第267話 そのうち慣れる
ソイルの視線は、焦点の定まっていないような様子だった。
だが、俺と目が合ったことがきっかけとなったのか、そこから少しずつソイルの目に力がこもり始めていく。
そして、険しかった顔つきにも、徐々に自信と余裕が感じられるようになってきた。
……もう、大丈夫だ。
「……アレス、どうやら私たちの激励は必要なさそうだな」
「ああ、アイツは自分で乗り越えた」
「うむ」
こうしてロイターと俺は、ソイルが自信を持って試験に臨めることを確信した。
そうしてソイルが試験開始のスイッチを押す前に、最後の精神統一をしていたところ……
「どうしたぁ! さっさとやれよぉ!!」
「ヘイヘ~イ、ソイルちゃんビビってるぅ~」
「あ~あ、黙って立ち尽くしてても試験は終わんないのに……ああいう男ってダッサイわよね~?」
「本当、ナシって感じ」
「そう? 私はああいう弱虫な男の子って、意外と嫌いじゃないのよね……素晴らしい泣き顔を見せてくれそうだし、きっと泣き声なんかもステキよ?」
「ごめん、分かんない……」
「たぶん、アンタだけ……」
小僧や小娘たちが好き放題いっている。
だが、そんな侮りの言葉を吐けるのも今日までだ。
ソイルの実力を知って驚くがいい!
あと、俺が初めて会ったときみたいな軟弱ソイルのままでも地味に需要はあったみたいだね……遠慮したい感じではあるけどさ。
「さて、準備が整ったみたいだな」
「ああ、気合のこもった魔力が漲っているのが、ここからでも感じられるぐらいだ」
そしてソイルは、開始のスイッチを押した。
さあ、お前の磨き抜かれたストーンバレットを、こいつらに見せてやれ!
そうして、1枚、2枚……と次々に障壁魔法を撃ち抜いていくソイル。
単に当たるだけではなく、貫通する枚数が増えるごとに、最初はまぐれだと高をくくっていた周囲の奴らから声が失われていく。
そうだ、いいぞ。
また、すぐ消える障壁魔法に対しても、何発か当てることに成功した。
これは一応、サンズやパルフェナもできていたのだが、それでも1年生全体から見たら快挙といっていいだろう。
こんな感じで、すぐ消えるやつは仕方ないにしても、それ以外はパーフェクトで試験を終えた。
「……うそ、だよな」
「し、信じられない……」
「おい! 誰だよソイルが能無しだって言い出した奴は! 騙されちまったじゃねぇか!!」
「え、でも……ソイルって、え? なんで?」
「けど、アイツって……魔力操作狂いたちと一緒にいたときは、冷や汗垂らして突っ立ってただけだろ? わけ分かんねぇ!!」
「……私は! ソイル君ってホントは凄いんだって信じてたわ!!」
「あ、ズルい! あ、あたしだって、ソイルっていいなぁって思ってたし!!」
「えぇ……みんなさっきまでボロクソにいってたのに、変わり身早過ぎでしょ……」
試験を終えてソイルは、やり遂げたという表情でこちらに顔を向けてきた。
そのため、俺はゆっくりと大きく頷いてやった、もちろんロイターも隣で同じようにしている。
するとソイルは、輝かんばかりの誇らしげな笑顔を見せた。
「……ソイル君ってあんな顔で笑うんだぁ」
「悪くない……いえ、凄くいいわね」
「アタシ、キュンってきた!」
「……あんな凛々しい顔をするんじゃ、もう駄目かもしれないわね……せっかくの逸材だと思っていたのに、残念だわ」
「あなたの好み、やっぱり分かんない……」
「発想が、違い過ぎる……」
急激にソイルの人気が上昇し始めている。
しかしながら、軟弱ソイル推しだった小娘はオタ卒しそうな雰囲気。
なんていうかソイルの奴……勝手に好かれて勝手に振られたみたいになっちゃったね。
それはともかく、ヴィーンの取り巻きの2人は目を見開き、驚いて固まったままの様子。
なるほど、これが「ざまぁ」という感覚か……
そして、ヴィーンにも目を向けてみると……いつもどおりの何を考えているのか分からない表情の中に、どことなく柔らかさがあるような……いや、気のせいか?
う~ん、ヴィーンのあの反応……拍子抜けというべきか、やっぱりというべきか……
でもまあ、ネガティブな感情が荒れ狂ってますって感じよりはいいのかなぁ。
とかなんとか思っているうちに、全ての生徒が魔法の試験を受け終えた。
なんか、あっという間に終わったって感じだね。
そして、全体をガッチリ見たわけじゃないけど、魔法の試験はうちのパーティーで上位を独占できるかもしれない。
あ、そういえば、主人公君がどうだったか見てなかったな……完全に忘れてた。
とはいえ、自分のパーティー、特にソイルのことが気になってたからさ、仕方ないよね?
それに、俺が気付くほど騒がれてもいなかったみたいだし、たぶん普通って感じの結果だったのだろう。
まあ、あんまり育てない系のプレイヤーなら、この時期の主人公君の成績が振るわなくても、そんなにおかしくはないはず。
ただ、こんな調子で主人公君がさほど目立たない存在のままなら、この先期待できないかもしれない。
だがどちらにせよ、俺がすることは変わらない……強くなること、それだけだ!
「それじゃあ、ファティマさんたちと合流して、昼食に行くか」
「ああ、ソイルの奴も褒めてやらんとだしな!」
「うむ……と思ったが、今は無理かもしれん」
「なるほど、小娘どもに囲まれているな……しかも、焦った感じの魔力がだだ漏れじゃないか、いかんなぁ」
「まあ、ソイルもそのうち慣れる……といいな」
「まったくだ」
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