第516話 困ったような苦笑い

 セテルタと別れ、約束をしていた女子と昼食を共にする。

 上位貴族の男子は、こういう日々を前期から続けていたのだと思うと、頭の下がる思いがしてくるね。

 いや、前世の俺からしたら、こんなふうにルックス強者の女子と食事を共にできる喜びに打ち震えるところだってことは理解しているつもりなんだけどね。

 とはいえ、今目の前にいるこの子が、もう少し年齢を重ねてくれていれば、俺はこの上なく幸せだったのに……

 ただまあ、前世感覚によって、この世界の女性全てが美しいし、かわいいとは思うんだ。

 でも、むしろそのせいというべきか、みんなルックスがいいだけに、俺としては容姿で優劣を付けづらくなってる部分もある気がする。

 といいつつ、みんな優れているけど、それぞれ美人寄りだったり、かわいい寄りだったりと、いろいろ方向性が違うっていうのはもちろんあるから、全く容姿で選ぶことができないってわけでもないんだけどね。

 そして、この世界の男性陣の様子を見る限り、彼らの感覚ではハッキリ容姿に優劣の差があるっぽい。

 例えばうちのパーティーのファティマとかパルフェナの場合、熱烈なファンがいて、そんな彼らにとって、あの2人はほかの女子に比べて圧倒的にかわいいみたいなんだ。

 いや、俺もあの2人は、ほかの女子に比べて華やかさというか、雰囲気があるっていうのは分かるつもりだ。

 でも、だからといって、それが圧倒的な差とまでは感じないんだ……

 それに今、俺の目の前に座っているこの子だって、ルックス的には素晴らしいと思っているぐらいだしさ。

 う~む、こういった美的感覚は、俺の前世感覚のほうが強過ぎるってことなんだろうね……この辺、もうちょっとこの世界の感覚が強かったら、また違って世界が見えていたのかもしれないなぁ。

 ……まあ、そうはいっても、今みたいに全ての女性がキレイに見えるほうが幸せではあるかな?

 また、意外と原作アレス君にとっては、そもそも美醜の感覚があんまりなかったのかもしれない。

 ……いや、下手したら「母上か、それ以外か」ってぐらいの分け方しかしていなかった可能性すらあるね。

 だって、あんなに原作ゲームでは執着していた王女殿下のことだって、俺の意識が目覚めてから探ってみても、「王女殿下って、めっちゃタイプ!」みたいな顔で選んでる感覚がさほどなく、その地位にしかほとんど関心がなかったっぽいし。

 ……なんてことを頭の片隅で考えつつ食事をし、そして目の前の女子の熱弁を適当な相槌とともに聞き流していた。


「……ですから、アレス様とセテルタ様が固く手を握り合っていたあの光景……あれはまさしく、美しかった! そして、神々しくさえありました!!」

「……そうか」

「あのとき、お互いを見つめ合う瞳と瞳! その輝きに、私は魅せられました!!」

「……そうだったのか」

「きっと、お2人の友情に! 神も祝福を与えてくれたことでしょう!!」

「……ほう、神がか」


 そうなのですか? 転生神のお姉さん?

 ……俺の問いかけに、転生神のお姉さんは困ったような苦笑いを返してくるだけ。

 あの苦笑いは、どう判断したらいいのだろう……?


「ええ! 間違いありません!!」

「……そうなのか」


 確信を持っているところごめんだけど、転生神のお姉さんは困ったような苦笑いをしているだけだよ?


「私は! お2人がこれからも素晴らしい友情を育んでいくところを願っております!! ……ですから……できれば……エトアラ様とは、その……」

「……君が心配せずとも、俺はセテルタとこのまま友人関係を続けていくつもりだ……そこに、エトアラ嬢は関係しない」


 う~む……この子、モッツケラス派の回し者ってわけじゃないよなぁ?

 なんか、ノリが違う気がするんだ。

 それに、モッツケラス派の人間なら「エトアラ様」とはいわず、「トキラミテの令嬢」みたいな表現をしていただろうしさ。

 でもまあ、こんな感じで派閥外の生徒たちにもこの件は注目されているのだなってことが、よく分かるね。


「……そのお言葉……信じてよろしいのですね?」

「ああ、もちろん……何かしらの関係を切らねばならぬ出来事がない限り、俺はずっとセテルタの友人だ!」

「……そのお言葉を聞いて、安心しました! どうか……どうかくれぐれも、セテルタ様と末永く友情を育んでくださいませ!!」

「ああ、分かった」


 さて、だいぶお腹も満たされてきたことだし、この子の話も一段落ついたな!

 それじゃあ、そろそろ俺のターンと行こうか!!


「それでは……本日はご一緒していただき、ありがとうございます! よろしければ、またの機会をよろしくお願いいたします!!」

「……う、うむ」


 な、なんだと……俺が魔力操作について語ろうと思った矢先、あの子は「ごちそうさま」をして去って行ってしまったじゃないか……

 その鮮やかさといったら、とても信じられん。

 とはいえ、あの子は最初から俺に対して、あまり物怖じしていなかったものな……

 それが何を意味するかというと、俺がくどくど語るまでもなく、それなりに魔力操作の練習をこなしてきた熟練者だったということの証明かもしれない。

 フフッ……そうであるなら、やるじゃないか!

 君が20代だったら……俺のストライクゾーンに入っていた……かもな!!

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