第700話 抜群の回避能力

「脚力だけでなく、体力も豊富……さすが、獣人族といったところかしらね?」

「あったりめぇだ! 舐めんな!!」

「ふふっ……あなたも、なかなか見どころがありそうだわ」

「へっ! オメェの風魔法も、アタシじゃなきゃそう簡単には躱せないかもしれねぇとはいっといてやるよ!!」


 確かに、ファティマの風魔法を「躱す」となると、女子ではゼネットナットぐらいにしかできない芸当かもしれないね。

 とはいえ、魔法をぶつけて相殺したり、武器に魔力を纏わせて打ち払うことなんかはやろうと思えばできるので、全く防御手段がないってわけでもない。

 ただし、魔法の相殺を狙うにしても、ファティマが巧みにコントロールしている風魔法にぶつけることができるか……そしてぶつけることができたとしても、当たり負けしたら突き抜けてくるので、同等レベルの威力が必要となる。

 また、武器に魔力を纏わせずに打ち払おうとすると、スパッと切り口鮮やかに武器が切断されてしまうので注意しなければならない。

 まあ、予選からここまで、そうやってファティマの対戦相手の装備品が次々と無残な姿に変えられていったのを見て、先ほどのナウルンの戦慄につながったってわけだろうね。


「あのゼネットナットって獣人族の姉ちゃんだけどよ……風属性の魔法なんか、よく躱せるよな?」

「俺たちみたいな魔力のほとんどない平民には、実際に躱せるかはともかくとして、地や火属性とかならある程度視認することもできるけど、風属性なんかほとんど分かんないもんなぁ……」

「ていうか、実況や解説の奴がいってるから、そうなんだなって思ってるけど……ぶっちゃけ俺には、あの獣人族の子が何もないところを駆け回ってるようにしか見えねぇ……」

「おぉっ、仲間がいてよかった! いやぁ~俺もそう思ってたところなんだよ!!」

「一応、ベテラン冒険者の俺からいわせてもらうと……しっかりと風属性の魔法が放たれているし、もちろん意味のある回避行動がなされてるから、そこは信じていいと思うぞ」

「へぇ……あんたも特に魔力を持ってない平民冒険者なんだろ? どうやって認識してるんだい?」

「そこはまあ、長年の勘ってやつかな? もうちょっと細かくいうなら、音や空気の揺れを感じ取るとでもいえばいいだろうか……」

「ふぅん、なるほどねぇ……視覚にだけ頼るんじゃなくて、それ以外の五感も総動員して認識するって感じか……」

「ああ、そんなところだな」


 まあ、風魔法を認識できないので戦えませんとなったら、冒険者として上に行くことが難しくなってくるだろうからねぇ……となると、魔力がないなりに工夫が必要になってくるというわけだ。

 といいつつ、そうやって五感が鋭くなるよう鍛えていたら、自然と魔力のことも分かるようになっていく気がするけどね。

 だからたぶん、あのベテラン冒険者って人も、無意識的に魔力も読み取っているんじゃないかなって思う。

 でもま、やっぱり直接魔力を扱うほうが効率的だと思うので、俺としては人々に魔力操作の練習を勧めていきたいところではある。

 もちろん、五感を鍛えるのも戦闘能力の向上などいろいろ役立つとは思うので、並行しておこなっていってもらえればと思う次第だ。


「押せ押せ! ファティマちゃ~ん!! 推せ推せ! ファティマファ~ン!!」

「「「押せ押せ! ファティマちゃ~ん!! 推せ推せ! ファティマファ~ン!!」」」

「ファ~ティ~マ! ファティマ!!」

「「「ファ~ティ~マ! ファティマ!!」」」


 統率のとれたファティマヲタたちの掛け声……ひょっとするとコイツらで部隊を組めば、意外と高い成果を挙げるかもしれんね。


「よしよし! この調子でいけば……ファティマちゃんの勝ち確だな!?」

「うん! 今のところ、ゼネットナットさんの接近を許してないもんね!!」

「さっき、パルフェナちゃんが惜しくも負けちまったからなぁ……ここでファティマちゃんまで負けちまったら、女子は王国民抜きで決勝となっちまうだろ? それは避けたいよな……」

「ああ! カイラスエント王国の沽券に関わるもんな!!」

「となると……同じ王国貴族のよしみとして、ファティマ嬢を応援するとするかね?」

「まあ、あそこのヤベェ感じの奴らと同じノリはゴメンこうむるところだけど……応援すること自体は構わねぇ」

「とりあえず、あそこでファティマさんに対してひたすら悪態をついている令嬢たちのマネだけはしたくないですねぇ……」

「うぅ~ん……ファティマちゃんが、も~ちょっとボリューミーな子だったらなぁ! そしたら熱烈に応援しちゃうところだったのにさっ!!」

「アホか! ファティマちゃんは、あのミニマルさがいいんだろうが!!」

「余計なものは最小限……それこそが、ファティマさんの美……」

「あ~あ……今ので、いろんな奴を敵に回しちゃったねぇ~?」

「ふむ……ここにもファティマファンが紛れ込んでいたというわけか……」

「まあまあ、ボリューム感については日を改めて熱く討論すればいいとして……とりあえず、今日のところは応援に集中するとしようぜ?」


 お前たち……議題が「お姉さんについて」のときは、俺も読んでくれよな!!


『それにしてもスタンさん、抜群の回避能力を見せているゼネットナット選手ですが……かといってこのままでは、いずれ体力も尽きてファティマ選手の魔法の餌食になってしまうのではないでしょうか? もちろん、ファティマ選手の魔力も無限ではないでしょうけれど……』

『そうですね……現状、ファティマさんの魔力よりゼネットナットさんの体力消費量のほうが多そうですからねぇ……今までは様子見だったとしても、そろそろゼネットナットさんも積極的に打って出るべきところでしょう』


 さて、ゼネットナットよ……君が原作ゲームのヒロインの1人として選ばれた存在なら、このままジリ貧で終わるはずないよな?

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