第699話 武徳を積んでる
「こんなもん! 当たるかってんだ!!」
「なるほどねぇ……とりあえず、反射神経はそれなりにあるといったところかしら?」
「いってろ!!」
『ゼネットナット選手! 飛んでくるウインドカッターを一つ一つ確実に回避していく!!』
『ファティマさんも、ゼネットナットさんの動きをよく捉えてウインドカッターを放っていると思うのですが……そこは、ゼネットナットさんの敏捷性が上回っているといったところでしょう』
『いくらゼネットナット選手の敏捷性が素晴らしいとはいえ……回避した先に次のウインドカッターが迫ってくるというのは、なかなか精神的にキツイものがありますよね? それに、ファティマ選手のウインドカッターが持つ恐ろしいまでの切れ味は、予選も含めたこれまでの試合で切断されていった装備の数々が証明していますし……特に分厚い盾がスッパリいったときなんかは、戦慄ものでしたよ……』
『ええ、もともとウインドカッターは比較的切断力の高い魔法といえますが、ファティマさんのそれは群を抜いていますからねぇ……そして、これまでは狙いを装備に限定していたようですが、ゼネットナットさんの実力を高く評価してのものか、この試合ではその限定も解除しているようなので、そのぶんゼネットナットさんを襲う精神的な負荷は高いと思われます』
『そう聞くと、なんというか……実力を認められるのも考えものという気もしてきますね……』
『フフフ……それを喜べるかどうかが、一つの分岐点となってくるのかもしれませんね?』
『一つの分岐点ですか……ふぅむ、やはり強者への道は険しいもののようです……』
まあ、さっきファティマと対戦したズミカという魔族少女なんかは特に、自身の右腕を気にしながらビビり散らかしてたもんなぁ……
あれはきっと、ウインドカッターで右腕が切り飛ばされるんじゃないかって心配してたんだろうね。
そう考えると、回復魔法で治しながら戦闘を継続することができるロイターって、やっぱどっかオカシイって思われるのも仕方ない気がする。
……おっと、あまり余計なことを考えていると、またロイターに叱られてしまうな。
「一応、最上級ポーションがあるとはいえ……ファティマちゃんのウインドカッターはマジでエゲツナイよな……?」
「うん、いくらゼネットナットさんが巧みに避けるからって……容赦なさ過ぎだよ……」
「ああいう姿を見ると……正直、誰よりもファティマ様を敵に回したくないなって思っちゃうね……」
「ぶっちゃけ、その気持ち分かる!」
「女子の中には平気でファティマちゃんの陰口を叩いてる子たちもいるけどさ……あれ、聞いてるこっちがヒヤヒヤしてくるよね?」
「確かに……」
「まあ、ファティマ様は意識が高いからさ……そういう格下の戯言はたとえ耳に入ってきたとしても、心の耳にまでは届かないんだろうよ……」
「もちろん意識の高さもあると思うけど、何よりファティマちゃんは心が広いんだよ! だからそう簡単には怒らないのさ!!」
「といいつつ……魔力操作狂いがファティマちゃんに引っ叩かれてたところを見たことあるぜ?」
「ま、まあ……魔力操作狂いは明らかに格下じゃないし……それにたぶん、奴が引っ叩かれるようなことをしたんだろうよ……」
「……ファティマちゃんに叩いてもらえるとか、いいなぁ! 羨ましいなぁ!!」
「魔力操作狂いの奴……どれだけの徳を積んだんだろうか……?」
「そんなもん決まってんだろ……奴が積んでんのは、魔力操作の鍛錬に違ぇねぇ!」
「あとは、ほら……レミリネ流とかって剣術の鍛錬じゃない?」
「つまりは……武徳を積んでるってわけか……」
「彼の性格についてはあれこれいわれがちであるが……武に関しては真摯な御仁であるからなぁ……」
「じゃあさ、じゃあさ! 俺っちも鍛錬を積んだら、ファティマちゃんに叩いてもらえるかな!?」
「さぁ、それは分からんけど……とりあえず魔力操作狂い並みになれたら、可能性はあるんじゃね?」
「う、うぅ~ん……それは厳しいかも……」
「ま! 魔力操作狂いレベルは無理にしても、頑張っときゃなんかいいことあるんじゃね?」
「そっかぁ……なら、ちょっと頑張ってみようかなぁ?」
「まあ、ちょっと頑張る程度では足りんだろうがな……」
そういや、気を抜いてるときだったとはいえ……ファティマには魔纏を割られたこともあるんだよなぁ……
そう考えると、ファティマの物理攻撃力もたいしたもんだといえるわけで……仮にゼネットナットが接近に成功したとしても、今度はファティマの物理攻撃力の高さに苦戦することになりそうだね!
「ハン! オメェのウインドカッターはもう見切った!! だから、これ以上撃ってきても意味なんかねぇぜ!?」
「そう……それでは、こういうのはどうかしら?」
「……チィッ!!」
『ここで広範囲の突風がゼネットナット選手を襲う!』
『ゼネットナットさんの素早さがあってこそ躱すことができましたが……ファティマさんの放つストームの範囲、威力共にかなりのものがありますからね……これが連発されるとなると、危ないですよ』
ファティマの動き自体は鉄扇をあおぐって感じで、実に優雅なものなんだけどねぇ……ただ、その鉄扇の先から生み出される突風がハンパじゃないというわけで……
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