第309話 私がうかつだったわ
「アレス、朝食が終わったら、ゆっくりおしゃべりをしながらお茶なんかどうかしら?」
「はい、義母上! 喜んで!!」
義母上からお茶のお誘い……関係上は義母であるが、キレイなお姉さんとお茶ができるのだ、当然のことながらワクワクしちゃう。
そんなわけで、先ほどお姉さんたちとの楽しい朝練を終えて、今は朝食をいただいている。
ああ、そういえば、ルッカさんにいわれていた手紙の件を話さなきゃだったな。
とはいえ、おそらく既にルッカさんから報告はされているだろうから、そこまで深刻に考える必要もないと思うけどさ。
そうして穏やかな朝食の時間を楽しみ、食事を終えた兄上夫婦は仕事に向かった。
「それじゃあ、私たちは少しお散歩をしてからお茶にしましょうか?」
「天気もいいことですし、そういたしましょう!」
こんな感じで義母上とお茶をするってことに対して、ピキッとした雰囲気を出すクソ親父派の使用人もいるかなって思ったけど、不思議とそういう奴はいなかった。
まあ、ここにクソ親父がいないからってこともあるかもしれないけど、義母上か兄上がそういう奴をウロウロさせないように差配してくれたのかもしれない。
というわけで、義母上と庭園をお散歩する。
それでこの庭園だが、やはりというべきか侯爵家の財力を見せつけるかのような、とても豪華なものであった。
咲き乱れる花はもちろんのこと、なんか凄そうなオッサンや美人なお姉さんの彫刻が並んでいたり、ゴージャス感満載の噴水が吹き上がっていたりと、実に見事だ。
「義母上、とても花がキレイですね」
「あら、アレスは花が好きなのね?」
「そうですね……種類など詳しいことは分かりませんが、その美しさに素晴らしさを感じます」
まあね、花はさ……俺がレミリネ師匠の言葉を理解するきっかけをくれた、とてもありがたいものでもあったしさ。
そう考えると、より一層の好感を持つってなもんだよ。
そんなことも思いつつ、義母上と庭園をのんびり眺め歩きながら過ごす。
そうしてしばらく歩いたところで、庭園に設置されている屋根と柱だけの建築物……確かガゼボとかって呼ばれていたのを異世界ものの作品で見た気がするな……とりあえず、そんな感じの場所でお茶をすることに。
そこで、義母上のお供としてついてきていたルッカさんがお茶を淹れてくれる。
ちなみに、俺のお供としてはギドがついてきた。
ちょっとした散歩とお茶に、大勢をゾロゾロと引き連れて歩くのもあまりに情緒がないだろうとのことで、これだけの少人数となった。
とはいえ、少し離れたところで見えないように護衛や使用人たちも控えているんだけどね。
とまあ、こうしてお茶を飲みながら一息ついたところで、さっさと切り出しておこう。
「義母上、私が学園にいるあいだ、お手紙を送ってくださっていたとのことですが……私のところまで一通も届いてはいませんでした……」
「ああ、それね……昨日ルッカから聞いたわ」
「手紙を送っていただけていたことをありがたく思うとともに、それを受け取れなかったことが残念でなりません」
「まったく、ソレスにも困ったものね……」
「ああ、やはり……」
「まあ、正確にはソレス付きの使用人の独断だったんだけどねぇ……」
「えっ、そうだったんですか?」
てっきり、クソ親父が「あのクソガキ宛の手紙だと? そんなもん、捨てちまえ!」って感じで破棄してたとばかり思ってた。
しかしながら、もうそこまで判明していたのか……早いな。
そこで、なんとなくルッカさんへ視線を向けてみたが……相変わらずのお澄まし顔だった。
でもたぶん、ルッカさんが即行で犯人を捜し出したんだろうな、旅の途中でもその点に関してはメッチャ不快感を滲ませていたし。
「ただ、今にして思えば……日頃からソレスがそういう態度を示していたのだから、使用人もそういう行動に出てしまうのも仕方なかったかもしれない……そこまで気が回らなかった私がうかつだったわ」
う~ん、それはどうなんだろう……
たぶんだけど、手紙の内容だって家族としてなら普通のことが書かれていただけだろうし。
そんなものをわざわざ途中で握りつぶすとか、やることがショボ過ぎるでしょ。
それに独断とはいえ、クソ親父に事後報告すらしていないとも思えないからね……黙認してたんじゃないかなって気がする。
「こんなことが二度と起こらないよう、今度からは信頼できる子に手紙を持たせるとしようかしら……」
「わかりました、そのときは手紙を持って来ていただいた方に返事をお渡しします」
「そうね……そのほうがいいかもしれないわね」
この調子だと俺が返事を送った場合も、クソ親父派の使用人が触れた瞬間に捨てられそうだし。
といいつつ、今回のことで犯人にもなんらかのペナルティが課されているだろうし、同じことをやるバカがいるかどうかは分からないけどね。
「……さて、後ろ向きな話はこれぐらいにして、もっと楽しい話をしたいわ」
「義母上のいうとおりですね! それじゃあ、何がいいかな……」
こうして以降は、学園に入学してからの話とかをして楽しく過ごしたのだった。
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