第586話 甚だ疑問が残るぞ?

「この一戦で僕の運命が決まるといっても過言ではないんだ! 誰が相手だって、関係ない! やるぞ、いいところを見せるんだ!! そして、この最初で最後かもしれない、婚姻相手獲得チャンスを絶対にものにするんだ!!」

「……おやおや、鼻息の荒いことだな? まあ、その意気込みを買ってやりたいところではあるが、それじゃあダメだな……冷静さを欠いている上に、身体も力み過ぎている」

「……ッ!?」

「おっと、別につまらん揺さぶりをかけようと思っていったわけじゃないぞ? 今のお前だと、頭に血が上って突進するばかりといったところだろうからな、それじゃあ一瞬で勝負がついてしまって意味がないんだ……そんなわけだから、いったん落ち着いて冷静さを取り戻したほうがいいな」

「な、何をいって……?」

「ほら、無駄口を叩く前に魔力操作をやってみろ、そして己の魔力に問うてみるがいい……そうすれば、お前の精神状態を魔力が教えてくれるだろうさ」

「………………スゥ……ハァ……スゥ……ハァ……」

「……どうだ? なかなかに魔力が暴れていただろう? まあ、瞬間的なパワーを出したいだけなら、それも悪くなかろう……だが、それだけだと持続性がないからな、ひとたび劣勢にでも立たされたら、すぐにでもしぼんでしまう儚いパワーでしかない……そんなものに頼ってはいかんよ」

「い、一体なぜ……僕にそんなアドバイスを……?」

「簡単なことだ……俺は、全力のお前と闘いたいのだ……いや、もっといえば、お前の中にまだ眠っているであろう力も引き出せたらよりよいとすら思っている」

「僕の中に、眠っている力……?」

「そうとも……まだまだ眠っているぞ? その一部でも、この対戦で見せてくれることを期待している」

「僕に……そんな力が……」

「はいはい、お2人さん、お話はそれぐらいでいいかなぁ~? こっちとしてもそろそろ始めたいんだよねぇ~?」


 ここで、今回審判を務めてくださる女性教師の方から声がかかった。

 なんとなく話し方から、王国騎士団・九番隊隊長のミオンさんを思い出しちゃったね。

 それはともかく……たぶん、俺たちの会話が一区切りつくまで待ってくれていたのだろう、ありがたいことだ。


「これは申し訳ありませんでした……そして、一区切りつくまで私たちの会話を許してくださり、感謝いたします」

「す、すいません……」

「うん、いいよいいよ~それじゃ、準備もいいみたいだから、始めちゃうね?」

「はい、よろしくお願いします」

「お願いします」

「ではでは~両者構えて………………始め!!」


 というわけで、模擬戦開始。

 ……ふむ、俺が冷静になるようにいったせいもあるかもしれないが、対戦相手は開始早々突っ込んで来ることなく、構えたまま動かない。

 そして、俺の動きを見極めようとしているようだ。

 その証拠というべきか、彼から発せられる魔力の雰囲気も落ち着いていて、とてもいい感じだ。


「……ほう、冷静そのもの……いい魔力じゃないか」

「……どうも」


 どうやら、最初に向かい合ったときのような勢い任せだった言葉使いも、落ち着きを取り戻しているようだ。

 そして構えを見た限り、王国式剣術の使い手といったところかな?

 ふむふむ……あちらから動く気はないようなので、こちらから攻めてみるとするか……


「では、先手をいただくとしよう……それッ!」

「……ッ!!」


 まずは挨拶程度に急接近し、斬り上げを放つ。

 それを、相手は丁寧に捌いた。


「うん、いいね……じゃあ、どんどんいこうか」

「……どこからでも! どうぞッ!!」


 流れに乗って、一振り、二振りと木刀を振っていく。


「……ッ! ……クッ!!」

「よしよし! きちんと対応できているな!!」

「……なん! とかッ!!」

「それじゃあ、もう少し重めにいかせてもらおうじゃないか!」

「……グクッ! ……なんて……重さ……ッ!!」


 ある程度のスピードについてこれるようだったので、いくらか力を込めて振ってみた。


「どうした? ここが限度か? まだ大丈夫だよな!?」

「……当……然! 大丈……夫です……ッ!!」

「うん、それでこそだ! お前の強いところ、どんどん見せてくれよ!?」

「いわれ……なくても……ッ!!」


 今のところ、特に被弾なく受け切っているって感じかな?

 この様子から、おそらく彼は防御を重視したスタイルの剣士といったところだろうね。

 フフッ……受けに定評のある魔力操作狂いに攻めさせるなんて、贅沢な奴め!

 ……といいつつ、別に俺は攻撃が苦手ってわけでもないけどね。


「……ハァ、ハァ……このまま、では……トァ……ッ! ……ハァ……」

「ちょっと疲れたから、距離を取って呼吸を整えようといった感じかな? ……でも残念、俺はそんなに優しくないんだ」

「……なッ!!」


 息が上がってきたところで後方に大きく飛んで緊急離脱を図ったようだが、すぐに距離を詰めて追撃したった。


「おいおい、攻めてる俺のほうが運動量としては多いのだぞ?」

「……そん……な……」

「だからな、日頃から魔力操作を同時並行的におこなう練習が必要なんだ……身に染みて分かっただろう?」

「……ぐ……くっ……」

「でもまあ、基本的な防御能力としては……うん、まずまずといったところかな? お前の剣に努力を感じられるよ」

「……ハァ……それ……は……フゥ……どう……も……ハァ……ハァ……」

「じゃあ、次はお前の攻撃能力を見せてもらおうかな?」

「……えッ!?」

「なんだ? まさか、防御しかできませんとかいわないだろうな? それなら、もう勝負を決めてしまうぞ? ……だが、この程度で果たしてあの女子のハートを射止めることができるか……甚だ疑問が残るぞ?」

「……ッ!? ……でき……ますッ!!」


 さて、どんな攻撃を見せてくれるか……

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