第610話 ここぞってときの勢いが違うよな?

「……セテルタ様……本選進出を逃してしまい、申し訳ありませんでした」


 予選通過決定戦を終え、イムスが俺たちの……いや、セテルタの前に戻ってきたときの第一声がそれだった。


「イムスだけではありません! 我々も本選進出を逃してしまい、申し訳ありませんでした!!」


 そうして、セテルタの取り巻きたちが頭を下げている。

 というのも今回の武闘大会、最終的にセテルタの取り巻きからは誰一人として本戦進出を果たせなかったことになるからね……

 でも、みんなそれぞれ頑張っていたし、本当にギリギリのあと一歩のところで勝利を逃したって感じだったんだ。

 なんて、周りがフォローしたところで本人たちとしては……ね。


「いや、僕自身……アレスたちと仲良くなって一緒に模擬戦とかをするようになるまで、自分の腕を磨くことしか考えていなかった……正直、周りのみんなのことにまで意識が向いていなかった……だからこの結果は、これまでの僕自身の姿勢の現れであって……むしろ君たちは、僕の派閥の長としてのふがいなさを責めるべきだ」


 まあ、もともとセテルタはエトアラ嬢のことしか見えていなかったからね。

 そしてセテルタの取り巻きたちは、実家の寄親寄子関係に起因しての集まりという側面が強かった。

 そうなると、自分の想いに正直になる前のセテルタにとって、家同士の関係上トキラミテ家を敵視しなければならない取り巻きたちは、あまり快い存在ではなかっただろう。

 今思い返してみても、セテルタと仲良くなり始めた頃、取り巻きたちに対する態度として若干の壁を感じたし。

 だが、そんなふうにセテルタが軽く放置気味だったからといって、取り巻きたちが丸っきり鍛錬をサボっていたかっていうと、そういうわけでもないと思う。

 彼らなりに努力はしていたはずだ。

 ただ、王女殿下の取り巻きたちの熱量には及ばなかった……それだけだろう。


「……セテルタ様……セテルタ様にそのような発言をさせてしまったこと……深く恥じ入る気持ちでいっぱいです……」


 そうしてセテルタの取り巻きたちは責めるどころか、さらに落ち込むのだった。

 ……さて、ここらでそろそろ空気を変えるとしますかね。

 そう思い、俺が口を開こうとしかけたところ……


「セテ君、反省はそれぐらいにして切り替えましょう……来年、この悔しさを糧に全員で本戦進出を果たすのよ」

「エト姉……」

「それに今年は、みんなのぶんもセテ君が本戦で頑張ればいい……そして、セテ君のカッコいいところを私に見せてちょうだい」

「……うん、そう……だね」


 ……いい。

 この光景……凄くいい。

 お姉さんに慰められる少年という構図……最高だ。

 それにしても危なかった……あのまま俺が下手にしゃしゃり出ていたら、この光景を見逃すところだったかもしれない……


「お前という奴は……」

「まあ、いつものことではありますけどね……」

「よく飽きねぇなぁ……」

「趣味趣向は人それぞれですからねぇ……」

「あはは……」

「……年上」


 とかなんとか、俺に向けてロイターたちがコメントしている。

 それはともかくとして今回のことは、エトアラ嬢のお姉さん力によって丸く収まったといったところだろう。

 そんな感じで解散し、俺は自室に戻った。


「ただいま、キズナ君! 予選通過決定戦が終わったよ!!」


 というわけで、キズナ君に先ほど見てきた内容を語って聞かせた。


「いやぁ、王女殿下の取り巻きたちの熱意ときたら、あれはなかなかのもんだったねぇ……だからこそ、本戦も油断できないよね!」


 おそらく彼らは、ギリギリのところで潜在的なパワーを発揮できるようになっているのだろう。

 それだけ、王女殿下に対する想いが強いということか……

 彼らがそこまで想いを寄せる王女殿下のカリスマ……実にたいしたものだね。

 といいつつ俺だって、王女殿下が20代だったら……心酔してただろうからなぁ……

 そうしてしばらくキズナ君と話をしているうちに、夕食の時間がきたので男子寮の食堂へ移動。

 そして食堂でも、先ほどの予選通過決定戦の話題で盛り上がっていた。


「……イムスの野郎も頑張ってはいたんだけどなぁ?」

「そうそう、あとちょっとのところだったはず」

「やっぱさ、王女殿下の取り巻きたちって、ここぞってときの勢いが違うよな?」

「ああ、予選のときだって、それで格上から勝利をもぎ取ったりすることもあったもんなぁ……」

「正直……初めてAクラスの奴が負けるのを見たとき、信じられんかった」

「うん、あれは衝撃だったねぇ……」

「とりあえず、これで王女殿下の取り巻きから本戦に進むのが5人となったわけだ」

「だな、そして奴らがこのままの勢いで行けば……もしかしたらってことがあるんじゃないか?」

「それはつまり……優勝ってことか? おいおい、さすがにそれは大胆な予想過ぎるだろ……」

「確かに魔力操作狂いたちを差し置いて、それはちょっと……なぁ?」

「でも、絶対ないとは言い切れない……そんな勢いがあるのも事実だからねぇ」

「となると……ワンチャンに期待ってところか?」

「ふむ、奴らの頑張り次第では……武闘大会本戦も意外と面白くなるかもな?」


 まあね……俺も今からワクワクしてるところなんだ。

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