第266話 魔法の試験が始まる

 運動場に試験監督の先生と試験を受ける生徒が集合し、魔法の試験が始まる。

 そして、Bクラス以下の生徒たちの意識は、これから試験を受けるAクラスの生徒に向くこととなる。


「それでは、フェイナ・カイラスエントさん」


 当然というべきか、最初は王女殿下だ。

 さて、お手並み拝見といったところかな。

 そうして、王女殿下は試験用の障壁魔法を展開させる装置のスイッチを押した……指名されてから自分のタイミングで開始できるからね。

 また、原作ゲームでも筆頭ヒロイン格の王女殿下だからか実力は確かなのだろう、次々と障壁魔法を破壊していく。

 だが、問題はすぐ消えるやつだ……なんて思っていたところで、ついに出現し始めた。

 残念ながら、王女殿下はそれらに魔法をヒットさせることはできなかった。

 ふむ……約1週間前の、攻略法として光弾を使い始める前の俺たちぐらいのレベルといったところか。


「やはり! 王女殿下は凄い!!」

「そのとおり! この試験、王女殿下が1位で決まりだな!!」

「や~ん! ステキ過ぎますぅ~!!」


 王女殿下の試験が終わったところで、見ていた生徒たちから絶賛の声がいくつも上がる。

 一応原作ゲームでも、主人公君を鍛えていない場合は王女殿下が1位だったからね、彼らがそう思うのも無理はなかろう。

 ただし、今回は俺がいる……悪いが、魔法の試験で1位の座は俺が頂く。


「次は、ロイター・エンハンザルト君」


 王女殿下のあと、そこそこの結果の生徒を挟んで、ロイターの番がきた。

 昨日の模擬試験の様子からすれば、俺には及ばずとも、かなりの好成績を残すことだろう。

 そう思いつつ、ロイターの挑戦を見守った。

 そしてロイターの試験が終わると……


「ぜ、全弾命中だと!? そんなのあり得るのか!!」

「なるほど、威力を出せる火属性と速度を出せる光属性とを巧みに使い分けたというわけか……」

「属性の違う魔法の使い分け、それも一瞬の判断で的確に……僕には無理だ……」

「し、しかも……あの絶対当てられないはずの障壁魔法に、当てるどころか……何枚かヒビを入れやがった……」

「やはり……奴こそが天才と呼ぶにふさわしい男のようだな」

「凄い! 凄い! 凄いぃ!! やっぱりロイター様は最高よ!!」

「どう? ロイター様を慕う私の目に狂いはなかったわね!!」

「いやいや、ロイター様が凄いのと、アンタは関係ないでしょ……」


 先ほどの王女殿下以上に歓声が上がっている。

 一応、すぐ消えるやつとそうじゃないやつを見分けること自体は、日頃から魔力操作を丁寧に練習していれば、そこまで極端に難しいことではないだろう。

 まあ、俺は使い分けとか面倒なので、全て光弾でいくつもりだけどね。

 それにしてもロイターの奴め、昨日からさらに光弾の威力が少し上がっているみたいだな、やるじゃないか。

 その後、興奮がある程度収まったところで、次の生徒が指名を受ける。

 ただ、微妙にざわつきが残っているせいか、ちょっとやりづらそうだね。

 そしてまた、数人の試験が終わったところでついに……


「次は、アレス・ソエラルタウト君」


 よっしゃ、俺の番がきた!

 エリナ先生! 俺、頑張りますからね!!

 そんな思いを込めて、試験の開始位置まで歩きながらエリナ先生を見つめると、小さく頷きを返してくれた!!

 エリナ先生、ありがとうございます!!

 そんなふうにしてモチベーションを高めてもらったところで……さあ、始めようか。


「……なんだそりゃ」

「障壁魔法の全てを破壊するとか、さすがに引くよな……」

「正直なところ、怖いという感情のほうが先にきてしまいますね……」

「あんなの……ライトバレットの威力じゃないでしょ」

「エグ過ぎよね……」

「これが『魔力操作狂い』たるゆえんというわけか……」

「やはり化け物……」


 俺の挑戦による結果は、周囲のどよめきでもって迎えられた。

 まあ、その辺の小僧や小娘の反応など、たいした問題ではない。

 そう思いつつエリナ先生へ視線を向けると……柔らかく微笑んでくれた!!

 そうだよ! 俺が欲しいのはそれなんだ!!

 フフッ、俺はもう、満足です。


「お前にとっては当然の結果だろうが、やったな」

「ロイターよ、お前もなかなかだったぞ? 昨日よりもさらに進歩していたようだし」

「まあな……さて、次はファティマさんたちだ」


 こんな感じで、Aクラスの生徒が一巡したところで、Bクラス以下の試験がそれぞれ始まり、俺とロイターは観戦モードに移行。

 そして早い段階で、ファティマたちBクラスの3人は試験を終えた。

 ファティマは、ほぼロイターと似たような結果。

 サンズとパルフェナは、王女殿下と同じか、ちょっと上ぐらいってところかな。


「あとはソイルだけか……」

「私たちにできることは、成功を祈ってやるぐらいだな」


 なんてロイターと話していると……


「次、ソイル・マグナグリンド!」


 ついに、ソイルの番がきた。


「おぉ、能無し野郎の出番だぞ?」

「さてさて、どのような無様をさらすのか、見ものだねぇ」

「くすくす……そういうこといっちゃ、かわいそうよ?」


 ヴィーンのパーティーを追放されたからか、はたまた俺たちのパーティーで活動をしていたせいか、ソイルに注目が集まっている。

 ……お世辞にも、いい感じの注目のされ方ではないけどね。

 当然、ヴィーンの取り巻きの2人も敵意のこもった目を向けている。

 そして、Bクラスにいたヴィーンはどうかと思えば、相変わらず何を考えているのかよく分からない感じでソイルを見てはいる。

 まあ、一応まったくの無関心というわけでもないみたいだな。

 それにしても、何気にこの1週間は秘密特訓をしてたみたくなってたからなぁ……周りの連中がソイルを侮った態度のままなのもしょうがないというべきだろうか。

 ただ、ソイルの奴も……少し離れたこの位置からでも分かるぐらい、緊張により顔がこわばっている。


「アレス……ソイルの顔色があまりよくないな」

「ああ、そうだな……ここはひとつ、激励の声でも送ってやらねばならんか?」

「それでどこまで落ち着くことができるかは微妙なところだが……多少はマシかもしれんな」

「ふむ、仕方ない……」


 そう思って俺たちが声を出しかけたとき、こちらへ顔を向けたソイルと目が合った。

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