第767話 図々しいことは承知で

「次に会うのは、夕食後といったところかしらね」

「ああ、今日は授業もないし、たぶんそれぐらいになるだろうなぁ……ま、お前も家族の見送りとかいろいろあるだろうし、有意義に過ごしてくれたまえ」

「ええ、そうさせてもらうわ……それじゃあ、また」

「おう! またな!!」


 こうして朝練を終えた俺たちは、それぞれ部屋に戻って行く。

 そしておそらくファティマは女子寮に戻ったところで、お寝坊ガールのパルフェナを起こすことから始めるのだろうと思う。

 そんなことを思った途端、ジト目のパルフェナが脳裏に浮かんできた。

 ……まあ、そんな顔をしている余裕があるのなら、早く起きれるようになりたまえって感じかな?

 といいつつ、これは俺の勝手なイメージ上のパルフェナだからねぇ……

 その本人はといえば、俺のイメージなど知ったことかといわんばかりに未だ夢の中の住人であろう。

 なんてことを気まぐれに考えているあいだに自室に到着。


「ただいま、キズナ君! 今日も元気ハツラツで走ってきたよ!!」


 そうキズナ君に挨拶をしながら、風呂場に向かう。


「ふぅ~む、武闘大会も終わったし……そろそろ本格的に秋から冬に向かっていくって感じかなぁ……?」


 シャワーを浴びながら、なんとなくそんな独り言を呟く。

 そして、この部屋は魔道具によって空調を効かせることができるので、冬になったとて寒さの心配はないと考えていいだろう。

 というか、空調に頼らずとも火属性の魔力を周囲が発火しないようイイ感じに調節しながら使えば、寒さとは無縁の生活を送れるはず。

 まあ、この夏の酷い暑さだって、魔力の調節で対処してきたわけだし、余裕余裕!

 さらにいえば、前世を北海道という雪国で過ごしてきた俺にとって、学園都市の冬などたいしたことないだろうね! ドヤァ!!


「……決まった……決まり過ぎるぐらいに『ドヤァ!!』が決まった」


 しかしながら、実際のところを告白しておくと……俺は前世でいうほど寒さに強くなかった。

 そう! 寒がり君だったのさ!!


「うぅ~ん、なんという告白! 直前の『ドヤァ!!』が霞んじゃうね!!」


 ……とりあえず、シャワーだと寒いなって思うようになったら風呂に浸かるようにしよう。

 ここで、「そこまでせずとも、浄化とか清潔の魔法を使えばよくね?」っていわれそうな気もするが……まあ、そこはほら、視聴者サービス的な……ね?

 とかなんとか気分に任せてアレコレ考えているうちに、シャワーを浴び終えた。


「ふぅ~っ……今日も清々しくさっぱりボーイになったところで! トレルルス特製のポーションをいただくとするかね!!」


 そうしてポーションをゴクリ。


「うん、美味い! この一杯のために朝練を頑張っているといっても過言ではないだろうね!!」


 とまあ、そんな感じでゆったりと上質な時間を過ごしたところで、そろそろ朝食をいただきに行くとしますかね。

 ちなみに今日の朝食は、中央棟でいただく。

 それはつまり、令嬢にお誘いを受けているということだね。

 これが街中でデートとかだと、さすがに断らせてもらうところだ

 ただ、それだけに食事ぐらいはね……って感じなっちゃうのさ。

 まあ、ロイターとかもそんな感じの対応をしているようなので、モテの先輩に倣うってところかな。


「というわけで朝食に行ってくるよ、キズナ君!」


 そう一声かけて、中央棟の食堂へ向かった。


「……待たせてしまったかな?」

「いえ、私も今来たところです」

「そうか、ならばよかった……では、さっそく食堂に行こうか」

「はい」


 というわけで、待ち合わせ場所で集合した俺たちは食堂に入り、食べたい物を集めて席に着く。

 ちなみに、俺のほうが待ち合わせ場所に着くのがあとになったが、遅刻をしたわけではないということだけは述べておこうと思う。


「私、こんなふうにアレス様と食事を共にできて、とても嬉しいです」

「そうか、それは光栄なことだ」


 そしてまずは、社交辞令的な会話から始まる。


「そして、先日の武闘大会は本当に……本当にカッコよかったです!」

「ありがとう……だが、内容としてはシュウに負けた部分もあったので、若干カッコよく決めきれていなかったとは思うがな」

「そんなそんな! あのとき重傷を負ったというのに、呻き声も漏らさず回復魔法に専念していたところ……そして、倒れそうになったシュウ様を体で支えられたところ! あのお姿に私は感動しました!!」


 あのときは両腕が吹っ飛んでいたもんなぁ……あれはマジで痛かった。

 でも、「クールなアレス」というイメージを壊すわけにはいかなかったからねぇ……とりあえず、この令嬢の反応を見る限り、あの我慢が無駄にならなくてよかったって感じだね。

 そして、両腕がほとんどない状態で上手くシュウを支えられたのも、自分自身よくやったなって改めて褒めてやってもいいだろう。

 だって、支えるのに失敗してたら、思いっきりダサかっただろうからね……

 それがドラマとか映画の撮影なら、NGってことで撮り直しになっていたに違いない……ハァ、そうならなくてよかったぁ!


「そこで、アレス様……図々しいことは承知で、ひとつお願いしたいことがあるのですが……」

「ほう……何かな?」

「あの……その……私に! レミリネ流剣術を教えていただけませんか!?」

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