第585話 勇気のいること

 今回の「夢の中で集まる」って企画について、参加者それぞれの結果発表を終えた。

 そして、今後の展開について方向性が定まったといった感じだろうか。


「……アイツらの話……お前らも聞いたか?」

「うん、バッチリとね……」

「夢の中でまで鍛錬をしようとしてたなど……正直、そこまでするのかと思ってしまった……」

「ああ、まったくだ……やっぱその辺は魔力操作狂いだし、あんなヤベェのとつるめる奴も、同じぐらいどっかオカシイんだろうな……」

「でもさ、これであの人たちの強さの理由がまた一つ分かっちゃったって感じもするよね?」

「う~ん……ああいう姿を見ると、才能だけじゃないってことなのかなぁって気もしてくるな……」

「おや? ゴリッゴリの才能論者だったお前が、まさかの宗旨替えか?」

「おいおい『才能論者』ってなんだよ……俺は別にそこまでいってなかっただろ……」

「いやいや、自分では気づいていなかったかもしれないが、お前は努力しない理由に才能をよく挙げていたぞ?」

「そうだねぇ、思い返してみれば『俺もあれだけ才能に恵まれれば、そりゃ頑張れるよ……』とか、まあまあ聞いた記憶があるよ?」

「えぇっ! そんなにいってた!? うっわぁ、完全に無意識だわ……マジかぁ、ちょっとハズカシイなぁ……」

「まあ、今気づけたのなら、それでいいんじゃないか?」

「そうだよ、これから頑張っていけばいいんだからさ……とりあえず、今年の本戦は無理めだけどね……」

「おいっ! それいうなって! せっかく、気合が入りそうだったってのによ!!」

「まあまあ、今年が駄目でも、来年につながるかもしれないだろう?」

「そうそう、それに武闘大会だけが全てってわけじゃないんだしさ! 頑張ってたら、どっかで役に立つよ、きっと!!」

「……まあ、そうだな……俺も奴らを見倣って、いっちょやってみっか!!」

「よし、その意気だ!」

「さて、これで僕もサボるわけにはいかなくなっちゃったかな……頑張ろっと!」


 ……へぇ、俺たちの今回の企画は、どっちかっていうと遊び要素強めだったんだけどね。

 それでも、刺激を受けた奴がいたっていうのは、なかなかに嬉しいものがある。

 そして、この世界の努力……特に魔力操作の練習は君たちを裏切ることがないと思うから……ぜひとも頑張ってくれ!!


「……ロイター様と夢でお会いできるですって? なんて素晴らしいのかしら!!」

「私はサンズ君がいいわ」

「アタシはねぇ……ソイルきゅん!」

「あらあら、あなたたち分かってないわねぇ……ロイター様とアレス様の、剣を通した愛の語らいを眺めること以上に幸せなことなどないというのに……」

「ま、その辺のところ、まだまだお子ちゃまには分かんないってことね!」

「でもでもぉ……私はセテルタ様とアレス様の組み合わせのほうがいいなぁって思うの……」

「セテルタ様はもう無理よ……諦めることね!」

「えぇっ! そんなぁ……」

「……あら、自分が主体的に生きることから逃げた人たちじゃない……夢の中でまで主体性を失うとは、本当にかわいそうな方たちね?」

「そうね、組み合わせがどうとか……私には理解できないわ」

「ち、ちょっと、そういう言い方は悪いよ……」

「……主体性ですって? 面白いことをいうのねぇ……あなたたちだって、叶わぬ恋に憧れてるだけの憐れな少女たちでしかないというのに……」

「ま、憧れてるだけで、な~んにもできないから、夢で会いたいとかいっちゃってんでしょ? 逆にそっちのほうがカワイソウって感じ?」

「み、みんな『好きのカタチ』が違うだけなんだからぁ……ケンカはよくないよぉ」

「……確かに、叶わぬ恋なのかもしれない……それでも、私は何度かロイター様と食事を共にさせていただいているし、自分なりに努力もしてきたつもり……それを、ただカップリングとかいって眺めているだけのあなたたちに『何もできていない』などとバカにされるのは許せないわ」

「ええ……あのとき、サンズ君が私にくれた笑顔……あれだけは紛れもない、私だけの宝物……それがあなたたちにあるの?」

「あわわ、2人ともキレていらっしゃる……」

「あらあら、たかだか食事を共にしたぐらいで随分偉そうにいうのねぇ……これだから憐れな少女たちは、ふふっ……あら、ごめんなさい、思わず笑ってしまったわ」

「ま、あのお2人は、食事ぐらいなら誰でも応じてくれるからね! むしろ、相手の迷惑を考えなさいって感じ?」

「でもでもぉ、食事に誘うだけでも勇気のいることだよぉ?」

「……さっきから、アンタは黙ってなさいってーの!」

「えぇっ……そんな言い方ってないよぉ……」


 ……なんか、女子たちは女子たちで変な刺激を受けちゃった?


「……何やら騒がしいようだが、これより本日の模擬戦を開始する! 速やかに意識を切り替え、名前を呼ばれた者は指示された場所に来るように!!」


 いいタイミングというべきか、ここで先生がやってきた。

 そして、全体に向け模擬戦開始の号令をかけた。


「……では、アレス・ソエラルタウト!! それから……」


 おっと、初っ端から俺の出番というわけか!

 よっしゃ、やったるぜぃ!!


「……そ、そんな……まさか、こんな日に限って相手があの人だなんて……」

「あら残念……私との縁はなかったってことかしらね?」

「……ッ!! そんなことないです! 僕はあなたと契りを結ぶ男です!! だから! 僕の闘い、そこでしっかり見ていてくださいッ!!」

「……ふぅん、まずは第一関門突破ってところかしらね……期待しているわ」


 そういえば、朝食前の待ち合わせ場でカップルが出来上がりそうになってたんだっけ……

 確か、あの男子が模擬戦で強いところを見せたら、それでオッケーって約束だったかな。

 しっかし、その模擬戦の相手が俺とは……面白い巡り合わせだね?

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