第258話 切ない顔をして食べるものじゃない

 俺のやらかしのせいで、魔法の暴発をさせてしまい、落ち込みかけていたソイル。

 だが、ファティマたちパーティーメンバーによるフォローで気を取り直し、森の中ランニングを再開。

 その後は大きな失敗もなく、夕方まで走り抜いた。

 もしあのままだったら……と思うとゾッとしてしまう。

 そのため、ソイルがあとに引きずることなく済んでよかったという気持ちでいっぱいである。

 学園までの帰り道は、そんなことを考えていた。

 そして学園についたところで、ロイターからの提案。


「今日は久しぶりに、焼き肉といこうか」

「おお、それはいいですね!」

「私も、さんせーい!」

「そうね、ちょうどオークのお肉もたくさんあることだし……アレスご自慢の解体技術も久しぶりに見せてもらおうかしら?」

「お、おう」


 みんなの気遣いが身に染みるね。

 そうして俺たちは、そのままバーベキュー施設へ移動する。

 その移動中……


「焼き肉かぁ、ヴィーン様たちと昔はよくやったなぁ……」


 ソイルは「焼き肉」をキーワードに、回想モードに入ってしまったようだ。

 ま、今はあんな感じで離れてしまったが、楽しかった思い出だけはそう簡単に忘れられないといったところか。

 ……よっしゃ! お前に新しい思い出をプレゼントしてやろうじゃないか!!


「ソイルよ、お前に本物の解体というものを見せてやる!」

「えっ? あ、はい……楽しみにしていま……す?」


 若干、何が何やらという反応のソイルであったが、まあいい。

 こうして、今日食べる分としてオーク2体を華麗に、鮮やかに解体して見せてやった!

 どうだっ!!


「す、凄いです……」

「まあ、アレスは解体にもやたらと情熱を燃やしているからなぁ」

「ですねぇ」

「それに、すっごい集中力だったね!」

「ふふっ、そうね」


 フッ、この賞賛の声……気分がいいね!

 そんなこんなで準備を済ませ、焼き肉を始める。


「うむ、やはり美味いな」

「そうですね」

「今日もいっぱい運動したんだから、美味しいのも当然だよね!」

「まあ、反論の必要はないわね」

「美味しい……です……本当に……」


 焼き肉を楽しんでいる中、ソイルはいろいろと噛み締めているようだった。


「ほれ、もっと食え! どんどん食え!!」

「……あ、ありがとうございます」


 焼き上がった肉をソイルの皿に放り込んでやった。

 今このときぐらいはヴィーンたちのことを忘れて、楽しめ。


「うむ、ソイルはもっと食わねばならんな、というわけでこれはおかわりだ」

「ロイター様のおっしゃるとおりですね、といわけで野菜もどうぞ」

「じゃあ、私も入れちゃお!」

「ソイル、男性というものは、もっと体格のいいほうが素敵よ?」

「わ、わわっ……みなさん、ありがとうございます」


 こうして、ソイルの皿は肉と野菜でこんもりと盛り上がってしまった。

 それを、はにかんだ笑顔を浮かべながら食べていくソイル。

 焼き肉は切ない顔をして食べるものじゃないからな、それでいい。

 それと……微妙に忘れかけていたけど、相変わらずファティマはデブ専なんだなぁ。

 そこでなんとなく、ロイターとサンズに目を向けてみる。

 この2人も、俺に負けず劣らずで常にかなりの量を食べているのだが、ずーっとスラリとした体型を維持している。

 加えてサンズに関していえば、背が低いまんま変わらず。

 まあ、俺もダイエットを成功してからそのままだし……やっぱこの辺は、そういう強制力でも働いているのかな?

 でも、原作ゲームの強制力らしきものはそこまで感じていないし、実際のところどうなのか、よく分からんね。

 ま、どちらにせよ、そんな強制力などはね返すのみさ!

 こうして、楽しい焼き肉の時間が過ぎ、今日も模擬戦をするため運動場へ。

 もちろんこの際、浄化の魔法等を使って消臭もしてある。

 フッ、これが男のエチケットというもの。

 いやまあ、女の子であるファティマとパルフェナも一緒だから、男に限った話じゃないけどね。

 そして運動場では、今日もギャラリーがギッシリ。

 毎度のことながら、「君らは試験の準備をしなくていいのか?」って問いたいところだが……それは大きなお世話かな。

 そんなわけで、いつものように模擬戦をスタートさせる。

 内容的には昨日とほとんど同じ。

 ソイルは阻害魔法全開で、ほかのメンバーはストーンバレットの撃ち合いがメイン。

 ただ、日に日に弾速も上げていっているので、難易度は相応に高くなっている。

 あと、石自体はそんなに固いものをイメージしていないので、当たっても大怪我をするってことはないはず。

 かといって、それが痛くないというわけではないが……


「さすがに、もう今さらって感じだけど……なんか、俺たちとすっげぇ差が開いているよな……」

「……せっかく気付かない振りをしていたんだからさ、そういうことはいっちゃ駄目だよ」

「まあ、せめてもの救いは、大量のストーンバレットのうち、何割かはミスってることだよな」

「……いや、思うにあれは、ミスではないかもしれんぞ?」

「は? ミスじゃないなら、なんなんだ!?」

「……阻害魔法の可能性がある」

「えぇっ! ホントに? でも誰が!?」

「もしかするとだが……」

「うそでしょ……視線の先ってソイルだよね!?」

「おいおい……アイツは冷や汗を垂らしながらやってる感だけ出して突っ立ってるだけだろ……まったく、悪い冗談はやめろって」

「……冗談で済めばいいがな」


 ほほう、ようやくソイルの実力に気付き始めた奴が出てきたみたいだな。

 だが、あの様子だとまだ、半信半疑といったところか。

 ……惜しいな。

 それにしても、ほかの奴らも単なる娯楽としての観戦だけじゃなく、もっとしっかり魔力を感じろ!

 そうすれば、より上質な経験を得られるはずだ!!

 なんてことも思いつつ、今日の模擬戦を終えた。

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