第765話 やっぱり、直接お祝いの言葉を伝えたくてね

 武闘大会の閉会式が終わり、今日もリッド君たちと夕食を共にする約束をしているので、宿屋へと向かう。

 そしてもちろん、移動に際して闇属性で雰囲気を隠しながらである。

 今日の観客たちの反応からして、1年生に対する彼らの印象はかなり強いものだっただろうからね、俺が街中をフラフラ歩いていると気付かれてしまう可能性が高いのではないだろうかと思うわけだ。

 フフッ……もしかしたら前世の有名人とかも、こんな気分を味わっていたのだろうか?

 といいつつ、そもそも学園内ではいろんな意味でそれなりに注目を浴びていた気もしなくはないけどね!

 ただ、それはどっちかっていうと畏怖ってニュアンスのほうが強い気がするんだよねぇ……

 でもまあ、最近は令嬢たちから憧れの眼差しを向けられることも増えてはきたと思う。

 しかしながら、それはそれで対応に苦労する部分もあるからねぇ……それをずっと前から続けているロイターたちには頭が下がる思いがするぐらいだよ。

 そして今回の結果から、俺もその大変さがさらに増して行きそうな勢いである……そう考えると「モテる男はツラいぜ!」って言葉は単なる自慢だけではなく、本当にツラい部分もあったのかもしれないなって気がしてくる。

 これがなぁ……同年代ではなく、お姉さんたちからお声をかけてもらえたならなぁ……

 いやまあ、2・3年生の先輩たちから食事に誘ってもらうこともあるよ?

 その場合は同い年よりテンションが上向くけどね……でも、そこまで極端に爆上げってわけでもないんだよねぇ……

 やっぱさぁ! 俺としては、できれば20歳は越えておいてほしいのさ!!

 でもまあ、この世界だと16歳で成人らしいし、前世に比べて結婚も早い感じだからなぁ……20歳越えとなると、まあまあ結婚されているお姉さんが増えちゃうんだよねぇ……

 よって、この点に関していえば、俺にとって厳しい世界って感じもしちゃうよね……

 とはいえだ! 魔法っていう心躍る素晴らしいものが存在する世界だし、ほかにも魅力がたくさんあるので、圧倒的にありがたさのほうが勝っている!!

 そのため、この世界に送ってくれた転生神のお姉さんには改めて心からの感謝を捧げたい……本当に、ありがとうございます!!

 ……するとどうだ、転生神のお姉さんが見せてくれる微笑みに輝きが増したように感じる。

 嗚呼、実にありがたい微笑みだ。


「……? あの兄ちゃん……感極まったような顔をして空なんか見上げてるけど……どうしたんだろうな?」

「さぁなぁ……夕暮れに想いでも馳せて詩人でも気取ってんじゃねぇか?」

「ふむ、あれだけ幸せそうな顔をしているということは……何かとてもいいことがあったのかもしれませんね?」

「……う~ん、そういやあの顔……どっかで見たことがあるような気もするんだけど……え~と、どこだったっけなぁ……?」

「おいおい、そんなことより酒だろ酒! 早く行こうぜ!?」

「おっと、そうだったな! そんでもって今年の武闘大会について、今日はとことん語り合おうじゃないか!!」

「「「賛成~っ!!」」」


 ほうほう、闇属性の魔法がしっかり効いていたようで、武闘大会ファンの人たちですら俺だと気付かなかったようだ。

 フッ……さすが俺。

 あと、ちょっとだけ気付きかけた人もいたようだが、彼はなかなかセンスがありそうだ。

 そのため、魔力操作に励んで闇属性を鍛えてみてはいかがかなって感じだね。

 そんなことを思いつつ俺も移動を再開し、宿屋に到着。

 というわけで、食堂へ向かうと……そこにはなんと! なんと!!


「は……義母上? それに、ルッカさんも……!」

「やっぱり、直接お祝いの言葉を伝えたくてね……そんなわけで、アレス! 優勝おめでとう!!」

「おめでとうございます」

「あ、ありがとうございます! 義母上!! ルッカさん!!」


 そうして義母上は慈愛に満ちた笑顔、ルッカさんはいつものお澄まし顔から柔らかい笑顔になっている。

 いやはや、これはなんとも嬉しいサプライズゲストだよ!

 また、俺自身本気で索敵モードになっていなかったとはいえ、ここに来るまでその存在に気付かせなかったとは……お2人ともさすがです!!


「アレス兄ちゃん! リューネさんとルッカさんから、お屋敷での話とか聞かせてもらったよ!!」

「アレスのアニキにも、アニキがいるんだな!?」

「きっとアレスお兄様のように、とってもステキなお兄様なのでしょうねぇ!」

「そんでもって、アレス兄と楽しそうに模擬戦してたっていうぐらいだから! メッチャ強いんだろうなぁ!!」

「うん、兄上はとっても強いよ!」

「おぉっ! すっげぇ~っ!!」


 まあ、兄上とやった模擬戦は軽くって感じで、まだまだ真の実力をお互い出していなかったが、それでも兄上の強さを感じ取ることはできた。


「あぁ、それにしても……俺っちのトコも、こんな超美人なおっかさんだったらなぁ……」

「ホント! 超憧れるよな!!」

「うんうん! 何個『超』って付ければいいか分かんなくなるぐらいね!!」

「何をいってるんだい、みんなのお母さんもステキだろう?」

「そうはいうけど、アレスあにぃはお世辞が上手いってボクのおかあさんいってた」

「いやいや、お世辞なんかじゃないさ」


 確かに義母上もルッカさんも、お忍びですって感じの格好をしていても、とびっきりの美しさなので、子供たちの言葉も分からないではない。

 ただし、俺の言葉はお世辞でもなんでもなく、村のお母さんたちも間違いなく美人ぞろいだ。

 とまあ、そんなこんなで流れに任せておしゃべりを楽しんでいたが……ひとつ気になることがあった。


「それはそうと義母上……親父殿と共に過ごさなくて良かったのですか?」

「ああ、ソレスのことなら気にしなくて大丈夫よ……もう、王都に向けて出たあとだからね」

「なるほど、そうでしたか……」


 いくら王都が近いからとはいえ、もう夜だろうに……せっかちさんだねぇ。

 まあ、別にどうでもいいことだったか……原作アレス君だって、もうほとんど気にしてないみたいだしさ。

 そうして義母上たちやリッド君たちと楽しい夕食の時間を過ごした。

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