第609話 予選通過決定戦

「俺は将来! 王女殿下の近衛になるんだ! そのためには、こんなところで足踏みしているわけにはいかないんだァァァァッ!!」

「私にも、セテルタ様第一の側近としての意地があります! 故にあなたと同じく、こんなところで負けるわけにはいきません!!」


 王女殿下の取り巻きの1人であるマトゥ・ケウダリと、セテルタの取り巻きであるイムス・オーツヒルによる熱戦が繰り広げられている。

 そう、今日は地の日、そして予選通過決定戦の日でもある。

 それは言い換えると、予選で惜しくも1敗を喫した男たちの本戦に進む最後のチャンスなのである。

 また、今回の予選通過決定戦は、本戦と同じようにトーナメント形式で争われる……最終的に1敗が8名いたからね。

 そうして、たった一つ残された16番目の席を争う白熱した闘いも、早いもので残り2名に絞られた。

 うん、今日見てきた試合……そのどれもが本気と本気のぶつかり合いで実に素晴らしかったし、なかなか学ばせてもらうものがあった。

 そんな見応えたっぷりの試合もこれでラストかと思うと、切ないものを感じてしまうね。


「……ラァッ!」

「なんの!」


 マトゥの想いのこもった一撃を、イムスは丁寧に捌く。


「それならッ!」

「させません!」


 剣による一撃を防がれたマトゥは、至近距離からファイヤーアローを放つ。

 しかし、イムスも即座に障壁魔法で対処。

 ふむ……手に汗握る攻防とはこのことをいうのかもしれない。

 それから、2人共それぞれに見どころがあって、どちらが本戦に上がってきても文句はない。

 だが、セテルタの取り巻きで、夕食後の模擬戦メンバーでもあるイムスを心情的に応援したくなってしまうのは自然なことといえるだろう。


「ハァ……ハァ……まだだ! 俺はッ! まだまだこんなもんじゃねぇッ!!」

「……ハァ……フゥッ……私とて! ここで終わるわけにはいきません!!」


 両者共に、気力も体力も尽きかけてきたようだ。

 そして一緒に観戦していたロイターたちも、同じことを感じたのだろう……


「そろそろ、この対戦も大詰めといったところか」

「ええ、そのようですね……泣いても笑っても、この最後の攻防で決着となるでしょう」

「イムス……頑張れ」

「オラ、イムス! お前も上がってこい! そして本戦で勝負だ!!」

「ここが踏ん張りどころですよぉ!!」

「あとちょっとだよ! イムス君なら勝てるよ!!」

「……全力を出し切るのだ」

「勝ちなさい」

「私たちとの模擬戦を思い出して! そうすれば、まだまだいけるはずだよっ!!」

「そうだ! 苦しいときこそ鍛錬の日々を思い出せ!!」


 予選のときとは違い、待機場もクラスごとに分かれていないので、ヴィーンたちも一緒に応援している。

 そして俺たちが応援しているのと同じように、王女殿下の取り巻きたちも……


「気合だ! 気合で乗り切れ!!」

「負けた俺たちのぶんも、頑張ってくれッ!!」

「行ける行ける! 俺の感覚的にはマトゥ、お前のほうが優勢だ!!」

「マトゥ君、頑張ってぇ!」

「マトゥ、お前の全力はそんなもんか? 違うだろ? だったら、もっともっとお前の強いところを見せてくれ!!」

「マトゥ殿! 共に王女殿下の近衛になると誓い合った仲ではござらぬか、であるならば! 共に本戦の舞台にも立ちましょうぞ!!」

「……」


 ……なんて、あちら側も応援に熱が入っている。

 まあ、王女殿下も取り巻きであるマトゥと応援したいところではあるだろうが、立場的に無言である。

 そしてここまでくると、あとは気力の勝負って感じだね……


「……そうだッ! 俺はッ!」

「クッ……」

「王女殿下の近衛に……なるんだァッ!!」

「……ガ……ハッ……」


 マトゥの一撃が、イムスに入った。


「……グ……フゥッ……ま、まだ……私は、負け……て……」


 なんとか態勢を立て直そうとするイムスであったが……体がついてこず、ダウン。

 そして、再び立ち上がることはできず……


「……そこまでッ! 勝者! マトゥ・ケウダリ!!」


 審判の先生の宣言により、マトゥの勝利が確定した。


「また、この予選通過決定戦の結果により、マトゥ・ケウダリを本選進出者として決定する!!」


 その瞬間、運動場が湧いた……俺の周りを除いて。

 また、その歓声の大きさによってか、一時的に気を失っていたイムスが目を覚ました。


「……私は……そうか……負けたのか……」

「……イムス……今回の勝負、俺とお前のあいだに紙一重の実力の差もなかった……ただ一つだけ、俺のほうが一瞬の想いが強かった……それだけだ」

「フフッ、想いの差ですか……それは実力の差で負けるのとは違った悔しさがありますね……ですが、それはそれとして本選進出おめでとうございます……私のぶんも存分に闘ってきてください」

「ああ、お前の想いも背負って闘ってくるよ」


 そういいながらマトゥとイムスは、握手を交わすのだった。

 なんかこの、闘い終わって友情が芽生えた感じ……いいよね?

 そして16人目としてマトゥが上がってきたか……

 この予選通過決定戦でかなり磨かれただろうからね、そう考えると、本戦で当たるのが楽しみになってくるよ。

 まあ、組み合わせは抽選だし、ほかの15人も実力者ばかりだからね……勝ち上ってきてくれないと対戦には至らないかもしれない。

 さて……俺たちにその機会はあるかな?

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