第450話 どう決着をつけるか

 ズートミンとかいうオッサンを改めて見てみると……外見的には真面目そうである。

 また、今回のやらかしによって青ざめているのもあるだろうが、かなりやつれた感じだ。

 そしてソリブク村というのがどんなところか知らないが、話の内容から察するに農村と呼ばれるような農業に特化した村なのではないかと思う。

 考えるに、このオッサンは真面目過ぎたのだろう。

 作物が育たなくなってしまった現状からソリブク村の未来を憂い、神経をすり減らし続けて精神的に参ってしまったんじゃないか……そんな中で、今回のモンスターによる襲撃だ。

 たぶん、魔が差したのだろうな。

 おそらく普段の精神状態なら、こんなことをしようなどと思いもしなかったはず。

 ……いや、もしかしたらマヌケ族の関与があったとは考えられないか?

 魔力探知で探ってみた感じ思考誘導の魔法の痕跡は見当たらないが、ここまで精神的に追い詰められた人間が相手なら、言葉だけでじゅうぶんだろうし。

 まあ、何か悪いことがあるたびマヌケ族の暗躍を疑うのはよくないかもしれないが……可能性としてはあり得ると思う。

 ソリブク村の2人がソッズ村長に謝罪と懇願を続けているあいだ、そんなことを頭の中で考えていた。


「2人とも、もうそれぐらいで……」


 しばしの沈黙の末、ソッズ村長が口を開く。

 おそらくどう決着をつけるか悩んだのだろう、それが沈黙の長さに表れていた。

 それに対しソリブク村の2人は涙や汗、そして鼻水まみれのグチャグチャの顔をそのままに、ソッズ村長の結論を待つ。

 そうして、ソッズ村長は硬い表情と声で言葉を紡ぎ出す。


「……幸いにして今回、アレス殿とそのお仲間のおかげもあって未遂で済んだ。そして、ソレバ村としてはあまり事を大きくしたくはないが、かといって何もなしということもできない……また、ソリブク村の人々が飢えに苦しむのを完全に見捨てるのも心苦しいものがある……よって、昨日の段階では村同士の助け合いということで物資を無償で支援する予定だったが、今回のことで有償とさせていただく。詳細についてはこのあと詰めることになるが、まず物資についてはここまで」

「ひとまず飢えをしのげること! 感謝の念に堪えませぬ!!」

「ありがとうございます!!」


 不作の影響でソリブク村にどの程度食べ物がないのか不明だが……下手したら餓死者が出ていた可能性もあったのかもしれないな。

 まあ、領民を大切にする領主なら、そっちのほうから支援もあったかもしれない。

 でも、ソレバ村を除く領全体が不作なんだろうし……とりあえず農作物は無理そう。

 となると……獣やモンスターの肉とかダンジョンのドロップ品あたりかな?

 あれ? 待てよ……ソリブク村はモンスターを狩らないのか?

 ゴブリンとか、この世界的に低コストであろうモンスターなら枯渇せず湧いて出て来てくれそうなものだが……?


「……それから、ソレバ村の者を派遣するのは取りやめとする……これは理由を説明するまでもなかろう」

「……はい、当然のことと……存じます……」

「申し訳……ありません……でした……」


 有償とはいえ物資が手に入ることに安堵していたソリブク村の2人だが、おそらく覚悟していたことであっても、ソレバ村から若者の派遣が取りやめとなったことで再び暗澹たる顔色に戻った。

 でもまあ、誘拐されかかったところに村の人間を送ろうと考える村長なんかいないだろうからね、これは仕方ないだろう。


「……まあ、この村がどうやって不作を免れたかは2人も見て理解したことであろうから、冒険者ギルドなりで地属性の魔法が得意な者を雇えばどうにかできよう。それと土に魔力を込めることについて、もともと領主様も知っておられることだったかもしれないが、今回念のためこちらから報告も送っているので、もしかしたら領軍の中から魔法士殿を派遣してもらえるかもしれん」

「不始末をしでかしたにもかかわらず、我が村を気遣ってのお言葉……まことかたじけない……」

「ありがとう、ございます……」


 地属性の魔法が得意な奴ねぇ? いなくはないだろうが、基本戦闘向けの奴ばっかだろうからな……

 そして領軍から魔法士の派遣というのも、確実にあるとはいえんだろう。

 ふむ……ここまできたら、アレスさんがちょいと手を貸してやろうかね?

 それに、マヌケ族がいたらついでに始末するのもよかろう。

 なんて考えているあいだにも、ソッズ村長の話は進み……


「最後に、これから……少なくとも物資に対する償還を終えるまではソリブク村の者がソレバ村に立ち入ることに制限を加えるとともに、ズートミンについては無期限に一切の立ち入りを認めないこととする」

「寛大な処置に、感謝いたします」

「ありがどう……ございまず……」


 まあ、犯罪者として公に裁かれていた可能性もあるわけだからな……かなりの温情といえるだろう。

 これについて、ソッズ村長の判断は甘いといわれるかもしれない。

 だが、だからといってあまり苛烈にいくと遺恨を残すことにもなりかねないだろう。

 それにソリブク村の村長が庇うような姿勢を見せたことから考えても、おそらくズートミンは村の中でそれなりのポジションなのだと思われる。

 よって、これぐらいで勘弁したのも、これから先の村同士の関係を考慮した上でソッズ村長が出したギリギリの落としどころだったのではないだろうか。

 そんなことを思いつつ、ソレバ村からの結論も出たことだし、そろそろ俺が発言してもいいかな?


「話が一段落したところでソリブク村の村長に提案だが、魔法が得意な冒険者として俺たちを雇わないか? その辺のザコを雇うよりはよっぽど安上がりな自信があるぞ?」

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