第157話 同じ気持ちで過ごすこの瞬間

 朝食後、エリナ先生ととりとめのない話をしたり、のどかな風景を楽しんだりして、まったり過ごした。

 おそらく「徹夜してたのに、眠くないの?」という疑問をお持ちの方もいらっしゃることだろう。

 その答えとしては、「大丈夫、眠たくないよ!」となる。

 理由としては、魔力交流のおかげだね。

 大自然から魔素を取り込みながら、俺とエリナ先生のあいだでぐるんぐるん魔力を循環させることでエネルギーが増幅され、それが体力へと還元されたって感じと言えばいいだろうか。

 とにかくそんな感じで一晩ぐらいなら寝なくても大丈夫なのだ。

 まぁ、前世でもさ、どっかの研究者の先生が「瞑想や、なんだったら目を閉じてるだけでも、いくらかの睡眠効果がある」とか言ってたし?

 一応、今回の魔力交流中も目を閉じておこなっていたからさ、そういう意味では多少睡眠を取ったのと同等の効果があったと考えてもいいかもしれない。

 ちなみに、魔力操作でも同じような効果を得られるので、ソロ活動中は魔力操作でってことになるね。

 とはいえ、体力回復のためだけに睡眠が必要とされるわけではないことは前世でも言われていたし、それはこの世界でも同じ。

 だから、「魔力交流(操作)さえしていれば寝なくてもよくね!?」みたいな極端なことはお勧めできないってわけだね。

 ……例年そういうムチャなことを考える奴がいるらしく、俺も気を付けなきゃかもしれんね。

 とりあえずそんな感じで、しばらくのんびりしたのだった。

 正直、ずっとこのままでもいいな、とか思っちゃったのはここだけの秘密。

 それから、エリナ先生の話からすると、もともとあんまり恋愛に興味がなかったみたいだし、なによりクソみたいな王族に迷惑をかけられたせいで、よりその傾向が強まってそうな気がする。

 そんなふうに考えると、俺も今はあんまり恋愛に積極的になれないところもあるし、これは俺にとって好都合と言えるのかもしれないが……どうなんだろ?

 ただ、いつか俺の覚悟が決まったとき、そのときはめっちゃ苦労することになるかもしれないな。

 ……下手したら、ゴミみたいな王族の二の舞いを演じることになるだろうし……難しいな。


「急に深刻そうな顔をして、どうしたの?」

「え? えっと、その、ずっとこうしてのんびりしていられたらな、って思ったんです」

「……そうね、私もそう思うわ」

「ほ……本当に?」

「ええ、もちろん」


 ……うん、今は難しいことを考えなくていい。

 エリナ先生と同じ気持ちで過ごすこの瞬間、それでじゅうぶんじゃないか。

 何も焦る必要なんてない、ゆっくりと行こう。


「どうせだから、このままお昼ご飯も食べてから帰りましょうか?」

「はい! 大賛成です!!」

「ふふっ、決まりね」


 ……どうせだから、もう一晩……なんていう展開でもいいんだけどなぁ。

 でもまぁ、さすがにそれは無理ってもんだよな。

 そもそも、野営研修後にやるべき仕事もあっただろうところに、無理やりこっちに来てるのだろうし。

 ……本当に、ありがとうございます、エリナ先生。

 こうしてお昼はエリナ先生の手料理を美味しくいただいて、学園に帰る準備をする。

 といっても、生成した小屋を撤去して、野営道具をマジックバッグに収納する程度なんだけどね。

 さて、帰る前にもう一度ゲンに挨拶をしておこう。

 ……うさんくさい導き手や騎士の男なんかが出て来たのもあってゴチャゴチャしてしまったが、本来はゲンに別れを告げるために来たのだから。

 そうして、ゲンの墓の前でしばらく手を合わせる。

 それから、ゲンの魔鉄の棒だけでなく、じっちゃんの剣も純度の高い魔鉄製なこと、それに俺が昨日薬草を植えたせいもあって、何気にゲンとじっちゃんの墓周りが宝の山みたいになってしまっているらしい。

 そのため、たまたまここを訪れた奴に盗掘されないよう、エリナ先生が認識阻害の結界魔法を設置してくれた。

 その結界魔法は周囲の魔素によって維持されるように構築したらしく、破壊されるなど何かしらの問題がない限り、半永久的に展開され続けるらしい。

 やっぱエリナ先生はなんでもできるな……


「それじゃあ、そろそろ学園に帰りましょうか」

「はい、そうですね」


 こうして、帰る準備を終えた俺たちは学園都市に向かって移動することに。

 ちなみに、エリナ先生もウィンドボードを持っていた。

 宮廷魔法士時代はマストアイテムだったようで、その当時から使っていた物とのことだ。

 まぁ、馬車では間に合わず、現場に急行しなければならないような出来事もいろいろあったみたいでね。

 そういう場合に使用者の練度次第だが、スピードも出せて小回りの利くウィンドボードが重宝したらしい。

 まぁ、エリナ先生だからね、ウィンドボードぐらい使いこなせるのは当然だよね。

 そんなわけで、エリナ先生と一緒に、そんなに長い距離ではないが空の旅が始まる。

 ……ふと思ったけど、これってデートじゃね?

 ま、まぁ、あんまりそういう感じを前面に押し出すとキモくなるかもしれない。

 だから、あくまでもここはクールに行こう。

 でもまぁ……やっぱ嬉しいけどね!!

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