第257話 僕の魔法も調子がいいみたいですし

 ソイルが苦しがったところで我に返り、抱擁を解いた。

 そういえばゴブリンハグも、これで命を落としたのだったか……

 命とは実に儚いものよな。

 そんな感慨にも耽りつつ、いざ! 森の中を走らん!!


「それじゃあいつもどおり、ソイルを先頭にして走るわよ」

「うん!」

「よし!」

「ソイルさん、気合いのこもった魔法、期待していますよ!」

「はい! 任せてください!!」

「フッ、これは頼もしいものだな」


 ソイルめ、なかなかイキイキとした目で返事をするじゃないか!

 そうして、今日も森の中を走り始める。

 また、昨日のソイルは、割と力押しみたいな魔法の運用の仕方だった。

 しかし今日は、先ほど魔力との和解に成功したおかげか、なかなかにスマートな魔法の運用ができている。

 それは、遭遇するゴブリンたちに威力の過不足なくストーンバレットを撃ち込み、一撃で仕留められているところからもうなずける。

 昨日は回収不可能なグチャグチャなのばっかだったしさ……


「む? 今日はオークの領域に入るのだな」

「これまでのソイルさんは、ゴブリンの領域をメインとしていましたものね」

「えっと……今日は少し冒険してみようかと思いまして……なんか、僕の魔法も調子がいいみたいですし」

「いいわね、思う存分やりなさい」

「何かあったときのフォローはしっかりするから、自信を持ってね!」

「はいっ! ありがとうございます!!」


 オークの耐久力からすれば、ゴブリンほど簡単にはいかないだろう。

 だが、ソイルの真の実力が発揮されれば、なんの問題もあるまい。

 そう思っているうちに、早速1体目のオークのお出ましだ。

 さあ、ソイルよ……お前の本当の魔法を見せてみろ!


「……ここは大事を取って、ストーンランス!」


 オークの比較的強固な皮膚、そしてたっぷりとした筋肉に阻まれて、ストーンバレットだと仕留めきれない可能性を危惧したみたいだな。

 そうして、射出されたストーンランスはオークの胸部へ吸い込まれていき、おそらく心臓を刺し貫いたのだろう。


「……ブ、ゴォ」


 オークは、まるで墓標のような石の柱を胸に立てながら仰向けに倒れ、その生涯に幕を下ろした。


「オークを一撃! やりましたね!!」

「うむ、まずまずだな」

「まあ、当然ね」

「ソイル君いい調子! このまま頑張れっ!!」

「ああ、それでこそだ!」

「みなさん……ありがとうございますっ!!」


 まあね、野営研修とかで既にオークを狩りまくりだった俺たちからしたら、今さら感がないとはいわない。

 だが、最近まで威力を抑えた貧弱なストーンバレットしか撃ってこなかったソイルが、的確な威力の魔法を選択してオークを討伐することができたのだ、これは大きい。

 うん、いい感じだ!

 そう思いながらオークを回収し、今日の夕食は焼き肉もアリだな、とか考えていた。

 こんなことを考えれば当たり前のことかもしれないが、腹内アレス君が反応しちゃったね。

 それはともかくとして、遭遇するオークを1体また1体とストーンランス、ときにはストーンバレットも試しながら屠っていくソイル。

 順調だねぇ。

 このようにして奥へ奥へと走って行くと、オークの集落があった。

 魔力探知によると、そこには人間の反応がなくオークのみ。

 そのため、冒険者たちと獲物の取り合いってことにはならなさそう。

 やった、食べ放題だね! とか思っていたら……


「そうですか、あそこにはオークしかいない……であれば、ここは少し威力強めの魔法を試してみます!」

「ほう?」

「これは見物ですね!」

「あら、それは期待できそうね」

「いっけぇ!」

「……え? 威力強め? それってどれぐらい……」


 あんまりヤベェのは……と思いかけたところで……


「ロックッ! レインッ!!」


 あ、たぶんそれマズいやつだ! お肉的に!! 

 そう腹内アレス君が叫んでる!!


「ちょっ! 待っ……!!」

「……え?」


 俺の制止もむなしく、ロックレインは発動されてしまった……

 そう思いきや、中途半端なところで俺が止めようとしたせいか、岩の雨がオークの集落に降り注ぐ中ソイルの魔法の制御が甘くなってしまったようで、まだ生成途中の岩が空中で……爆発した。

 ……この派手さ、原作ゲームの中で見たことある……魔法の暴発だ。

 やっべぇ、俺が原因でソイルの魔法を暴発させてしまった……

 そして、岩の欠片があちらこちらに飛び散る中……


「す、すみませんッ! みなさん大丈夫ですか!?」


 ソイルの焦ったような声が響き渡る。


「ああ、何も問題はないぞ」

「はい、ご安心を」

「別に、あの程度で大騒ぎする必要はないわ」

「ソイル君のほうこそ大丈夫だった?」

「えっと、はい……でも……あのときも僕は、無意識ではあったけど、とっさに障壁魔法で自分の身を守ってしまった……その一瞬、ヴィーン様のことを忘れて……僕は……」

「ソイル、それは普通のことだ」

「そうですよ、それにまだそういった特別な訓練は受けていなかったでしょう?」


 ここで、ロイターとサンズのフォローが入ったが……


「……そう、ですけど……今回も僕は、調子に乗って強い魔法を使おうとして失敗してしまった……」

「いや、すまんソイル! 今のは俺が途中で余計なことをいったからだ! お前のせいじゃない!!」

「いえ、それでも途中で魔法の制御を誤ったのは僕です……」


 あぁ、せっかくいい感じでここまできていたのに、なんてことをやっちまったんだ俺は……


「何をメソメソしているのかしら? ようやく魔法の暴発という目標を達成したんじゃないの、むしろ『やってやった』と誇ったらどう?」

「いや、そんなわけには……」

「私たちをよく見てみなさい、誰一人として傷ついていないでしょう?」

「それは……そうですけど……」

「失敗できるあいだは、何度でも失敗すればいいの……私としては、一度も魔法の暴発をさせることなくすんなりと進むほうが問題だったと思っていたぐらいよ?」

「ファティマさん……」

「それに、ああだこうだと偉そうにいっていたアレスだって、余計なことをして失敗した……どうせあなた、『オークのお肉がもったいない!』とでも思ったのでしょう?」

「……おっしゃるとおり、面目ない」

「ほら、こんなものよ? こんなふうに私たちだって大なり小なりいろいろな失敗をするわ……だからソイルも、そんなに落ち込んでは駄目」

「ファティマさんのいうとおりだな」

「そうですよ、それにオークの集落だってキッチリと潰せていますし、何も問題ありません」

「そうそう! しかもさっきのロックレインも凄かったよ! 私ビックリしちゃった!!」

「……みなさん、本当に……ありがとうございます」


 魔法の暴発によって落ち込みかけていたソイル。

 そして、やらかしてしまった俺。

 それがファティマを筆頭としたみんなの温かい言葉により、持ち直すことができた。

 みんな、ありがとう……


「ソイル……仲間って、いいもんだな」

「……はい」

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