第608話 実績から考えて

 男子寮の食堂にやって来た。

 さぁて、今日もしっかり食べるぞ!

 なんたって、レミリネ師匠との稽古で思いっきりエネルギーを使ったからね、ちょっとぐらい食べても大丈夫なのさ!!

 なんて思いつつテーブルに料理を並べて、着席。

 そしてやはりというべきか、食堂内は武闘大会の本選進出者についての話題で盛り上がっていた。


「本選進出者の顔ぶれ的に、まあそうだよなって感じだったけど……それはそれとして、ついに発表されたな?」

「ていうか、全勝しないと本戦に残れないとか……俺たち今年の1年男子ってキツ過ぎね?」

「まさに、異常としかいいようがないな」

「そうだねぇ……2年生とか3年生の結果を見てみると、多少負けても本戦に残れたみたいだもんね?」

「だなぁ……そして1年女子も、男子ほどじゃないけどキツかったみたいだからなぁ……」

「うん、さすがに全勝じゃないとダメってわけじゃなかったけど、それでもほかの学年に比べて本戦に進出を決めた子たちの負け数は少なかったからね……」

「そういや、2年女子の結果だけど……エトアラ先輩のほぼ一強状態らしいな?」

「ああ、派閥の全員……は言い過ぎかもしれないが、上位16人にかなりの人数が残ったって話だからな……」

「まあ、勝手に派閥の一員を名乗ってる人もいるだろうから、どこまでを派閥の範囲とするかは意見の分かれるところだろうけど……少なくとも、側近レベルの人は全員本戦に通過したみたいだね」


 うん、エトアラ嬢は当然として、その周りのみんなも無事に本戦進出を果たした。

 いやぁ、多少苦戦した先輩もいたけど、なんとか全員残れてよかったなって感じだよ。

 ま、それも俺たちと夕食後の模擬戦で実力を伸ばした結果ってところかな?

 なんてちょっと調子に乗ってみたり。


「2年女子の中にも個人として強い人はもちろんいるから、そういう人はちゃんと本戦に残っているけど……それはそれとしてやっぱり、派閥の全員を本戦に残したエトアラ先輩はヤベェよな……」

「ああ、2年女子にライバルとなり得る先輩が少なかったのだとしても……凄いことには変わりないだろうな」

「とかなんとかいって……それも結局、あの人絡みなんだもんねぇ?」

「だなぁ……その点、奴と同じような時期につるみ始めたセテルタの派閥の構成員たちは、ある意味かわいそうだったよな?」

「話が戻ることになるけど、1年男子は過酷だったからなぁ……アイツらも違う学年だったら、本戦に残れてただろうよ」


 そうだねぇ、エトアラ嬢とセテルタの派閥は、それぞれ明暗が分かれた形になっちゃったからね……


「そうはいっても、奴らは当然のように全員勝ち越しを決めているし、多くても3敗ぐらいだろ? それ以上はぜいたくってもんだよ」

「そのとおりだ! ここに勝ち越しを逃した奴だっているんだからな! 俺みたいに!!」

「……そう自虐せんでも……とりあえず、ドンマイ」

「う、うぅ……」

「安心しろ……というのも変な話だが、1年男子は全勝やそれに近い戦績を残した者が多くいるだけに、勝ち越しを逃した奴もそれなりに多くいる……だから泣かなくていい」

「そ、そうだよな……ありがとう……」


 まあ、あくまでも現時点での戦績でしかないからね……

 そしてこれから魔力操作の練習など努力を積んでいけば……1年後や2年後にどうなっているかは分からん。

 だから、君らも頑張ってくれよな! 俺も頑張るから!!

 なんて、心の中でエールを送っておいた。


「ま、そんな話は終わりにして……ここからは、誰が優勝するか予想タイムといこうぜ?」

「ハァ? そんなん……魔力操作狂いに決まってんだろ」

「まあなぁ……それまでの実績から考えて優勝候補の大本命となるはずだったロイターが、既に奴との決闘でボコボコにされてるもんなぁ……」

「いや、だからこそロイターさんは『次こそは!』って燃えてるみたいだぞ?」

「うん、たった1度の敗北から、それ以降の全てを決めてしまうっていうのはどうかと思うね」

「そうはいうけど……相手はあの魔力操作狂いだぞ? その呼び名にふさわしく、一日中……それも寝ているあいだまで魔力操作をやり続けてるってウワサもある怪物なんだぞ!?」

「それはつまり、ほかの奴がいくら努力を重ねても、それと同等かそれ以上の努力を奴も重ねるから差が埋まらない……といいたいのか?」

「そのとおり、よく分かってるじゃないか」

「でもアイツ……確かに努力は凄いし、それによる伸びはたいしたもんだけど……根本的な武術のセンスはそこまでじゃない気もするんだよな……」

「う~ん……まあ、もともと魔法寄りの人ではあるだろうからね……」

「そこでお前ら……1人忘れてねぇか?」

「忘れてるって……誰を?」

「シュウだよ、シュウ・ウークーレン! 奴こそ武術の天才だ、優勝はアイツに決まりさ!!」


 ほう、ここで奴の名前が出てくるか。


「シュウか……確かに強い強いって言葉だけはよく聞くけど……実績は皆無だろ? どこまで強いのかっていうと、正直微妙じゃないか?」

「いや、予選の全試合を一瞬で決めたシュウ君だよ? あれを見ただけで、ハンパじゃなく強いってことが分かるでしょ」

「とはいえ、それぐらいならロイターやセテルタたちだって、やろうと思えばできたんじゃないか?」

「できたかもしれんが……シュウほど気持ちよく気絶させてくれたかどうかとなると……なぁ?」

「そうそう、そんな感じでシュウさんは武術的な知識が物凄く豊富だからな……どんな闘い方にも対応可能だろうさ」


 そうだね、武術に関することならなんでもシュウに聞けば解決って認識を俺もしているからね。

 実際、そのおかげでレミリネ師匠のことも分かったわけだし……あのときのことは、本当に感謝している。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る