第256話 己の魔力と和解

「集まったわね、それじゃあ森へ行きましょう」


 昼食を済ませて学園の正門に集合し、これから森へ向かう。

 ソイルも鍛え始めてから、徐々に魔法を行使することへの恐怖感を克服しつつある。

 とうとう昨日なんか、「上を目指す」って言葉まで出たぐらいだしな、いい傾向だよ。

 さて、今日はストーンバレット以外にどんな魔法を見せてくれるのかな?


「ソイルよ、期待しているぞ」

「はいっ!」

「うむ、いい返事だ」

「アレスの師匠面は、今日も絶好調だな」

「ですねぇ」


 はあ? 師匠面なんかしてねぇし! これが俺の普通だし!!


「ふふっ、アレスの上から目線は、割といつもどおりのことといえるけれどね」

「……ファティマちゃんも、まあまあ負けてないと思うけどなぁ」

「……パルフェナ、よく聞こえなかったわ、もう一度いってくれるかしら?」

「ううん! なんでもないよ!!」

「そう?」


 ファティマさん……今の、絶対聞こえてたよね?

 俺もさっきソイル相手に同じことをしたけどさ……実際、外から見てたらバレバレってことがよく分かるよ。

 そんな和気あいあいとした会話を楽しみながら移動中、5人の少年少女から声をかけられた。


「「「「「こんにちは、アレスさん!」」」」」

「……おお、お前たちか! 久しぶりだな!!」


 よく見たら、以前ただの草に魔力を込める技術を教えてあげた少年少女たちじゃないか。

 なんか、キレイに声がそろっていたけど、これも魔力交流のおかげかな?

 ……なんちゃって。


「アレスさん、これを見てください!」


 そういって、草を取り出すリーダーっぽい子。


「どれどれ……ほう」


 それは下級の薬草だった。


「アレスさんに教えてもらった魔力操作を頑張ったら、ここまでできるようになりました! ……といっても、1日に1本できるかどうかで、それも何度か休憩を挟みながら、集中して長い時間をかけてやっとって感じですけどね」

「いやいや、素晴らしい進歩じゃないか! お前ら、凄いぞ!!」

「「「「「えへへ」」」」」


 また、声がそろってる……

 それはともかく、この子らと初めて会ったときは、最下級の薬草1本がせいぜいと評価した。

 それが今となっては、品質がギリギリとはいえ、れっきとした下級の薬草にすることができている、これは快挙といっていい。


「……お前ら、だいぶ頑張ったんだな! 偉いぞ!!」

「「「「「いやぁ、それほどでもぉ」」」」」


 声がそろっていることには、そろそろ触れないでおこう。

 そして、褒められて嬉しいのか、5人とも表情が緩みっぱなしだ。


「それで、トレルルスの錬金術指導はどうだ?」

「はい、まずは薬草の見分け方を教えてもらって……そうそう、この下級の薬草も、そうやっていい薬草を見分けたおかげでできるようになったんです!」

「へぇ、なるほどなぁ」


 トレルルスもしっかり教えてくれているようだな。

 この子らも、いい師匠に出会えてよかったなぁ。

 いや、この子らの頑張りがそれをつかみ取ったというべきか。

 そんな感じで、少年少女たちの軽い近況報告を受けたのだった。


「それでは、これからトレルルス師匠の指導がありますので、これにて失礼させてもらいますね。話を聞いてくださり、ありがとうございます!」

「「「「ありがとうございます!」」」」

「いや、俺もお前たちの成果を聞けて嬉しかったよ、それじゃあ、またな!」

「「「「「では、また!」」」」」


 こうして、錬金術師の卵である少年少女たちは去っていった。

 やっぱ、こういう輝かしい未来に向かって進んでいるって感じ、いいもんだよねぇ。


「話には聞いていたので、知らなかったわけではないが……お前はいろいろなところで魔力操作を奨励しているのだな」

「僕たちのような、ある程度魔力を持った貴族家の人間でも魔力操作はサボりがちで……貴族家の人間でもなければ、なおさら魔力操作はやりたがらないというのに、彼らは前向きに取り組んでいる様子……」

「そうだねぇ、私も小さい頃は『つまんない!』っていって駄々をこねてたなぁ……ファティマちゃんが『一緒にやろう』っていってくれたから、渋々でもやるようになっていったけど……」

「ふふっ、誘った私に感謝することね」

「うん、そういうことをいわなかったら、感謝してたかなぁ……って冗談だよ、ありがとうね、ファティマちゃん」


 ふむ、パルフェナですら、最初は魔力操作をやりたがらなかったわけか……

 やっぱ、そんなもんなんだなぁ……

 そして、ソイルの独り言が漏れ聞こえてくる。


「……保有魔力量が少ないのに、あの子たちはあんなに積極的……それに比べて僕は、自分の保有魔力量に恐れ、消極的になっていた……魔力がもっとあれば、あの子たちはもっと楽に錬金術だって学べただろうに……それを思えば、僕は恵まれていた……恵まれていたんだ!」

「そうだな、お前も俺も、魔力には恵まれていた……感謝しないとだな」

「はい! 魔力を恐れるなんて、僕が間違っていました!!」

「ああ、そのとおりだ! それが分かったのなら、魔力を愛せ! 愛と感謝を込めて魔力と語り合え! それが魔力操作の真髄だ!!」

「愛と感謝……愛と感謝! はいっ、分かりました! これからは愛と感謝を込めて魔力と語り合います!!」

「よし! よくいった!!」

「アレスさん!」

「ソイル!」


 そして感極まった俺たちは、なんとなくノリで熱い抱擁を交わす!


「……ときどきアレスさんのノリが行き過ぎかなって思うときがありますね」

「……まあ、否定はしない」

「ふふっ、面白いからいいじゃない……それに、これでまたソイルも一回り大きくなれそうだし」

「う~ん、吹っ切れたって感じはするけど……でも、なんていうか……ヘンな感じの方向に進まないようにだけは注意しとかないとだねぇ」


 フッ、己の魔力と和解し、迷いを吹っ切ったソイル……こいつはちょっとやそっとじゃ止められないぜ!!


「……アレスさん……ちょっと、苦しいです……」

「あ、ごめん」

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