第16章

第766話 エンジョイ

「おはよう、キズナ君! 今日からまた新しい日々の始まりだよ!!」


 というわけで、昨日武闘大会が無事終了し、今日は地の日!

 そして、昨日の今日ということで、学園の授業は休みなのである。

 まあ、本戦進出者とはいえ2年生は昨日、1年生に至っては昨日一昨日と観戦者として身体を休める時間があったわけだけどさ。

 でも、3年生の本選進出者は昨日本番だったわけだから、ちょっとぐらい休みたいよねって感じだろう。

 それに、運営に携わった生徒会の皆さんや先生たちにも休息が必要であろう。

 といいつつ、もしかしたら後片付けや記録の整理など、人によっては今日も作業が残っていたりもするのかもしれないけどね。

 そんなわけでとにかく今日、俺たち一般の生徒はフリーな時間を過ごすことになる。

 ただ、フリーとはいうものの、武闘大会の観戦に来ていた親族や知り合い等と一緒に過ごしたり、見送りをしたりする生徒が多いんじゃないかなって思う。

 そういう俺だって、リッド君たちの見送りをする予定だしさ。

 ちなみに義母上は、他の貴族家との面会などでスケジュールが詰まっているようで、ちょっと会う時間はないかもしれない……ってことで、昨日お忍びで会いに来てくれたとのことだった。

 まあ、侯爵夫人ともなると面会希望者とかいっぱいいるだろうからなぁ……そう考えると、昨日はよく時間を作って来てくれたもんだよ、まったくもってありがたいものだ。

 そうして、昨日の楽しい夕食時間のことなどを思い返したりしながら着替え等の朝練準備を整えている。


「それにしても……もともと気さくな義母上ではあるけれど、リッド君たちを気に入ってくれたようで俺としても嬉しい限りだよ……そうは思わないかい、キズナ君?」


 なんて、ときどきキズナ君に話題を振ってみたりもする……まあ、特に言葉が返ってくるわけではないが、なんとなく聞いてくれている感じはあるので、それでオッケーなのだ。

 それから、義母上の温かさをしっかり感じ取っていたのであろう、リッド君たちも義母上に懐いていたようでそれもよかったなって思う。

 とはいえ、こういう姿勢を嫌う貴族もいるんだろうけどねぇ……

 でも、それはそれ、「文句があるなら一戦交えましょうか?」って凄んだら一発なんじゃないだろうかと思う。

 いや、よほどのことがない限りそこまでは発展しないだろうけどね……ソエラルタウト家の強さもある程度他家に認知されてるみたいだしさ。


「……さて、そろそろ朝練に行ってくるとするかね……それじゃあまた! キズナ君!!」


 そう一言挨拶をして、いつものコースへ向かう。


「おはよう、今日も機嫌がいいようね?」

「おう! 絶好調だぜ!!」

「それは結構」


 てな具合にファティマと挨拶を交わし、ランニングスタート。


「昨日もリッド君たちと夕食を共にしたのだが……そこにサプライズゲストが来てくれてな!」

「あら、それはよかったじゃない」

「フフッ……そのサプライズゲストっていうのがな……なんと! 義母上だったのだ!!」

「そう、それは機嫌もよくなるというものね」

「ハハッ、まあな! そんで、お前は? やっぱり、昨日も家族と一緒だったのか?」

「ええ、家族と共に過ごしたわ」

「ほうほう」


 まあ、それもそうだろう、ここ数日ファティマもなかなかの幸せオーラを放っているからね。

 今日だって、一目でそれが分かったってもんだよ。


「ただ……これでまた、しばらく離れて日々を過ごすことになるのが寂しくもあるわね……」

「まあ、そうだろうなぁ……」


 ミーティアム家の領地が中央らへんにあれば、学園の休日にウインドボードをかっ飛ばすなどして頻繁に会いに帰ることもできるのだろうけどねぇ……

 しかしながら、おそらくミーティアム領はカイラスエント王国の中でもトップクラスに中央から離れたところに位置するだろうから、気軽に帰ることなど不可能だろう。

 そうして、少々の愁いを含んでいたかと思えば……


「それにしても……父様や兄様たちったら……ふふっ……」

「うん? もしかして……『ミーティアム領に帰りたくないッ!!』みたいな感じで駄々をこねていたとか?」

「……ええ、そうよ……ふふっ……」

「やっぱりねぇ……」

「ふふっ……うふふふふ……」


 よほど楽しい時間だったんだろうなぁ……普段はキリッと落ち着いた雰囲気のファティマが、ここまで浮かれているんだからねぇ。

 でもま、こんなファティマも悪くはなかろう。

 そしておそらく、ロイターとかファティマヲタたちも花丸満点を付けるに違いあるまい。


「……うぅ~ん? 今日は一段と温かい感じがするなぁ……そうは思わないか?」

「ええ、そうねぇ……もしかすると、武闘大会の興奮がまだ学園全体に残っているのかも……」

「ああ、確かに……なかなか白熱した3日間だったもんなぁ?」

「私たちは私たちのペースで頑張ればいいと思っていたけど……それでもやっぱり、いつかはあの本戦の舞台に立ってみたいわよねぇ?」

「ああ、そうだなぁ……それなら、俺たちもあの2人を見倣って! もうちょっとペースを上げてみるか!?」

「ええ、そうね! そうしましょう!!」


 ……だいたいいつも目にするランニングエンジョイカップルが、武闘大会に触発されたのか、今日はペースを速めるようだ。

 うむ、いい感じだね……ぜひとも頑張ってくれたまえ。

 そんなことを思いつつ、浮かれファティマと朝練の時間を過ごすのだった。

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