第325話 みんなの調子を合わせる

「アタシは昨日……限界を超えた! その力を見せてやる!!」

「へぇ、面白いじゃない……その言葉、期待してるわよ?」

「ハン! 俺だって、それなりに強くなってるんだぜ?」

「この壁の向こうには栄光が待っている! だから、えーこー! セイ! えーこー!」

「えーこー!」

「えーこー! カモン! えーこー!」

「えーこー!」


 最初はちょっとカッコいい感じの導入だったのに……

 なんか約1名が謎なノリを持ち込んだせいで、なんじゃそりゃって感じで俺の障壁魔法への挑戦が始まってしまった……

 いやまあ、前世のドキュメンタリーとかで、共同で作業をする際にみんなの調子を合わせるために歌いながらやる、みたいなのを見たことがある気がするから、そういうことなのかもしれない。


「えーこー! 私はとってもええ子!!」

「えーこー! お前はどうでもええ子!!」


 ……いや、やっぱふざけてるだけかな?

 とりあえず、こうしてよく分からん雰囲気に包まれながら、火の日が始まる。

 そして、使用人たちの挑戦が一段落ついたところで寝たフリを解除。


「おはようございます、アレス様!」

「おはよう……ふむ、また少し進歩があったようだな……いい傾向だ!」

「はい! ありがとうございます!!」


 ちなみに今日は、騎士や魔法士のお姉さんたちはここに来ていない、というか来れない。

 なぜなら、昨日のお茶会参加者の護衛を兼ねた見送りで領境まで行っているためで、たぶん往復で数日かかると思う。

 まあね、あのお姉さんたちはソエラルタウト家に所属している騎士や魔法士の中でも明らかに強者だろうからね、忙しいのも仕方ない。

 ……寂しいけどね。

 それに対し、昨日のクソ親父派らしき騎士は、プライドだけのザコか……新人でまだまだ一人前じゃないから護衛任務に出されていなかったってところかな?

 だって、俺の魔力による圧力で簡単に気絶しちゃったぐらいだからさ……

 それで、その3人組についてだけど、あのまま放置しておくわけにもいかなかったので、光属性で回復させつつ闇属性で気絶したことを忘れさせたというか、あやふやにさせといた。

 あの程度の奴らなら、あれでじゅうぶんなハズ!

 そんなわけで、これといった方法が思いつくまでは、このままクソ親父派の奴らに魔力で圧力をかけて回ろうと思う。

 それに、最初は多少まごついたが、昨日でだいたいの感じはつかめたことだし、今日からはもっとサクサク効率よくいけるだろう。

 なんてことを考えながら着替えを済ませ、朝練をしに訓練場へ向かう。


「お前たち、魔力操作の自主練習も抜かりなくおこなっているな?」

「はい、もちろんです!」

「うむ、よろしい……ならば、その要領でしっかり体力を回復しながら走るぞ! 遅れずについてこい!!」

「はい! 全力でついていきます!!」

「よし、その意気だ! では、いくぞ!!」

「はい!!」


 こうして今日も、早朝ランニングを始める。

 そして、昨日のザコ騎士の体たらくを思えば、俺専属の使用人たちが奴らを追い抜かすのもそう遠くないだろう……たとえ、スタートが非戦闘職だったとしてもね!

 というか、あんなにアッサリやられるのって騎士としてどうなんだってレベルだし。

 そう考えるとなお、この子たちにはキッチリと実力を付けてもらいたいものだ。

 さらにいえば、原作ゲームの強制力が働いて、マヌケ族との戦争が避けられなくなったって場合にも備えておきたいしな……

 正直、寵愛うんぬんって部分については「知るか!」って感じではあるが、かといって俺を慕ってくれている奴が不幸になるのも嫌だからね……

 とりあえず、俺がソエラルタウト家の屋敷にいるあいだで、ある程度の道筋をつけておいてやりたいところだ。

 とはいえ、結局のところ「魔力操作を頑張れ! 魔力操作がすべてを解決してくれる!!」ってだけの話に帰結してしまうんだけどね!

 そんなことを頭の片隅で思いつつ朝練をこなしたあとは、恒例のシャワーを浴びてから朝食だ。


「アレス、今日の午後も空いているかしら?」

「はい、空いてます」

「もしよかったら、私とお茶でもどう?」

「はい! 喜んで!!」


 なんてノータイムで快諾したものの……なんだろうね?

 やっぱ、昨日ギドにも指摘されたように、「あなたの態度は、他家のご夫人を口説いているように見えるから気を付けなさい」みたいな感じの説教をされちゃうのかな?

 あ、そういえばまだ、義母上にソエラルタウト家を継ぐ気がないって話をしてなかったよな……もしかして、それか?

 まあ、それについては一応、ルッカさんから報告はされてるだろうけど、俺本人の口から話したわけじゃないしな……

 いや、待てよ……ひょっとすると、昨日から始めたクソ親父派狩りが早速バレたか?

 でもまあ、それだって「使用人にあるまじき言動だったので……」の一点張りでごり押すつもりだけどね。

 ただ、小言の一つぐらいは頂戴することも覚悟しておかねばならんかな?

 それとも、「マヌケ族を探してるんです」って正直にいったほうが早いだろうか?

 う~ん、どうすっかな……

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