第268話 走ることに目覚め始めたみたいだね

 ファティマたちBクラスの3人と合流し、お昼を食べに食堂へ移動する。

 そして、ソイルは置いてきた……小娘どもに囲まれて身動きできそうになかったからな。

 まあ、今日の昼食後は運動場に集合ということはソイルも知っているので、小娘どもの包囲網を突破できれば、そのとき来るだろう。

 ちなみに、なんで今日は運動場なのかというと、明日に予定されている運動の試験が運動場でおこなわれるので、コースを走る感覚を改めて確認しておこうという趣旨である。

 とはいえ、模擬戦などで運動場は日頃から使っていたり、既に運動場で走ったりなんかもしているので、そこまで深刻なものでもない。

 そんなわけで、軽い下見ってイメージでいいんじゃないかと思う。

 なんてことを思いつつ、お昼をいただく。

 また、ソイルも小娘どもに囲まれながら、食堂へやって来た。

 うん、思いっきり「戸惑いを隠せません」って感じだね。

 それと、ざっと食堂を見渡してみた感じ、さほどソイルに嫉妬の炎を燃やしてるって感じの小僧はいない。

 というのも、ここは中央棟の食堂だからね……カップルとかそれなりの人数の男女グループばかりなので、ある程度は余裕があるのだろう。

 ただし、その中にはソイルという新星にいくらか興味を持った小娘もいるようで、それに対して警戒感をにじませている小僧もいることは確かだ。


「ソイル君ってば、すっかり注目の的だねぇ」

「そうね……まあ、女子の場合は『どれだけ優秀な男子を捕まえられるかが勝負』って考え方が主流だもの、仕方ないわ」

「そうだねぇ……みんな、ソイル君の凄さを知ってビックリしただろうなぁ」

「ええ、それは間違いないわね」


 こういう話題ではダンマリを決め込んでおいたほうがカシコイ選択といえるだろう。

 それに、ロイターとサンズもあえて口を挟もうとはしていないところを見るに、同じ考えなのだろう。

 というか、モテモテ男子のロイターとサンズは、これから本格的に始まるであろうソイルの苦労に思いを馳せている可能性すらあるな。

 だいぶ形骸化してきているらしいとはいえ、女子のお誘いは断れないっていう面倒なルールがあるからね。

 だが、ソイルの場合はグイグイ引っ張ってくれる系女子のほうが合ってるかもしれないから、その辺はなんともいえないところだ。

 とまあ、お昼はこんな感じで過ぎていき、お腹も休まったところで運動場へ向かう。


「お昼をご一緒できずに、すいませんでした」

「いや、気にすることはないぞ?」

「ええ、そうですとも」


 ロイターとサンズが、いたわりの眼差しをソイルに向けている。

 なんか、この男子3人の仲間意識がさらに強まったように見えるのは俺だけだろうか。

 ……微妙に疎外感があるな。


「それじゃあ、みんなそろったところで走りましょうか」


 ロンリーアレスになっていたところで、ちょうどよくファティマの号令がかかり、運動場内を走り始める。


「ねぇ! 明日の試験に疲れを残しちゃいけないからさ、今日は走るのやめとこうよ~」

「疲れ? そんなもの気にするな、なぜならポーションを飲めば回復できるのだからな」

「そういうこった、だからゴチャゴチャいってねぇで、しっかり走れ」

「試験対策で走るのは今日までだからさ、最後まで頑張ろ?」


 お、あの賑やかな4人組、今日も走るのか。

 しっかし、あのクラス落ち覚悟の奴……最後までサボりたがっていたが、結局は周りの奴に促されて頑張り続けてしまったみたいだな。

 フッ、いいことだ。

 そんなことも考えつつ、夕食の時間まで走り続けた。

 もちろん、そのあいだもソイルには小娘どもから熱い声援が送られていたね。

 それについて、まったく想像していなかったわけではないが……急激な手のひら返しに驚かないといえば、ウソになるかな。

 それから、夕食はソイルも一緒だった。

 小娘どもとしてはソイルを誘いたい雰囲気を出していたが、さすがに俺たちを押しのけてっていうのは無理だったみたい。

 まあね、俺とかおっかないもんね?

 そんなこんなで、夕食も美味しくいただいて……さらに走る!

 そして夕食後の運動場は、昼間に比べたら人が減っていた。

 いやまあ、当然といえば当然かな?

 だが、俺たちは最後の最後まで頑張るんだ!

 といいつつ、明日の朝もたぶん走ると思うけどね。


「いーやーだー! もうこれ以上走んなくてもいいじゃ~ん!!」

「ここまで頑張ってきたんだからよ、いけるとこまでいっとかないともったいねーべ」

「そうそう、僕なんかこの走り続けの日々が終わることにちょっと寂しくなってきてるぐらいだし」

「そうか……ならばこれからも走り続けるか?」

「おっ! それもいいかもしれねぇな!!」

「そうだね! せっかくいい習慣ができてきたんだし、このまま終わるんじゃ、やっぱりもったいないよね!!」

「ゲッ! ボクはそんなの知らな~い!!」

「あ、コラ! 逃げんな!!」


 あの賑やかな4人組……約1名を除き、走ることに目覚め始めたみたいだね。

 うん、青春って感じでいいと思う。

 そしてクラス落ち覚悟の奴も、なんだかんだいいながら一緒に走らされるんだろうなぁ……まあ、頑張りたまえよ!

 こうして、夕食後の時間もしっかり走って、明日の運動の試験に備えたのであった。

 フッ、運動の試験でも俺たちがトップを独占だ!

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