第468話 楽しい時間はあっという間だった

 ソリブク村から学園都市へ向けて、ウインドボードで移動することにした。

 この辺は畑が広がっている関係上、地上を走って踏み荒らすわけにはいかないからね。

 そうして直線的に突き進むことができないので、道を選んで遠回りすることになってしまう。

 加えて速度を出そうとすると、下手したら誰かと衝突する恐れがある。

 いや、避けることも可能だとは思うけど、きっと相手をビックリさせてしまうだろう。

 それに今の時期だと、学園に通う生徒を送り届け終え、帰還の途についた貴族家の馬車が多いことも考えられる。

 ま、その辺のことに配慮して空中を移動するってわけだね。


「それにしても、アレス君はもう平静シリーズの6つ目に挑戦か~」

「ギドも5つ目……今日のところは大事をとって4つにしたが、明日からは私も5つに挑む」

「ええ、わたくしもそうしましょう……ですがアレス様、あまり無理をし過ぎないように気を付けてくださいませ」

「そうだよねぇ~アレス君のことだから大丈夫だとは思ってるけど、それでも私たちみんな心配しちゃうんだからね?」

「……特にリューネ様が心配する」

「学園では、今みたいに我々がおそばに控えることもできませんからねぇ……」


 まあ、生徒の自主性がどうのこうのということなのだろう、学園の決まりとして使用人を連れて行くことができないからね。


「うむ、そうだな……なるべく気を付けたいとは思う」


 といいつつ、約束はできんがな!

 それに、マヌケ族もまだまだ頑張るつもりみたいだし、そうすると魔王復活も視野に入れねばならんだろう。

 とまあ、そんな感じで空の上をかっ飛ばす。

 6つ目の平静シリーズの影響で魔力操作がいくぶん困難にはなっているが、そこは魔力のゴリ押しでね! なんとかしたった!!

 そうしてお昼の時間帯になったので、手頃な休憩広場に降り立つ。


「う~ん……アレス君と一緒にご飯を食べるのも、これでしばらくお預けになっちゃうんだねぇ……」

「ええ、残念ながらそのときが刻々と近づいておりますわね……とても寂しいですわ」

「……楽しい時間はあっという間だった」

「そうだな……単なる移動だけじゃなく、このメンバーでスライムダンジョンを攻略したり、ソリブク村では魔力操作の指導なんかもしたりと、なかなか盛りだくさんな内容で、俺も楽しい時間を過ごさせてもらったって思うよ」

「アレス様に満足いただけたのでしたら、我々にとってこの上ない喜びです」

「またこんなふうに、一緒に冒険しようねっ!」

「……そのときまで、もっともっと実力を磨いておく」

「それにしましても、こんなにも使用人と距離が近く……そして一緒にいてワクワクさせてくださる主はアレス様をおいてほかにはいらっしゃらないでしょう……そう思うと、わたくしたちはとても恵まれていますわね」

「そうですねぇ、そのことについては私も同感です」


 よせよ、そんなに褒められると照れちまうじゃないか。


「でも……ギドとばっかり仲がよかったのは、ちょ~っと悔しかったかな?」

「……思い起こせば確かに、アレス様はギドとつるんでばっかりだった」

「ええ、ええ! 本当にそうでしたわ!! 若干わたくしたちは除け者にされていましたものね!!」


 そうして、じとーっとした目を向けてくる3人娘……

 あれぇ? 急に風向きが……変わった!?

 この場面って、さすごしゅの嵐の中で「いや、普通にしていただけのつもりなんだが、まいったな……」とかそういうノリなんじゃないの!?


「……まあな、男同士のほうが何かと気楽だったっていうのはあるだろう」


 ここで一応ポーカーフェイスを維持しているつもりではあるが、内心ではちょいとアワアワしてしまうのも仕方あるまい。


「付け加えるなら、私とアレス様の主従関係もそれなりに長くなってきましたからねぇ……アレス様付きの使用人になって日の浅い方とは関係の深さも違うというものです」

「ふ、ふぅ~ん……」

「クッ……まだまだこれから、完全に負けたわけじゃない」

「ええ、そうですとも! わたくしたちにだって、まだまだチャンスがあるはずですわ!!」


 まあね、競い合うことでより成長できるのなら喜ばしいことだよ。

 そして3人娘……それにほかの使用人たちも実力を伸ばしていって、それぞれ単独でマヌケ族を軽々撃破できるようになっていってもらえたらと思う。

 原作ゲームのスケジュールでは、主人公たちが学園を卒業してから魔王復活となっていた。

 しかし、この世界でもそうなるとは限らない……早くなる可能性だってある。

 そう思うと、自分で自分の身を守れるよう、みんなにもより早くレベルアップしていってもらいたいところだ。

 そんなことを思いつつ昼ご飯を食べ終え、学園都市に向けて再出発する。

 そうしてまた数時間かっ飛ばし、夕方頃に学園都市に到着。


「……もう着いちゃったね~」

「これでしばしの別れ……」

「お名残り惜しいですが……仕方ありませんわね」


 このメンバーによる今回の旅は、ここで終わりとなる。

 そしておそらく、ギドたちは学園都市で一泊してから帰るのだろうが、明日の朝一で出発するだろうし、俺も学園が始まるから顔を合わせる時間もないと思う。

 ゆえに、ここでお別れとなる。


「アレス様……我々一同、またお会いする日を楽しみにしております。それまでどうかお元気で」

「ああ、みんなここまでご苦労だった! そして、ソエラルタウト領まで気を付けて帰るんだぞ!!」


 こうして挨拶を交わし、それぞれの向かう先へ。

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