第607話 貪欲に相手の技術を吸収
「それでは、これにて失礼致します」
「おう! 義母上やみんなによろしくな!!」
「かしこまりました」
こうして報告をひととおり終えたギドと別れ、自室に戻ることにした。
そして宿屋の手配などは、もうする必要がないとか……ま、楽でいいんだけどね。
せっかくの浮いた時間、有意義に使うべきだよな……となると、本戦に向けてみっちり鍛錬を積んでおくべきだろう。
しかもシュウという名の武術オタクのメガネ……やはりアイツが優勝する上で一番の難敵となりそうだ。
それにしても、ウークーレン家か……原作ゲームにはキャラとしてはもちろん、家の名前すら一切出てこなかったと思うんだけどなぁ?
いや、原作ゲームの中でも適当に流し読みしてた部分はあるだろうし、そもそも設定の全てを完璧に暗記しているとまではいえないだろうから、もしかしたらどっかに書かれていたかもしれないけどね。
ただ、そこまでスゲェ設定……最強議論とか大好きな俺が見落としていただろうか?
また、同好の士の皆さんからも一切言及がなかったと思われるのも不思議といえば不思議だ。
うぅむ……この辺は、原作ゲームとこの世界が全く一緒ではないということなのだろうか?
あくまでも原作ゲームがベースとなっているだけ……みたいな?
もしくは、原作ゲーム制作陣の誰かの脳にたまたまこの世界の情報が降りてきて、ゲームのストーリーなどの設定に使われた。
だから、情報として降りてきていないところは微妙に違う……とか?
あとはそうだな……俺という転生者の存在によって世界の書き換えが発生した……なんて考えると、ちょっとカッコいいかも。
ま、世界の設定自体は知らんけど、とりあえず身の回りの人たちに俺が与えている影響はそれなりにあるだろう。
少なくとも原作ゲームの中では、今ほどみんなの魔力操作に対する意識が前向きになっていなかっただろうし……
いや、まだまだ嫌がる奴も多いけど、徐々に「やってみっか!」って人も増えてきているからね。
この調子で、どんどん魔力操作を頑張る人を増やしていけたらと思う。
そんなことを考えているうちに、部屋に着いた。
「たっだいま~キズナ君! さっきね、ギドが面会に来てたんだよ!!」
というわけで、義母上が応援に来てくれることなど、ギドから聞いた話をキズナ君にも聞かせてあげた。
そして話が一段落したところで……
「よっしゃ、夕食の時間まで修行すっか!」
まずは素振りや型の稽古を丁寧におこなう。
俺にとって最高のお手本であるレミリネ師匠の動きを脳内でイメージし、少しでも近づけるように一振り一振り大切に振っていく。
「……フゥ……基本練習はこれぐらいでいいかな? それでは、レミリネ師匠……今日もよろしくお願いします!!」
そして、目の前にイメージで描き出したレミリネ師匠を相手に模擬戦を始める。
ただのイメージとはいえ、それはやはりレミリネ師匠、途轍もなく強い。
その遥か高みに、一歩一歩でも近づいていきたい……
「……それを思えば武闘大会など、なんのそのだ!」
そんな気合を込めた一撃をレミリネ師匠に放つ。
当然のことながら、レミリネ師匠はその一撃をものともせず剣で受け止める。
ただ、いい一撃だったのか、ほんのりと笑顔を見せてくれた気はする……あくまでも、俺のイメージだけどね。
もっともっと、そんな笑顔を見たい……ただ、スケルトンダンジョンでの稽古の記憶がイメージのベースとなっているので、どうしてもレミリネ師匠の姿がスケルトンになってしまうんだよなぁ……
極々一瞬だけ、生前の姿を思い浮かべることができるときもあるけどさ……
とまあ、そんな感じで時間いっぱいまでイメージのレミリネ師匠に稽古をつけてもらった。
「……今日もご指導いただき、誠にありがとうございます!!」
そして感謝を込めた挨拶をして、稽古を終える。
「フゥ……今日も充実した稽古だった……」
なんて呟きを一つして、シャワーを浴びる。
こうしてサッパリしたところで、男子寮の食堂へ向かう。
その道すがら……
「……あ、魔力操作狂いだ」
「本選進出者様のお通りだ……道を空けとこうぜ」
「お、そうだな……」
「やっぱ全勝で本選進出を決めるような人は、道の歩き方も堂々としたもんだよなぁ……」
「いやいや、あの人はずっと前から堂々としてたでしょ……」
「というか、予選の模擬戦中でだって、あんだけ堂々と舐めプをかましてたんだから、そりゃそうだろうなって感じだろ」
「まあ、遊んでいるだけのように見えたかもしれないが……彼の目そのものは本気だったように感じたぞ?」
「うん、貪欲に相手の技術を吸収してやろうって雰囲気はあったと思う……」
「ま、実際に夕食後の模擬戦で、対戦相手から受けた技を試してみたりもしてたっぽいもんな……」
「いや、だからな? 本戦進出がかかってる大事な試合の中で相手の技を盗もうとするとか、舐めプ以外の何物でもないだろって話だよ」
「う~ん、まあ……そこはあの人だから……?」
……とまあ、今日も男子たちのヒソヒソ話が耳に入ってくるのだった。
まあね、俺は相手の動きをよく観るのがクセになってるんだよ……なんてね。
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