第158話 生命力に満ちたとても鮮やかな姿
エリナ先生との空の旅。
それはとてもとても素敵なものだった。
流れゆく景色がどれも輝いて見え、エリナ先生と一緒なら世界はこんなにも素晴らしいと感じられるのだなと思った。
そして、風にたなびく髪を手で押さえるエリナ先生のしぐさは、何よりも美しく、可憐だった。
あの光景は、生涯俺の心の中に大事にしまっておこう、そんなふうに思ったものだった。
そうした幸せなひとときを過ごし、学園都市に到着。
「着いたわね」
「はい……楽しい時間だったからか、あっという間でした」
「ふふっ、そうね」
その後は、学園までの道のりをちょっとした会話を楽しみながら帰った。
「それじゃあ、私は研究室に戻るわね」
「はい、今回はお忙しい中、私のために大変お世話になりました」
「そんなことは気にしなくて大丈夫よ」
「ありがとうございます……それと……もしよかったら……また、ボードで空の散歩をしませんか?」
「ええ、いいわよ」
「本当ですか!? とっても嬉しいです!!」
「ふふっ、そのときを楽しみにしているわね」
「はいっ!! それでは、今日のところはこれにて失礼します」
名残惜しいが、あまり長く引き止めるのも悪いからね。
次の約束もオッケーをもらえたことだし、あとはスマートに立ち去るのみさ。
そんなわけで、挨拶を交わして自室に戻る。
さて、キズナ君は元気にしてたかな?
そんなことを思いつつ、自室のドアを開け、中に入る。
「ただいま! キズナ君!!」
まぁ、部屋を空けたのはたった数日だから、当然と言えば当然だけど、特に大きな変化はないね。
そんな帰宅の挨拶も済ませたところで、一度シャワーを浴びる。
ただ、浄化の魔法を小まめにかけていたから、さほど汚れてはいないのだけどね。
特にエリナ先生と一緒のときは、入念にキレイにしていたし。
そうしてシャワーを終え、いつもの流れでポーションを一本グイッといこうと思ったとき気付いた、全て使い果たしていたことを……
そのときまた、自分のふがいなさに気持ちが沈みかけたが、クヨクヨしているわけにもいかないと思い直し、気持ちを奮い立たせた。
そしてポーションは明日にでも、トレルルスの店に買いに行くとしよう。
ああ、部屋に置いてある保存庫にも何本かストックしておくのもいいな。
……なんで今まで気付かなかったんだろ、やっぱ俺っていろいろ抜けてんな。
そんなことを思ってみたりもしながら、夕食の時間までキズナ君に今回の野営研修での出来事を話して聞かせる。
「そんなわけでさ、今度またエリナ先生と空の散歩ができるってワケさ! いいでしょ? さて、そろそろいい時間だな、夕食を食べてくるから、またね、キズナ君!」
キズナ君への報告も終え、男子寮の食堂に移動。
そしていつもどおり、ロイターとサンズもやって来る。
「……どうやら気持ちに区切りを付けることができたようだな」
「ああ、いろいろと心配をかけて悪かったな」
「気にするな……それに結局、私は何も力になってやれなかったしな」
「そうですね……僕も、自分の無力さを痛感しました」
「……いや、そんなことないさ……だが、ああいう形の不意打ちへの対処という課題が見つかったのも確かだ……今日の模擬戦の時間は、その点も視野に入れて訓練してみるか」
「そうだな……私もサンズもお前ほど魔纏を常時展開しているわけではないし、やっておいたほうが良さそうだ」
「僕も同感です」
「よし、決まりだな!」
そんな感じで夕食を食べ終えた俺たちは運動場へ向かう。
そこで、隠形で姿を消した敵を想定した戦闘訓練として、2人が模擬戦をやっているあいだ、残った1人が姿を隠しながら模擬戦をしている2人の隙を見つけて攻撃を加えるということをやってみた。
ただ……気に入らないことではあるが、あの騎士の隠形の技術は本物だったようで、俺たち3人の練度ではあの男ほど完璧に隠れきれず、ある程度察知されてしまう。
まぁ、来ると分かっていて警戒しているからっていうのもあるとは思うが……
とはいえ、今日始めたばかりなので、これから隠形の技術も磨きながら追々と上達していくって感じだろう。
そんなわけで、時間いっぱいまで模擬戦をこなしたところで、反省会へ移行。
そのとき、エリナ先生から魔力交流を教えてもらったことをロイターとサンズに話し、3人でやってみた。
右手はロイターと合わせ、左手はサンズと合わせ、ロイターとサンズも同じように手を合わせて、3人で円を作って魔力を送り合うって感じ。
それを時計回りにぐるぐる、そして反時計回りにもぐるぐると循環させる。
それから、回復魔法の練度の高さからある程度予想できたことではあるが、ロイターから送られてくる魔力が実に滑らかで、正直悔しかった。
また、ロイターほどではないが、サンズもまずまずの腕前で、侮り難い。
こうして、今回から模擬戦を終えたあとはクールダウンがてら、魔力交流をして終わるという流れで行くこととなった。
……そろそろ、女の子と闘うのは気が引けるとか言ってないで、ファティマたちも誘ったほうがいいのかもしれないな。
そんなことも思いつつ反省会を終え、自室に戻ってきた。
あとはいつものルーティンである筋トレと魔力操作をやるだけ。
それらもひととおり終えて、眠りにつく。
『……ア……ス……アレス』
『ん?』
『アレス、タタカイゴッコ、シヨウ』
『え! お前、ゲンか!? 生きていたのか!?』
『アレス、タタカイゴッコ、シヨウ』
「ああ、もちろんだ! 何度だって受けて立つぞ!!」
……目が覚めたとき、それは夢だったのだと気付いた。
そうだよな、ゲンは俺の目の前で命を落としたのだから……
ははっ……我ながら、なんとも都合のいい夢を見たものだな。
そして、ふと目を向けたとき目に入ったキズナ君の葉は青々としており、それは生命力に満ちたとても鮮やかな姿だった。
「……キズナ君、今日も一日、元気に行こうぜ!!」
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