第308話 ようやく始まるのですから!!
「ねぇ、この壁なんなの~?」
「う~ん、障壁魔法……ってか強度的にもう、防壁魔法だね」
「マジで? 厳重過ぎでしょ……」
「やっぱ、あのオバサンたちのいったとおりだったってことかぁ~」
「うわぁ、あとでめっちゃ勝ち誇った顔でニヤニヤされるのかな? くやしいっ!」
「あっ、マズい! 起きちゃいそう!!」
「と、とりあえず! 何事もなかった顔して整列しとこ!!」
「うん、朝のご挨拶ですって感じでね!」
「くっ、こんなはずでは……」
何やらガヤガヤと声がするなって思ったところで、目が覚めた。
そして、上半身を起こして寝室を見回すと、声の主であろう小娘どもが、シレッとした顔で整列している。
「おはようございます、アレス様! 朝のご挨拶に参りました!!」
ウソつけ、無駄に声までピタリとそろえやがって。
こいつら……俺がホントに気付いてなかったとでも思っているのかね?
なんて思いながら小娘どもの顔を眺めてみると、「さすがにちょっと、ムリがあったかな?」って顔をしている奴もいるが……意外と自信満々な顔の奴もいる。
正直、「その自信はどこからくるんだよ?」って感じではあるが、いちいち指摘するのも面倒だしな……
「おはよう……ええと、明日からは朝の挨拶にわざわざ来なくていいぞ」
「いえ! そのようなわけにはいきません! 私たちの朝は、アレス様のご尊顔を拝することによって、ようやく始まるのですから!!」
……ということは君たち、昨日までずっと夜の世界にいたのかな?
そしてこんな言い訳も、ピタリと声がそろっている……何かの能力なの?
「そうか……とりあえず着替えるから、一度部屋から出てくれ」
「ならば、私たちがお手つ……」
「それはいらないからな?」
「……かしこまりました」
とまあ、こんな感じでなんとか小娘どもを寝室から出すことに成功。
ふぅ……やっぱり障壁魔法を展開しておいて正解だったね。
とはいえ、魔纏も展開して寝ているから身の安全は問題ないんだけどさ。
ただ、それでもベッドの中に潜り込まれたらシャレにならんだろう。
そういう可能性を以前ルネさんも示唆していたし……
そんなことを思いつつ、運動着に着替えを済ませる。
「さて、今日も元気いっぱいで朝練に行きますかね!」
なんていいつつ、寝室から出て広間に向かうと……
「やあ、おはよう、アレス様」
「おはようございます」
「おう、起きたみてぇだな!」
「今日もよく晴れた~いい朝ですね~」
「とっても清々しいっす!」
「あらら、私たちがいて驚いたかしらぁ?」
俺をソエラルタウト領まで護衛してくれたお姉さんたちがいらっしゃった。
一応そこは応接スペースも兼ねた場所なので、お姉さんたちがいたこと自体は別に驚くことではない。
「おはようございます……えっと、みなさんはお仕事で忙しいのでは?」
「いや、今日は6人とも、休みをいただいているのだ」
「昨日のうちに、任務の報告も済ませましたからね」
「なるほど、そうでしたか」
護衛任務を無事遂行したということで、特別にお休みをもらったってところかな?
それにしても、そんな貴重な休みの朝にわざわざ俺の部屋を訪ねてきてくれるだなんて、この上なく嬉しいものだね。
「会いに来てくださって、ありがとうございます!」
「いえいえ~」
「よっしゃ、挨拶も済んだことだし、早速訓練に行くぞ!」
「気合いが入るっすね!」
「アレス様も準備万端みたいだし、ちょうどいいわねぇ」
こうして、護衛のお姉さんたちと一緒にソエラルタウト家の屋敷に設けられた訓練場へ向かう。
ちなみに、先ほどの小娘どももついてきている……何気に大所帯だね。
それと、訓練場への道順だが……原作アレス君の記憶では、微妙にあやふやだった。
大まかな方向はなんとなく分かるのだが、逆にいうとそれだけ。
まあね、それだけ馴染みのない場所だったってことだろう。
原作ゲームの設定でも、そういったことはことごとくサボり尽くしていたみたいだしさ。
というわけで、この屋敷に滞在しているあいだは頻繁に来ることになるだろうから、改めて道順を覚えることにしよう。
なんて、やや大げさにいったが、別に迷路になっているわけではないので、そんなに難しいことではない。
そんなことを頭の片隅で考えつつ、訓練場に到着した。
また、早朝訓練は任意なのであろう、先客がいるにはいるが、ごっちゃりというほどではない。
「それじゃあ、今日も走るとしようか?」
「はい、そうですね!」
てなわけで、メルヴァさんの先導で走ることに。
フフッ……この、お姉さんに囲まれて走る時間……プライスレス。
「おい、見ろよ……」
「どうした……って、えっ!?」
「アレス様って……あんなに速く走れたのか……」
「あの体型の変化だ……おかしいことでもあるまい……」
「といいつつ、お前も驚きを隠せてないな!」
訓練場を走る俺たちを見た先客たちの声が聞こえてくる。
まあね、俺がこんなに走れるなんて、原作アレス君の体型をよく覚えている人ほどビックリだろうね。
そうして、走り始めの頃は抑え気味だったメルヴァさんだったが、徐々にペースを上げていき、なかなかガチなスピードへと突入する。
ハハッ! そんなスピードにも俺はちゃんとついていけているのさ!!
「アレス様~! とってもステキですよぉ~!!」
なんて、観戦モードの小娘どもから声援を受けたわけだが……なるほど、これが日頃ロイターたちが経験している感覚というわけか。
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