閑話15 エリナは武闘大会の感想などを語り合う

「ふぅ~っ、ひとまず今年の武闘大会も無事に終了することができたといったところかしら……あとは、国王陛下や観覧された各家の方々が何事もなく王都や領地にお帰りいただけることを願うばかりね……」


 闘技場での作業と見回りを終え、研究室に戻ってきたところでそんな独り言を呟いた。

 ただ、無事に終了したとはいったが……学園長は、さっそく中央の文系貴族辺りから「今年の武闘大会は少々過激過ぎたのではないか?」といった小言を頂戴したようだ……

 まあ、例年に比べて元気があったのは確かだろう。

 しかしながら、私が元宮廷魔法士だからというのもあるのだろうが……そのような生徒たちの成長は歓迎すべきことだと思うのだ。

 それに、不穏な動きを見せている魔族もいるわけだし……

 そうして何かあったとき、生徒たち一人一人が自衛できるように……少なくとも、危険な状況から逃げられるようになっておいてもらえたらという思いを強く持っている。

 とはいえ、そもそも論として、そういった状況を未然に防ぐことができればいうことなしなのだろうが……敵対行動を取っている魔族側も必死なのだから、残念ながら全てを完全に防ぐことは難しいといわざるを得ない。

 そのようなことを考えているうちに……自然とアレス君の影響力について思考が向かう。

 というのが、今年の1年生は本当にアレス君の影響をよく受けているのだ。

 毎年、多くの教師が魔力操作の指導に苦労するというのに……今年は、アレス君がことあるごとに魔力操作を周囲に勧めているおかげで、例年より習熟度の上がり方もいい。

 その成果は予選でも実によく表れていたし……実際にアレス君と対戦した子に至っては、それまでより目の輝きが増しており、さらなる成長が期待できそうなぐらいなのだ。

 そんなことを考えていると、研究室のドアがノックされている音が聞こえた。


「どうぞ、開いてます」

「武闘大会の運営お疲れ様で~す……そ・し・て! アレス君の優勝おめでとうございま~す!!」


 研究室にやってきたのはミオンだった。


「……ミオンも会場警備お疲れ様……といいところだけど、今年は夜間に移動を始める貴族家の護衛は割り当てられていないのかしら?」

「や~ん! さっそく話題を逸らしてくれちゃいましたねぇ~?」

「はて……なんのことやら? それはそうと、本当にサボっていないわね?」

「もう~っ、本当にサボってませんってばぁ! ウチの隊は明日出発する家の護衛をすることになっているんですから!!」

「そう……それならいいわ」

「ちなみにですけど、アレス君のお父さんであるソエラルタウト侯爵も今晩移動するみたいですよぉ? 知ってました?」

「そう……行動の早いソエラルタウト侯爵らしいといえば、らしいわね……」

「昨日も一昨日も会ってないみたいですしぃ……せっかくアレス君が優勝したんだから、一声ぐらいかけてあげればいいと思うんですけどねぇ? まあ、いろいろ不仲説とかも耳にしてますけどぉ……アレス君となら、その一言ですぐ仲直りできちゃいそうだと思いません?」

「そうねぇ……もしかしたら一度手合わせでもしてみたら、意外とすんなり行くかもしれないわね……」

「アハッ! 拳で語り合うってやつですねぇ? ああ、そういえば……ソエラルタウト家を敵視している、あのダンルンカク家のテクンド君とも試合を通じて仲良くなったみたいですもんねぇ? えぇと、なんでしたっけ……あのホムラ言葉の……タイマン張ったら……ズッ友……でしたっけ?」

「一応……ズッ友ではなく、マブダチだったと思うけれど……まあ、そんな感じね」

「あ~っ! そう、それ! マブダチでした!! あぶないあぶない、アレス君に聞かれたら幻滅されてしまうところでした……」

「たぶん、苦笑いで済ませてくれるわよ」

「ほぉ~う? やっぱり、アレス君のこととなると、センパイは詳しいですねぇ~?」

「……ミオン……なんだったら私たちもタイマンを張って、親交を深めてみましょうか?」

「……ッ!! い、いえいえ~っ! それはまたの機会に! ホント! マジで!!」

「あら、つれないのねぇ?」

「センパイ……その笑顔で学生時代、何人の男子にトラウマを植え付けたと思っているんですか……」

「さぁ?」

「うわぁ……その顔、完全に覚えてないって顔だぁ……」


 あの頃は魔法の練習に夢中で、それ以外のことはあんまりだったものねぇ……いえ、それは今もあまり変わっていないかも……


「ま、まあ、それはともかくとして……今年の1年生は凄い子がたくさんいますねぇ? この前の野営研修からの成長具合とかも含めてアタシ、ビックリしちゃいました!」

「ええ、それは同感だわ……みんな、日々とてもよく伸びているものね」

「きっと今頃は騎士団でも魔法士団でも、それぞれの隊長たちが自分の隊に迎えたいとか期待を膨らませているところでしょうねぇ」

「今のところ、騎士団や魔法士団に入団を希望していない子も割といるのだけれどね……」

「アハハ……それはまあ、卒業までに気が変わることを期待してって感じですかねぇ……」

「それで、ミオンは声をかけたいと思った子はいたのかしら?」

「そうですねぇ……それこそみんな魅力的だと思いますけど……ライクラッツ家のトイ君なんかは、上手く育ててあげればとっても面白い成長を遂げてくれそうだなって感じましたね」

「……仮にそのときがきたとしたら、あなたのゆるさに影響を受け過ぎなければいいのだけれど……」

「あぁ~っ、ひっど~い! アタシだって、訓練のときとかはビシッとキメるんですからねぇ~っ!?」

「ふぅん、そう……それならいいのだけれど……」


 そんな感じでミオンと武闘大会の感想などを語り合う。


「ああ、そうそう……不仲説で思い出しましたけど、やっぱりミーティアム家とヨーエン家の溝は深いみたいですねぇ……」

「やはり……」

「会場警備中に見た感じ、ミーティアム伯爵はあんまり意識してなかったみたいですけど……ヨーエン辺境伯は武闘大会を観覧中、ピリピリした雰囲気を微妙に隠しきれていませんでしたから……」

「……そこに魔族の影はありそう?」

「う~ん……騎士団でも調査はしていますけど……今のところそれらしいものは見つかっていませんね……」

「そう……」


 まあ、サーリィさんを見た感じ、魔族による思考誘導を受けた様子もなかったからね……


「まあ、今はまだ魔族がちょっかいを出してないかもしれませんけど、これからはどうか分かりませんからね……騎士団としても、このまま調査は続けて行くと思います」

「ええ、それがいいわね……あとは、ヨーエン家が辺境伯に任じられるよう動いた家なんかも注意が必要かもしれない……」

「あぁ……あの辺は一癖も二癖もあるめんどくさい家がひしめていますからねぇ……」

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