第307話 耐性を付けるためだったとか?

 夕食後もお茶を飲みながら義母上や兄上夫婦と楽しくおしゃべりをしながら過ごし、そろそろというところで各自部屋へ戻った。

 兄上……ふぁいとっ!!

 なんて思いつつ、部屋で筋トレに励むことにした。

 フッ、美味いメシのあとにする己の筋肉たちとの語らい……実に素晴らしいものだ。


「ほうら、限界にはまだ遠いだろぉ? 最後の1回まで気を抜けないぞぉ?」

「……」


 1回1回丁寧に、筋肉に効かせることを意識して取り組む。

 あと、俺は自重トレーニングが好みなので、いつもそうしている。

 また、このときばかりは魔力による筋力アシストはやっていない。

 そのため、正真正銘の自力を鍛えているということになるだろう。

 まあ、身体強化の魔法とかも基礎となる筋力があったほうが、より効果があるみたいだしさ。


「フフッ、来た来た来た~! バーニングゥ!!」

「……」


 この焼けるような筋肉のハッスル熱!

 これだよ! これぇ~!!


「フゥ……フゥ……フフッ……」

「……」


 こうしてじっくりと、筋肉と語り合う濃密な時間を過ごしたわけだ。


「……あの、えっと……お疲れ様です……よろしければ、汗をお拭きします」

「ん? おお、気が利くね……でも、自分で拭くから大丈夫だ、タオルだけくれ」

「失礼しました……どうぞ」

「おう、すまんね」


 いや、小娘が部屋についてきてさ、「なんでもお申し付けください」とかいって、そのまま居座っちゃったんだよ。

 それでなんか、追い出すのも悪いかなって思って、俺も気にせず筋トレを始めたってわけなんだ。

 そんで、今みたいに筋トレを終えた俺の汗を拭くとかいってきたんだけど、その顔がちょっと引きつっててね……

 そんなわけで、あのまま拭いてもらうのもカワイソウかなって思ったんだ。

 だから、決して意地悪でタオルだけを要求したわけじゃないんだ、それだけは分かってもらいたい。

 まあ、これがお姉さんだったら、そのままお願いしていただろうことは否定できないけどさ……

 ちなみに、ギドはここにいない。

 ローテーション的に休憩中か、もしくは食事中ってところなんじゃないかな。

 こんな感じで一汗かいたところで、大浴場でゆったりくつろぐとしますかね。


「大浴場の風呂に入ってくる」

「かしこまりました」


 そう一声かけると、小娘は返事とともにそのままついてくる。

 そして小娘は男湯の前で待機しているつもりなのかと思えば、そのまま中まで入ってきそうな雰囲気だった。

 そういえばルッカさんにも「お背中を流しましょうか?」とかってからかわれたことがあったけど……まさか!?


「おい、もしかしてだけど……『背中を流す』とかそういうつもりなら、いらないからな?」

「これは出過ぎた真似をしました、お許しください」

「いや、気にしなくていい」

「はい」


 こうして、小娘と別れて脱衣場へ向かおうとしたところ……


「もうちょっとだったのに……残念」


 ……えっ?

 俺と距離が開いたところで、めっちゃ小声で独り言をつぶやいたつもりなんだだろうけど、聞こえちゃったからね?

 あっぶね……あの小娘、ワンチャン狙ってたみたいだな。

 もしや、学園都市からソエラルタウト領までの道のりでお姉さんたち受けた数々のからかいは、こういったことに対する耐性を付けるためだったとか?

 なるほど、客観的に見れば俺なんてかなりのチョロ助だろうからね、気を付けねば。

 よし、エリナ先生に顔向けできないようなことはしない! 今一度強く決意を固めよう、鋼の心だアレス!!

 そんなことを思いつつ服を脱ぎ終えた。

 さて、ここはひとつ、ソエラルタウト侯爵家の大浴場力を試させてもらおうじゃないか!

 そしてドアを開け放つと、規模としては学園に及ばないものの、なかなか立派な風呂場がそこにはあった。

 ただね、なんというか……オシャレなスパって感じ。

 そのため、この世界でいうところの焔風という感じではない。

 まあ、だから駄目ってわけでもないし、これはこれでまたヨシだ!

 そんなことを思いつつ、ソエラルタウト家の風呂を楽しむ。

 特にこの魔道具製であろうジェットバスなんかは、噴射された気泡たちが筋トレによって疲れた俺の体をマッサージしてくれるようで、実に心地いい。

 とまあ、こうして充実したお風呂タイムを楽しんだのだった。

 そして風呂から上がれば……


「アレス様、アイスミルクコーヒーをご用意いたしました」

「おう、ありがとな」

「いえ」


 このアイスミルクコーヒーであるが、きちんと情報共有もなされているようで、砂糖とミルクがほどよい濃さである。


「うむ、実に美味い!」

「恐れ入ります」


 そんなわけで、アイスミルクコーヒーを美味しくいただいたところで部屋に戻る。

 そのあとは、いつものように精密魔力操作に取り組む。

 今日はいろんな人に会ったからね、どうやら魔力のほうも少しはしゃいでいるようだ。

 そんな語らいを寝る時間までおこない、眠りにつく。

 ……おっと、念のため障壁魔法でベッドを囲んでおくとするか。

 よし、障壁魔法の展開も済ませたことだし、これで安心して眠れるね……それじゃあ、おやすみ。

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