第469話 学園に戻ってきたという感じ

 ギドや3人娘と別れ、学園男子寮の自室に到着。

 部屋を空けていたのは2カ月程度になるわけだが、物凄く久しぶりに感じる。

 そして部屋を眺めているうちに、ここに机があって、ベッドはこっち……というふうに記憶と合致させていく。

 だが一点、合致しない場所がある……それはキズナ君のいた窓辺のスペースだ。

 キズナ君はエリナ先生の研究室に里帰りしていたからね。

 当然、エリナ先生のところで元気にしていたとは思うが、いい子にしてただろうか……などと気になってしまうのは人として自然な感情だろう。

 そういうわけでさ……時間帯的に少し迷惑になってしまうかもしれないけど、エリナ先生のところに行っちゃおうかなって思うんだ。

 それにほら、マヌケ族によるソリブク村やその周辺の村での暗躍についても早めに報告しておいたほうがいいじゃない……ね?

 とまあ、そうした言い訳を心の中で並べ立てながら、浄化の魔法で体を清めて制服に着替える。

 ……さすがに平静シリーズなんていうダセェ格好でエリナ先生のところには行けないからね、身嗜みをきちんと整えるのさ。


 そんなこんなでやって来ました、エリナ先生の研究室前!

 コンコンコンと小気味よく扉をノックしたら、「どうぞ」とエリナ先生の返事が聞こえる!

 ああ、久しぶりに聞くエリナ先生の声……とってもステキだぁ!!


「失礼します、そしてお久しぶりです!」

「いらっしゃい、アレス君……ふふっ、また一段と成長したみたいね?」

「エリナ先生にそう思っていただけたのであれば、私の夏休みの過ごし方は正しかったのだと自信が持てます」

「ええ、一目見ただけで、魔力の質が夏休み前と大違いだということが分かったわ」


 こうしてエリナ先生に温かく迎えられる。

 これでようやく……完全に学園に戻ってきたという感じがするというものだ。


「夕飯はもう食べたかしら? カレーを作っていたのだけれど、よかったら一緒にどう?」

「いいんですか!? 喜んで!!」

「ふふっ、それじゃあ準備するわね」


 やった!

 といいつつ正直なところ、その期待がなかったといえばウソになってしまうけどね……それに、腹内アレス君にもガマンしてもらっていたしさ。

 てなわけで、久しぶりにエリナ先生の手料理を堪能させてもらう。

 それはほどよくスパイシーな辛さで、とても爽やかだった。

 こんなふうにエリナ先生の手料理を食べさせてもらえる俺……原作ゲームの主人公より親密度が上だと思うね! 絶対!!

 なんてことを頭の片隅で考えつつ、夕食を終えた。

 俺の心としては、これでもうじゅうぶんだといえるが、今日伺った本題はここからである。

 ……とその前に、お土産を渡しておこう。

 まずは、ソエラルタウト領で採れた茶葉を使用した紅茶!

 そして、スライムダンジョン特製のお菓子!!


「あらあら、こんなにたくさんありがとう」

「いえいえ、日頃からお世話になっているお礼でもありますし、今日も夕食をご馳走になりましたからね」

「あれぐらいでよければ、いつでも食べに来るといいわ」

「本当ですか!? ありがとうございます!!」


 まあ、社交辞令だってことぐらい、俺にだって分かっているさ……本音をいえば、毎日エリナ先生の手料理を食べたいけどね。

 それはそれとして、まず最初にソレバ村で起きたことと、ソリブク村やその周辺の村がマヌケ族に荒らされていたことを報告した。


「そう……農村ではそんな状況になっていたのね……」

「はい、一応手の届く範囲では対処しておきましたが、おそらく抜けや漏れがあると思います」

「そうね、ほかの地域の畑も荒らされているかもしれないし、私から報告を上げておくわ」

「よろしくお願いします」


 その辺の騎士団とかに報告するより、エリナ先生から宮廷魔法士団、そして王国上層部へ……って流れのほうが圧倒的に早いだろうからね。

 それに伴い、マヌケ族に施された自滅魔法の解除を試みたことも話した。

 ただし、ギドのことは伏せておいた……というか、ギドの正体が魔族だということは誰にも秘密にしておくつもりだ。

 ……いや、あいつはもう魔族ではない、人魔族なんだ。

 この世界において、そういう括りや名称があるわけじゃないので、俺の勝手な造語だけどね。

 それから、カッサカサに枯れ果てたマヌケ族の亡骸も引き渡しておいた。

 マヌケ族の暗躍の証拠にもなるだろうからね。


「これがその魔族というわけね……」

「私の感覚では、あともう少しという手応えみたいなものはありました。そして他者のせいにするように聞こえるかもしれませんが……先にこの魔族の心が折れなければ、あのまま光属性の魔力を注ぎ込んでいけば解除できたんじゃないかという気がしているのです……とはいえ、結局そうなる前に素早く解除できなかった私の実力不足ということに変わりありませんが……」

「う~ん、そうねぇ……普通に自滅魔法が発動した場合、こんなふうに原形を留めないみたいだし……アレス君のいうとおり、あと一歩だったと思うわ。そして、よくここまでできるようになったって褒めてあげたいところよ。というより、たぶん私がやっても失敗したでしょうし……だからこそ、私は眠らせる方向で考えたのだけれどね」

「なるほど、それでガイエル副学園長のような実力者や、人魔融和派に属する部族の長に自滅魔法を解除してもらうというわけですね! さすがエリナ先生です!!」

「ただ、そうやって隙をついて眠らせるのも、それはそれで難しさもあるのよねぇ……」

「確かに、そうかもしれませんね……」


 なんて2人して遠い目をする。

 とまあ、こんな感じで重要度の高い報告をしたあとは、俺の夏休みの冒険を語った。

 いやぁ、なんていうかさ、エリナ先生が俺の冒険譚をとっても楽しそうに聞いてくれるからさ! もうノリノリで語っちゃった!!


「そしてこれが! ウワサの平静シリーズです!!」

「まあっ! それがウワサの!?」


 フフッ……エリナ先生もノリノリだねぇ。


「ただ、デザインは少しその……お世辞にも格好がいいとはいえませんが……」

「ふふっ、ダンジョンのドロップ品はいろいろと変わった物が多いものね」


 そして簡単に身に付けられる物を適当にチョイスし、効果を試してみたエリナ先生。

 ……そこでちょっと恥ずかしそうに平静シリーズを身に付けたエリナ先生の可憐さといったら、もう!!


「なるほど……確かにこれは、訓練にとてもよさそうね」

「やはり! そうですよね!!」

「ええ、もちろん!」


 こんな感じで、話が弾む弾む!


「……あら、もうこんな時間。明日は始業式だし、今日のところはこれぐらいにしておきましょうか」

「おっと、長々と申し訳ありません。楽しくてつい……」

「私も楽しかったし、気にしなくて大丈夫。これからまたいつでも来てね、歓迎するわ」

「はい、ぜひ!」


 こうしてエリナ先生との幸せな時間を過ごした。

 そしてキズナ君を預かっていてもらったことについてもお礼を述べ、エリナ先生の研究室をあとにした。

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