第324話 判別するいい方法が思いつかなかった
義母上たちとの夕食を終え、訓練場にて模擬戦をしている。
ただし、今回も兄上は仕事で参加していない。
また、騎士や魔法士のお姉さんたちも、お茶会参加者の護衛を兼ねた見送りに出払っているため、参加していない。
それから、アレス付きの使用人たちの多くも、通常業務に加えてお茶会の後片付けなどをしているため、参加率は低めとなっている。
そんな感じで少人数の模擬戦となっているが、そのぶん一人一人丁寧にじっくりと向き合えるというものだ。
そして、アレス付きの使用人が相手だと、どちらかというと指導モードにスイッチが入る。
これにより、一層濃密な模擬戦となっていることだろう。
加えて、相手に回復魔法もかけてやっているので休憩もほとんどいらない、まさに気力勝負となっている。
「うむ、いいぞ! 今の捌きを忘れるなよ!」
「はっ、はひぃ!」
「おっと、その一振りは不用意だったな……それだと、こんな返しがくるぞ?」
「はわわ! も、申し訳……」
「いや、これは訓練なのだ、謝る必要はないぞ? それよりも、肉体感覚として記憶するよう努めろ」
「はわぁ~いっ!」
ああ、こうしてるとレミリネ師匠との稽古を思い出すなぁ……
ダンジョンにいるときは、言葉なんか分からなかったけど、それでも雰囲気で伝わるものとかもあったしさ……
まあ、カッコよくいってみたけど、実際のところボコボコにされながら学んでいったって感じだね。
「……アレス様の施す訓練って、下手したら俺らの通常訓練よりキツイんじゃねぇか?」
「うん、見た感じ……さっきから休憩らしい休憩もしてないみたいだし……」
「フン、これだから素人は困るのだ……あんなことをしていては早々に潰れるに決まっている」
「う~ん、まあ、お前のいうことも分からんではないけど、アレス様だってその辺のところはキッチリと見極めてやってると思うぜ?」
「そうそう……それに、あの子たちの目からもまだまだ『負けへん!』って気持ちが伝わってくるでしょ?」
「それがいかんのだ、中途半端な根性論は身を亡ぼすだけだとなぜわからぬ?」
「あ~すまん……俺が余計なことを口走っちまったのがいけなかったみたいだな……とりあえずそのカッカした熱をシャワーでも浴びて冷まそうぜ? そんでもって、これから一杯いくってのはどうだ?」
「おおっ、それはいいね!」
「フン、そんな気分ではない……これで終わりというなら、失礼させてもらう」
「お、おう……」
「お疲れ~」
いくらか離れたところで自主訓練をしていたであろう騎士たちのうち1人……俺のやることにケチを付けていた奴だが、あれはおそらく、クソ親父派だろうな。
とりあえず、要チェックっと。
「うぅ……まだまだぁ……」
「チッ……こんなことなら……学園でもっとマジメにやっとくんだったな……」
「ここが……踏ん張りどころさぁ……」
「超えろ……アタシの限界……超えろォッ! ……アタシの限界ィィッ!!」
そして、フラフラになりながら、なおも頑張る使用人たち。
俺は、お前たちのような奴が嫌いじゃない。
だから……徹底的にしごいてやるぞ!
「よし、その意気だ! どんどんこい!!」
こうして、濃密な模擬戦の時間が過ぎていった。
その後は、いったんお風呂はお預けにして浄化の魔法で済ませ、使用人たちとポーションとソフトドリンクで一杯やった。
フッ、模擬戦で得た高揚感のおかげでアルコールは必要ないのさ。
といいつつ、俺って前世でもハタチ前だったし、未だに酒って飲んだことないのよね……だから酒に酔うって感覚を知らなかったりするのだ。
まあ、どうでもいいことだったかな?
そんで部屋に戻り、昨日と同じように寝室に偽装工作を施して外出する。
さて、狩りの時間だ……
とりあえず、先ほど要チェックした奴でも追ってみますかね、まだ近くにいるみたいだし。
そうして、奴の魔力の痕跡を追っていくと……
「あの愚かなご子息に感化されてしまったのか、最近は勘違いをした者が増えてきて困ったものだよ」
「ああ、それなんだが……先ほど同僚の騎士が愚かなご子息の素人芸を褒め始めてな、聞くに堪えんありさまだったぞ……」
「なんと! それは由々しき事態ではないか!! それで貴様は黙って聞いていたというのか!?」
「なんの! しっかりと反論したが、情けないことに奴らは聞く耳を持たんのだ!!」
「ふぅむ……それは実に困ったものだ……」
アイツ、同僚との飲みニケーションを断ってまで、俺の陰口大会を選ぶとは……どんだけだよ。
まあね、マヌケ族の口車っていうのは、それぐらい乗り心地がいいのかもしれなけどさ。
いや、アイツ自身がマヌケ族なのかもしれないけどね。
それで、アレコレ考えてみたんだけど、結局マヌケ族を判別するいい方法が思いつかなかったんだよね……
だから、少しばかり力づくでいっちゃうことにした。
というわけで、あのクソ親父派と思われる3人組に魔力で圧力をかけてみる。
くだらんプライドの高いマヌケ族のことだ、おそらくこれだけで「劣等種族の分際で、舐めた真似を!」とかいってキレながら正体を見せてくれることだろう。
「な……んだ?」
「ぐぐぅっ……これ……は!?」
「ぬぅ……んっ……」
……あっ、3人組が気絶しちゃった。
ということは、彼らはマヌケ族ではなく、人間族だったってことか……ハズレだね。
ちなみに、使用した魔力の圧力だけど、念のため俺とは容易に判別できないように気を付けてはいる。
とはいえ、魔力の扱いに巧みな人が相手だと見抜かれてしまうかもしれない。
だが、別にバレたらバレたで、どうってことはない。
なぜなら、侯爵子息に無礼を働いた罰だと傲慢をかませば、それで一発だからね。
フッ、俺も意外と甘くないんだぜ?
……おっと、俺のイキリ虫も今日は絶好調のようだね。
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