第838話 最後まで集中力を切らさず頑張りたいものです

 昼食を美味しくいただき、食後の休憩も済ませた。

 というわけで、そろそろ空の旅を再開するところだ。


「ふぅ~っ……よっしゃ! 午後からも全力全開だぜ!!」

「このペースを保つことができれば、おそらく今日中にメイルダント領に着くことも可能でしょう……そのためにも、最後まで集中力を切らさず頑張りたいものです」

「そうだな、あと少しという終わりが見えた辺りが一番の油断ポイントだって話も聞いたことがあるからな……ワイズの言うとおり、最後まで集中力を切らさず行こうじゃないか」

「ああ、いわゆる『詰めが甘い』ってヤツですよね? うんうん、そりゃ気を付けなきゃっすね!!」

「まさしく」

「よし! そんな感じで……行くぞ!!」

「「応ッ!!」」


 こうして俺たちは再度、空の世界に舞い戻ったのである。

 まあ、ここまで来るのに2人もウインドボードの旅にだいぶ慣れたと言えるのではないだろうか。


「どうだ? この旅の出発前、ウインドボードに乗っての移動に少々の不安もあったようだが……ここまでかなりいい感じで来れたんじゃないか?」

「ええ、今まで遊び程度に乗ったことはありましたが、学園都市から我が領までなんて長距離飛行は初めてのことでしたからね、なかなか自信満々とまでは難しいですよ……それでも、アレス殿のおかげによる部分が大きいとはいえ、ここまで飛んでこれたのは自分でも快挙だと思っております」

「まあなぁ、そもそも論として俺たちの保有魔力量じゃ、こんな長距離を飛べるだけの魔力がありませんでしたからねぇ……そこんところ、魔力を分けてくれてるアレスコーチのおかげっすよ、マジで!!」

「とはいえ他人……それもクセが強めであるらしい俺の魔力を使ってここまで魔法を発動させることができているだけ、お前たちの魔力を扱う能力の高さも素晴らしいといえるだろう!」

「確かに……この数日間で、その部分の能力が大幅にアップできた……そんな自負は私にもあります」

「だな! やっぱ、こういうやらざるを得ない実践の場っていうのが大事なんでしょうね!!」

「うむ、それはあるかもしれんな」


 こんな感じで会話も交えて、リラックスしながら飛行を続ける。

 まあ、ずっと黙ったままっていうのも、それはそれで息が詰まってしまいそうだからね。

 特にウインドボードによる移動は、身体能力とかよりも魔法を継続して発動させるっていう精神力勝負みたいなところがあるしさ。

 こうして、途中で小休憩なんかも挟みながら飛び続け、日暮れが近くなってきた頃……


「地図上では、もうほとんどメイルダント領と言ってもいいぐらいの距離だぞ! だからあと少し! 自分に負けるな!!」

「は、はい……だいぶ、見慣れた光景が広がりつつ……ありますね……」

「毎度のことながら……この『あとちょっと』ってところが一番……シンドイぜ……」

「ああ、ケインの言うとおりだろう! だが、このキツイところを耐え抜いた先に大きな成長がある! さあ、もうひと踏ん張りだ!!」

「もうひと……踏ん張り……!」

「うぉぉぉッ! 俺は今! 猛烈に成長……しているぅぅぅぅぅッ!!」

「いいぞ! いいぞ! その調子だ!!」


 もう、ホントにあとちょっとでメイルダント領って感じだ。

 それはつまり、学園都市からメイルダント領までの半分近い距離を今日1日で移動してきたことになるというわけだ。

 2人とも、ここまでよく頑張ったもんだよ。


「……あれは! ようやく見えてきました……我が領の街です!!」

「よっしゃ! やっとここまで……来たぞォッ!!」

「うむうむ、今日のゴールは目の前だ……だからこそ! 地上に降り立つ最後の瞬間まで気を抜かないようにな!!」

「承知……しておりますとも!!」

「へへっ……ここまで来て……そんなダセェ終わり方は! できねぇってもんだぜッ!!」


 こうして徐々に街が大きく見えてくる……そしてついに、そのときがやってきた。


「つ、ついに……ハァ……フゥ……着い……た……」

「ハァ~ッ! やった……俺たちは……やり遂げたんだッ!!」

「2人とも、ここまで見事な忍耐力であったぞ! 実に天晴れだ!!」

「ありがとう……ございます……」

「スゲェ……この達成感! マジでハンパねぇッス!!」

「うむ、そうだろう、そうだろう! 最後のほうは本当に気力だけで飛んでいたものな!!」

「正直、途中で……『今日中に着かなかったとしても、ここまで来たら日程的にほとんど変わらないはず……だから、ここらで今日の移動は終わってもいい……』そんな言葉が、頭の中で何度も浮かんでいました……」

「分かる! 俺も『仮に今日メイルダント領に着いたとしても、明日またトードマンのいる街とかミカルって子のいる村まで移動する必要があるもんな……』とかって考えて、あともう少しの頑張りから逃げたい気持ちが湧いてたからなぁ……」

「まあな、この街にトードマンがいるわけでもないことを考えると、実際のところもっと手前の街で一泊しても問題はなかっただろう……だが! 2人とも、そんな弱気によく打ち克つことができたな! この差は大きいぞ!!」

「それはアレス殿とケインがいてくれたからです……おそらく私1人では、ほどほどのところで甘えが出ていたことでしょう……」

「ああ! それは俺も同じだ!!」

「フッ……仲間の存在が力となったというわけだな」

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