第306話 家族と食事

 アレス付きの使用人たちが部屋を出たあとは、魔力操作をしながら読書に勤しんだ。

 まあ、読書ってカッコよくいってみたけど、読んでいたのは学園の教科書なんだけどね。

 今のうちに後期への予習をしておこうってわけさ。

 それに、前期試験の結果から考えてみても、学科が一番のネックになりそうだし。

 そんな感じで過ごし、そろそろお腹が減ってきたなってところで部屋のドアをノックする音が聞こえる。

 たぶんギドなんだろうけど……お姉さんだったら困るからな、多少丁寧めにしておこう。


「どうぞ」

「失礼しますアレス様、夕食のお時間となりましたので、食堂へ移動いたしましょう」

「そうか、義母上を待たせるわけにもいかんからな、早速行くぞ!」

「かしこまりました」


 そうして部屋を出て、食堂へ向かう。

 後ろにはギドと、小娘が4人ほどついてくる。

 俺としてはついてこなくても構わないんだけど、使用人サイドとしてはそういうわけにもいかないのだろうから黙っておこう。

 そして、このゾロゾロ引き連れて歩く感じ……偉そうだねぇ。

 いや、偉そうも何も、この家の中ではそういうポジションなんだから、当然のことか。

 それに学園内でも、原作ゲームみたいに俺も派閥を構築していれば、同じように取り巻きに囲まれていただろうし。

 そういや、原作ゲームにおけるアレス君の取り巻きって誰だったんだろうな?

 なんか、そうかもしれないって感じの小僧たちはいたけど、結局そいつらは王女殿下の取り巻きに収まったみたいだし。

 まあ、なんにせよ俺がこっちに来てからの行動によって、そういった原作ゲームにおける取り巻き予定だった奴らとの縁は切れているのかもしれないね。

 というか、つまらん奴が寄ってきても追い払うだけだし。

 ちなみに、日頃つるんでいるロイターやファティマたちは、取り巻きとかそういうのではない。

 そもそも、ロイターのほうが家格は上だし、俺たちのパーティーはファティマがリーダーだからね。

 なんてどうでもいいことを考えながら、食堂までの道のりを進む。

 そしてしばらく歩いたところで到着し、アレス付きの使用人たちによってドアを開けてもらって中に入る。


「こちらへどうぞ、アレス様」

「ああ」


 そうして俺の席の椅子をギドに引いてもらい、着席。

 ルッカさんたちとの3週間に渡る旅でも、こういうお世話をされるのはよくあったが、前世の感覚的にやっぱ微妙な感じがしちゃうね。

 一応、原作アレス君の経験自体はあるので、当然のことのように振舞ってはいるけどさ。

 そんな取り留めのないことを考えているうちに、義母上から声がかかった。


「旅の疲れは取れたかしら?」

「はい、それはもう!」

「それはよかったわ」


 こうしたありふれた家族の会話の中にも、義母上の言葉には慈愛がこもっている。

 そして、そんな他愛のない会話ですら、原作アレス君にはなかなか手に入らないものだった。


「おっと、義母上もアレスも既にそろっていたんだね?」

「お待たせしました」

「いいのよ、私たちも今来たところだもの」

「ええ、義母上のいうとおりです!」

「そういってもらえると、助かるよ」

「ありがとうございます」


 俺の少しあと……というほど差はなかったが、兄上夫婦も到着。

 兄上夫婦は今まで領の仕事だったのだろうか、まったくもって頭の下がる思いだ。

 また、そのあいだに使用人たちが食事を並べてくれる。


「それじゃあ、みんなそろったことだし、いただきましょうか」

「そうだね」

「はい」

「いただきます!」


 こうして、ソエラルタウト家の食事が始まる。

 あと、当然のことながら、原作アレス君が家族と食事をすることなど、なんらかの家族がそろわなければいけないイベントを除いて、ほとんどなかったようだ。

 たぶん、そういうのも影響して、原作アレス君は暴食に走ったんじゃないかって気がしてくるね……止められるような人もいなかっただろうし。

 なんというか、原作アレス君のこういうところは、俺には分かりづらい部分だね。

 というのも、俺の前世では家族で食事することなんて、普通のことというか、取り立てて特別なことではなかったからさ。

 まあ、東京で独り暮らしをするようになって、孤独の食事が日常になったが、それとても自分で選んだことで、家庭環境の悪化でそうなったわけじゃないし。


「こんなふうに、アレスと一緒に食事ができて嬉しいわ」

「僕もそう思うよ。でも母上……今回のことは結局、父上に黙ったままなんだよね? きっと今頃怒っているだろうなぁ」


 正直なところ、ルッカさんが「ソレス様は王都にいらっしゃいますので」とかいってた辺りから、もしかしたらって思ってたけど、やっぱりだったか……

 とはいえ、今の俺にとってクソ親父など、原作アレス君を追放したクソ野郎というだけで、敵だとは思っているけど脅威には感じていない。

 しかしながら、俺のせいで義母上がクソ親父にキレられるのは心配だね。


「別にいいのよ……それに、ソレスが怒ったところで何も恐くないわ」


 ……なんだったら、俺が消し去りましょうか?

 なんて、今の俺は原作アレス君ほどクソ親父に対する遠慮もないからね、これまでのように叱責とかされても、どうってことないのさ。

 たぶん義母上は、そういった俺の意識の変化も感じ取って、クソ親父の意向を無視することにしたんじゃないだろうか。


「やれやれ、仕方ないな……父上が帰って来たら、僕が上手くとりなすとしよう。ああ、アレスは何も心配しなくていいからね?」

「分かりました、兄上にお任せします」

「あらあら、いつのまにかセスも頼もしくなっちゃって……これもやっぱり、マイネちゃんのおかげかしら」

「いえ、私は何もしていません……セスは元から頼もしかったです」

「母上、からかうのはそれぐらいにしてくれると嬉しいんだけど……」

「あらぁ、私はからかったつもりはないんだけどなぁ」

「はいはい、そうですか」


 ふむ、義母上はなかなかのお茶目さんのようだ。

 そういえば、ルッカさんもそんな感じだったしな……似た者主従ということなのだろうか。

 そして、兄上と義母上の様子から、今回の俺の帰還は義母上が企画したことで確定だね……まあ、いうまでもないことかもしれないけどさ。

 とまあ、こんな感じで楽しいおしゃべりをしながら夕食の時間は過ぎていった。

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