないイタズラをかましてきて「コイツだけは討伐せねば!」って人間族に思われない限りはね。

 まあ、原作ゲームでは「コイツだけは!」の部分が強調されて、モンスターとして出てくることになったのかもしれない。


「そりゃあね……本来なら優勝候補筆頭であるはずのロイター君にアッサリ勝っちゃうような人だから……」

「一応、あの決闘は引き分けとされているはずだけどな?」

「いやいや、誰が見たってあの内容は……なぁ?」

「ああ、そして改めて思ったけど……あそこまでグッチャグチャにしてくれた奴を相手に親友関係を築けるロイターも……なかなかヤベェ奴だよな?」

「結局、アイツもどっかオカシイんだと思うね……俺は!」

「……まあ、あの人に関わる人はみんな、大なり小なり……ね?」


 ……なんて会話を耳にしながら、学園の敷地外へ出るのだった。

 そして街中をしばらく歩いたところ……おっ、あったあった、知らせにあった宿屋っていうのはここだな?

 というわけで、見たところ普通の宿屋……そう、普通である。

 でも、それでいいのだ。

 むしろ、貴族とかが泊るような超高級ホテルだとマズいだろう。

 なぜなら平民……それも羽振りのいい商人とかでもない、パッと見普通の村人だと、いろんな意味で勘違いした貴族が何を言い出すか分からないからね……

 とはいえ、そんな奴には「侯爵家のすることに文句あんのか?」って傲慢をかませば、一発で黙るだろうけどね。

 ただ、下手にリッド君たちが恨まれるようなことになったら面倒だからね、そうならないよう普通の宿屋をチョイスしたギドたちはナイス判断だったと思う。

 それに、あまりにもキラキラ……いや、ギラギラしたホテルだと、リッド君たちも落ち着かないだろうし。

 そんなことを思いつつ宿屋に入った。

 さて、リッド君たちはっと……


「アレス兄ちゃん! 久しぶり!!」

「おお! リッド君!!」


 そう言葉を交わして……再会。

 ふむふむ、前回会ったときから1カ月半ってぐらいだと思うけど……さらに成長しているようだ。

 リッド君の体から発せられる魔力から、そのように感じた。


「……うん、しっかりと鍛錬を積んでいるようだね? 感心感心」


 そういいながら、リッド君の頭をなでる。


「えへへ、そうかなぁ~?」

「ああ、もちろんだよ」

「オイラ、ちょっとでもアレス兄ちゃんに近づきたいと思っているからね! 魔力操作とか剣術とか、いっぱい頑張ってるんだ!!」

「そうかそうか、その成果がバッチリ出ているよ!」

「やったぁ!」

「おいっ! リッドばっかずりぃぞ!!」

「そうだそうだ! オレたちだって、頑張ってんだぞ!!」

「そうとも! リッドに置いて行かれるわけにはいかねぇかんな!」


 そんな感じで、ほかの子たちも声を上げる。

 ほうほう……みんなそれぞれいい感じに成長しているようだ。


「うんうん、みんなもリッド君に負けないぐらい頑張ってるようだね? 一人一人の魔力の感じから、努力のあとがしっかり伝わってくるよ!」

「へへっ! まあな!!」

「ボクだって、やるときはやるのさ!」

「アレスお兄様、私のことももっと見て欲しいわ」

「アタシたちだって、男の子たちに負けてないんだからっ!」


 こうして子供たちに囲まれながら、ワイワイと再会を果たすのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る