第449話 浅慮でした

 しかし、急に魔力の在り方が反転するとは……モンスターの襲撃という騒ぎに乗じて火事場泥棒にでもなったのだろうか?

 もしそうなら、なんとも愚かなことを考えたものだ。

 そんなことを思いながら、弱々しいながらも反転した魔力の持ち主のところへ向かったところ……


「……なんのつもり?」

「お嬢さん……お願いだから、その子をこっちに渡してくれ」

「それはできない」

「私も手荒なことはしたくないのだ……分かってくれ」

「あなた程度が私に危害を加えることができるつもりなら、勘違いも甚だしい」

「サナ姉ちゃんに付け加えさせてもらうけど、おっちゃん……俺っちは戦いにあまり興味がないけど、だからといってまったく身を守れないってわけじゃないぞ?」


 どうやら反転したオッサンはカッツ君の誘拐を企てようとしているみたいだが……ソレバ村の人じゃないのか?

 また、サナのことを普通の村娘、カッツ君のことも非力な子供と甘く見ているようだが……実力の差を認識できるほど魔力操作に習熟していないのだろうな……


「やれやれ、オッサンは魔力操作の練習に励んでから出直したほうがいいな」

「おう、アレス兄ちゃん」

「あっちは戦闘終了……か」

「だいたいな、そんでこっちが気になったから来てみたってわけだ」

「また子供か……頼むから邪魔せんでくれ」


 まあ、アレス君の身体は成人を迎えていないし、今は冒険者用の装備ではなく平静シリーズのジャージ姿だからね、子供扱いも分からんではないが……オッサン、見る目がなさ過ぎだぞ?


「それで、オッサンはカッツ君を攫ってどうするつもりなんだ?」

「攫うのではない……うちの村を手伝ってもらいたいだけだ!」

「はぁ? それならソッズ村長に頼めばいいだろ、今なら活きのいい若者を派遣してくれるはずだぞ?」

「それはもう頼んだ! だが、中途半端な若者を派遣されて失敗したらどうしてくれる!? 見たところ、その子こそが本当に畑を蘇らせることができる奇跡の子ではないか!!」

「ああ、そういうことね……でも、畑の土を元気にしてやるぐらいなら、マジで若者たちでじゅうぶんだと思うぞ?」

「なぜそう言い切れる!?」

「なぜって、そうだな……ま、見てろ」


 そういいながら、その辺に生えてる雑草を適当に引き抜き、魔力を込めてみる。


「こんな感じで魔力を込めていくとな……その草の魔力許容量を超えた辺りで枯れてしまうんだ。そんなわけで植物……もしかしたら全ての生物もそうかもしれんが、魔力を込め過ぎることこそが問題になる。だから実際のところ、畑の土の状態をある程度把握さえできればそれでよかったのさ。そして訓練の末、それができるようになった若者が派遣されるんだから、特に心配する必要はなかったんだ」

「だ、だが! 先ほど若者がその子に魔力が荒っぽいとかいわれていたのを見たぞ!?」

「そりゃあ、カッツ君ほど大地に寄り添える子はなかなかいないだろうからな」

「そらみろ! やっぱり、その子じゃなきゃ駄目なんじゃないか!!」

「いや、そうじゃなくてな……そもそもカッツ君1人で村の畑の全てを面倒見るのは保有魔力量的に無理なんだ。そこでお前のところの村人みんなが協力しなきゃならんわけで、そうなると多少の荒っぽさなんかはたいした差でもなくなる。そして何度もいうようだが、野菜が育つ程度の土の状態を確認できる奴が必要だっただけで、それにはカッツ君ほどの才能は求められていないんだ」


 ま、空気中の魔素濃度なんかも植物の成長に影響するらしいが、それは室内とかのほうが重要な要素だろうし、ややこしくなるのでこの場合は言及しないでおく。


「そ、そんな……」

「モンスターの襲撃があったばかりだというのに……これは一体なんの騒ぎですかな?」

「……ズートミン、何をしておる?」


 モンスターを倒し終え、村が落ち着きを取り戻し始めたところでズートミンとかいうオッサンの怒鳴り声が注目を集めたのだろう、ソッズ村長と見知らぬ年配気味の男が現れた。


「……その子を村に……連れ帰ろうと……そうすれば、村が助かると思い………………申し訳ありません」

「ズートミン! お主、何を考えておる!!」

「私の……浅慮でした……」

「この愚か者が! 村の者が申し訳ないことをした! このとおりお詫び申す!!」


 話しぶりから支援要請に来た村長らしき年配気味の男性が、ソッズ村長に深々と頭を下げている。


「……アレス殿、彼の話に相違ありませぬか?」

「……」


 ここで「モンスターの襲撃によりパニックに陥ったみたいなんだ」とでもいおうかと思ったが、手遅れ感があったので小さく頷くにとどめた。


「昨日、支援の約束をしたではないか……なぜカッツを連れ去ろうと考えた?」

「我がソリブク村は特に産業があるわけでもない……ソレバ村のような主要な街道に面しているわけでもない……だから! 作物が育たなければ厳しい冬を乗り越えるなど不可能!! そう思えば……奇跡の子たるその子を村に連れ帰らねばならない……そう思ってしまったのです……」

「ズートミン……儂が不甲斐ないばかりにすまぬ……そしてソッズ村長、悪いのは村の運営に失敗したこの儂だ……儂はどうなってもいい、だが、村のことだけは……お願いだ、どうか村の者たちだけは助けてやってくだされ! なにとぞ!!」


 そういって、泣きながら懇願するソリブク村の村長……

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