第448話 不測の事態が起こらないとも限らないので

「俺っちは戦いにあまり興味がないから、ここで畑の様子を見てるよ……それに、あれぐらいだったら大人たちだけで大丈夫だろうし……」


 まあ、モンスターの群れの規模としてはそこまでではないからね、おそらくカッツ君の見立ては正しいと思う。

 ただ、不測の事態が起こらないとも限らないので、一応様子を見に行くつもりだ。


「大丈夫だとは思うけど、気を付けるんだよ?」

「……念のため、私がここに残る」

「よしサナ、頼んだぞ!」


 こうしてカッツ君とサナを畑に残し、モンスターの群れが接近してきている村の北側に向かう。

 そして新入りなのだろうか、オロオロして次の行動を決め兼ねているらしき初めて見るオッサンもいないではない。

 それに対し、多くの顔見知りの村人たちは既に防衛準備のため移動している。

 ま、今回については村の中にまでモンスターが入ってくることもないだろうし、サナもいるからさほど心配なかろう。

 そんなことを考えているうちに、北側の外壁に到着。


「ラッズ、昨日ぶりだな?」

「おお、アレスさんたちじゃないか! いやぁ、騒がしくてすまんな!!」


 ラッズが昨日プレゼントした平静シリーズのレインコートを着て現場に来ていた。

 いや、雨は降ってないんだけどね。

 まあ、単なる防御用って感じだろう、周りにも平静シリーズを身に付けた村人たちもいるし。

 それから雰囲気的に、ラッズが村長の息子ということで指揮官の立場なのかもしれない。


「冒険者としては騒がしいことなど大した問題ではないが……そっちの準備はどうだ?」

「ああ、村にいて戦える奴はだいたいそろったし、あとはモンスター共がこっちの射程距離に入るのを待つばかりだな!」

「ほう……射程距離とな?」

「これを見てくれ!」


 そしてラッズが、誇らしげにクロスボウを見せてきた。

 また、周囲にいる村人たちの多くもクロスボウを手にしているようだ。

 ちなみに、テグ助もクロスボウを持って隊列に加わっている。


「なるほど、それだけあればじゅうぶんな戦力といえそうだ」

「実はこれな、アレスさんが捕まえてくれた盗賊団の懸賞金でそろえたものなんだよ」

「へぇ……てっきりそれは外壁の費用に充てられたものだとばかり思っていた」


 確かここに来る前に立ち寄った街でも、オッサンたちがそんなような話をしていた気がするし。


「ああ、これか? カッツが俺たちに『大地の声を聞くには……』とかいって、ひたすら土とか石を魔法で作らせてきてな……それをその辺に放り投げておくのはもったいないってことになって、こうして積み上げてみたのさ。そんで大人たちのマネをしてか、子供たちも同じようにやりだしてな……まったく、積み木遊びか何かと勘違いしてやいないかって感じだったぞ?」


 そういえば前来たときも、子供たちは俺が話した前世の雪合戦を模してエアーボール合戦なんてやっていたっけ……

 それもふまえて考えると、子供たちにとってはその延長線上のことだったのかもしれん。


「フッ……子供たちにとっては遊びと大して変わらなかっただろうな」

「ははっ、アレスさんもそう思うか! そんなわけでな、俺たち村人が割と適当に作った壁だからこれはほとんど費用がかかってないんだ……ま、そのせいもあってか、見た目はなかなかブサイクだけどな! だっはっはっ!!」

「いやいや、質実剛健って感じがして俺はいいと思うぞ? それにこれなら、盗賊もびびって近寄って来ないんじゃないか?」


 まあ、ソエラルタウトの実家で新設した雪の街は、壁にも装飾が施されていたけどね。

 ただ、あっちの場合は観光地にするつもりだし、ソエラルタウト家の見栄もあるから単純に比較はできまい。


「だといいんだがなぁ……」

「ラッズ~! もう少しで射程距離じゃないかァ!?」

「そろそろか……ま、俺たちだけで大丈夫なつもりだけど、もしかしたら助太刀を頼むかもしれない、そのときはよろしくな!」

「ああ、任せてくれ!」


 まあ、俺たちがササッと片付けてもいいんだが、村にもメンツってものがあるだろうしな……

 それに、この程度をどうにかできないようでは、村としてやっていけないともいえる。

 ただね……この前のヒーローの因子を持ったゴブリンみたいにイレギュラーなケースもあるから、なんともいえない部分があるのも確かだ。

 よって、ラッズの今の言葉にはそういった意味も含まれているのだろうと思う。

 といったところで、そろそろ戦闘開始のようだ。


「よぉーし、まずは魔法組がゴブリンの足元に穴を掘ってやるんだ! でっかい穴じゃなくていい、躓かせるだけでいいんだ! 大丈夫、練習どおりやればいいんだからな!!」


 30体ほどのゴブリンが約50メートル離れた位置に到達した辺りで、ラッズが号令をかけた。

 そして、魔法組と呼ばれた村人たちの魔法が発動し、多数のゴブリンたちが急にできた穴ぼこに足を取られて転倒していく。

 それによって後方を走っていた20体ほどのオークは急に止まることができず、そのままゴブリンを撥ね飛ばしながら、または踏み潰しながら前進している。

 だが、運悪くというべきか、オークの中には地面に転がったゴブリンに足が絡まったり、踏み潰されたゴブリンの血か何かに滑ったりして転ぶ者もいる。

 まあ、ところどころ地面に穴も開いているからね、それらに足を取られた奴もいるかもしれない。

 あと……転倒を免れたオークの中には、引き返して転倒したゴブリンにかぶりつく奴もいた。

 やっぱりね、最初に魔力探知で探ってみたとき、なんとなくゴブリンたちに切羽詰まった感があったもんね。


「いいぞ! そのままクロスボウ組はガンガン撃ちまくれ! 特にまだ転んでないオークからだぞ! シッカリ狙えェェッ!!」


 そして転倒を免れ、こちらに向かってくるゴブリンやオークたちも、クロスボウの矢によってハリネズミのような姿になりながら1体、また1体と倒れていく。

 そのようにして地面に立っているモンスターがいなくなったところで、防衛戦……と呼ぶには一方的な戦闘は終盤を迎える。


「よっしゃ! あとは死んだふりをしている奴がいるかもしれないからな、念のため魔法組はとどめを頼むぞ!!」


 戦闘が終わったと思い、ノコノコと素材の回収に向かったところで逆襲を受けたらアホらしいからな。

 この際、俺はほかにもモンスターの群れがないか確認のため魔力探知で周囲を探ってみたのだが……ん? 村の中というか、カッツ君とサナの近くで急に魔力の在り方がよろしくないほうに反転した奴がいるぞ?

 とはいえ、特に隠蔽した感じもないので、マヌケ族というわけではなさそう……

 だが、そう高をくくってミスったら嫌だからな、一応様子を見に行くとしよう。


「ラッズ、少しこの場を離れる」

「おう、分かった!」

「ギドたちは念のためここに残っててやってくれ」

「かしこまりました」

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