第752話 そなたの思うままに励むがよい

「……また、容姿だけではなく、光属性の強さや振る舞いの端々からもリリアンのことが思い出される……実に懐かしいものだ」

「母のことを今なお記憶に留めていただけていること、誠に嬉しく思います」


 国王陛下が遠い目をしていらっしゃる……しかも、その目には温かさも感じられる。

 もしかしてだけど……若い頃、母上に気があったとか?

 でも、なんだかんだと政治上のややこしさなんかがあって母上を選べなかった……的な?

 ほら、母上の実家であるルクルスント家は公爵家だって話だからさ……権力が強くなり過ぎるとかいろいろあってもおかしくなかっただろうし……


「フッ……リリアンの気質を受け継いでいれば、その発想に自由さが顕れてくるのも当然のことであろうな……だが、リリアンの子であれば、曲がったことはするまい……ゆえに、これからもそなたの思うままに励むがよい……まあ、国王の立場としては、ある程度限度というものも考えてもらいたいところではあるがな……」

「お言葉、有難き幸せに御座います」

「うむ、今後もそなたの活躍に期待しておる」

「身に余る光栄に存じます」


 こうして俺の番は終わり、国王陛下は女子へメダルの授与に向かったわけだが……

 今の「思うままに励むがよい」というお言葉……かなり価値のあるものだったんじゃないか?

 ある程度限度を考えろって自重を促されもしたが、それにしたって、かなりのところまでは国王陛下がお許しくださるという意味に受け取ってもいいと思うんだよね。

 とりあえず、今のお言葉によって俺のことを快く思っていない貴族も、あまり表立って批判の言葉を吐けなくなったと思われる。

 少なくとも、俺がよほどの悪事を働かない限り、国王陛下の前では黙るしかない気がする。

 とはいえ、そういう連中っていうのは陰に隠れて足を引っ張ろうとしてくるのかもしれないけどねぇ……

 でもま! これによって俺は、今まで以上に自信を持って魔力操作の啓蒙活動に勤しむことができるというわけだ! やったね!!

 それにしても……母上の影響力というか、寄せられている信頼はハンパじゃないな……

 まさか、貴族のご夫人方だけでなく、国王陛下にまであのような言葉をいわせてしまうとはね……

 ただ、そんな母上に寄せられている信頼を裏切るわけにはいかない……だからこそ、俺は自分を正しく律する必要があるわけだ。

 そうはいっても、普段の行動のしやすさとかも考えて、今までどおり傲慢キャラは続けるつもりだけどさ……

 でも、義によって立つという意識だけは忘れずに持っていたいものだね。

 そんなことを思いつつ、なんとなく貴族席のほうに目を向けてみると、武系らしき貴族の多くは「よくやった」という視線を送ってくれるが、文系らしき貴族は苦味の増した視線を送ってくる。

 そして、親父殿はというと……若い頃「氷の貴公子」とか呼ばれていただけあって、今も無表情を貫いてはいるものの、微妙に隠し切れない苦々しさみたいなものがその表情に混じってしまっているのを感じ取ることができる。

 フフッ……愛情を一切傾ける気にならない息子が周囲から……とりわけ国王陛下から評価を得ている姿を見るのは、さぞかしイラつくことだろう!

 異世界転生の先輩諸兄よ……これがウワサの「ざまぁ」というやつなのでしょうね!?

 私もひとつ、この世界の親父殿にかましたりましたよ!!

 それにたぶん、これからしばらくは貴族同士で世間話をする際、「ご子息の武闘大会優勝、誠におめでとうございます」とか「いやぁ、優秀なご子息を持たれて、羨ましい限りですなぁ」みたいなことをお世辞だろうがなんだろうが、ひたすら浴びせかけられることになるだろう!

 そのたびに精神をガリガリと削りまくられるがいい……ククク……あぁ~オモシロッ!!

 なんてことを考えていると……義母上が俺と親父殿を見て「もう、仕方ないなぁ……」って表情を浮かべていらっしゃる。

 おっと、義母上を呆れさせるわけにはいかんね……

 それに、義によって立つ……キリッ! とかやっておいて、その直後にざまぁ展開を楽しむとか、真逆過ぎるもんね……これはいけない。

 でもまあ、これで原作アレス君も多少は溜飲が下がったってもんじゃない?


『フン……あんな男のことなど、知るか!』

『ほほう、さすが原作アレス君だ……実に気丈でいらっしゃる』

『うるさい! そんなことよりも、今日はお前のワガママに付き合ってやったのだから……分かっているのだろうな?』

『それは、もちろんだよ! ここしばらくは、武闘大会に向けて食事もある程度セーブしながらになっていたからねぇ……そのおかげで今日は体のキレも違ったんじゃないかな? まあ、それはそれとして、夕食はガッツリいっちゃうから期待しててよ!!』

『体のキレがどうだとか、武闘大会のことなど知ったことではないが………………国王陛下から母上を想う言葉を引き出したのは褒めてやる』

『フフッ……お褒めに預かり、光栄にございます』

『フン……これが終わったら、直ちに食堂に向かうことだ……いいな?』

『御意』


 こんなふうに原作アレス君と言葉を交わしているうちに、メダルの授与はどんどん進んでいく。

 まあ、意識の一部は外界にも向けており、俺も拍手等はきちんとしているので悪しからずって感じだ。

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