第515話 無駄な努力をしている

 今日の朝食は、まあいつもどおりというべきか、前半は女子がメインで喋って、後半は俺が魔力操作について熱く語るって感じだった。

 フッ……こうして少しずつ、魔力操作の輪を広げていきたいもんだね。


「……見たか? また1人……犠牲者が出たぞ……」

「目をあんな変な輝かせ方をして……かわいそうに、飲み込まれたんだな……」

「たぶんだけどあの子、『私は大丈夫!』とか根拠のない自信を持ってたんだろうねぇ……」

「だろうな……既に何人も餌食になっているというのに……それを学習せず、相変わらず『自分だけは上手くいく』とでも思っていたのだろう……『そうじゃない』と、早く気付けばいいのに……」

「とはいえ……飲み込まれなかった令嬢もいるっていう事実が、事態をより深刻にしているんだと思うね」

「結局のところ、身の程を知れってことなんだろうよ……本当に『強き者』だけが挑戦するって感じでな……」

「ああ、その点、俺たちはよく分かっているからな」

「僕たち……彼に声をかけない言い訳だけは上手くなっていってるよね……」

「あっ、そういうこというのナシだろっ!」

「せっかく、スマートにキメてたっていうのにぃ!」

「まあまあ、いいじゃないの……俺たちは、俺たちのペースで行こうぜ?」

「うむ、様子を見ているうちに、風向きが変わるかもしれんからな」

「お、おう……そうだな……」


 男子の集団は今日も、俺を遠くから見てアレコレいうだけ。

 まあ、魔力操作もなぁ……人によっては慣れてない頃とか、そのときの心身の状態によっては妙なゾーンに入り込んでしまうこともあるみたいだからねぇ?

 もしかすると、彼らはそれを恐れているのかもしれない。

 俺の場合は、魔力操作をやり始めた頃って、どっちかというとじっと座ってるうちに寝ちゃうことのほうが問題だったような気がするんだけどね……

 だからこそ、立ってやるとか、動きながらやるって方法を取り入れるようにしたんだしさ。

 フッ……懐かしい思い出だね。

 なんて感慨に耽りつつ、実際のところ、まだこっちの世界に転生して来て1年も経ってないんだった。

 そんなことを思いつつ授業を受けるため、教室に向かう。

 さて、今日もしっかりエリナ先生の話を聞くぞ!

 最近はちょっと、何かと考えることが多いからね、エリナ先生の声を聞いているあいだは、そのことだけに集中しよう!!

 こうしてエリナ先生の授業という、俺のオアシスともいう時間を堪能する。


「はぁ……今日も最高だった……」


 授業が終わり、そう小さく呟きを漏らす。

 さて、昼食も女子と約束があるので、あまり時間はないが……セテルタにちょっと声をかけておこう。


「セテルタ! ちょっといいか?」

「うん、なんだい?」

「昨日もちょっと話したけど、近いうちに夕食でもどうだ?」

「ああ、僕もそうしたいと思っていてね……ちょっとばかり予定を調整して、明日の夕食を空けたんだよ。それで、僕から声をかけようかと思ってたら、アレスのほうが先だったってわけさ」

「へぇ、そうだったのか」

「うん、僕たち、考えることが同じだったってことだね」

「そうみたいだなぁ……でもま! なんにせよ、日程を合わせられてよかった!!」

「そうだね、お互い忙しい身だからねぇ……」

「まあ、俺は後期からって感じなんだが……セテルタは前期からこんな感じだったんだろ?」

「まあね……それに父上から『トキラミテの娘に後れを取るな!』って口うるさくいわれてもいるからさ……」

「ふむ、お父上からか……」


 おや? おやおやおや!?

 今のって、実は凄く重要な言葉だったのでは!?

 セテルタ自身というより、やはりモッツケラス家による対抗意識のほうが強いような気がする。


「でもまあ、そうやって令嬢たちと食事を共にしながら、家の友好関係を築くようにはしているけど……実際、楽ではないね……それにあの人は、そんな僕の姿を鼻で笑ったような態度だし……あの顔、実に腹立たしい!」


 あ、やっぱ駄目か……セテルタ自身も対抗意識が強めっぽい。


「ま、まあ……実際のところ、『男子は大変だろうなぁ』って労わりの気持ちが顔に出てただけなんじゃないかな? ほら、この王国だと、女子は比較的簡単にお断りできるみたいだけど、男子は難しいみたいだしさ」

「えぇっ! あの人が!? ないない、きっと僕のことを『無駄な努力をしている』って思ってるはずさ! ああ、そういう意味では、労わりっていうより、哀れみって感じかな? くぅっ! あの優越感たっぷりな顔! 許しておけるものか!!」


 あぁ、やっぱり拗れてんなぁ……

 でも、たぶんだけどエトアラ嬢って、もともとそういう顔なんだと思うんだよなぁ。

 俺に対しても、自信満々な態度だったし。

 だから、セテルタのことを特別下に見てるってわけでもない気がするんだ……まあ、弟みたいには思ってそうだけど。

 うん……そこがいいんだ。

 セテルタに対して、お姉さん風をビュンビュン吹かせたところがもっと見たい……

 ……おっと、あまり俺の趣味に走り過ぎるのもよくないよな……自重自重。


「とはいえ、エトアラ嬢は1年先輩なんだからさ、やっぱ、俺たちのことを後輩っていう感覚で見てるみたいなところはあるんじゃないか?」

「………………あぁ、ごめんね、つい熱くなっちゃってたみたい」

「いや、いいんだ……それはそれとして、昼食の約束もあるし、中央棟の食堂に行かなきゃだけど……セテルタもだよな?」

「うん、そうだね……それじゃあ、今日も食堂まで一緒に行こう」

「おう、そうだな!」


 こうして、2人で雑談を交わしながら、食堂へ向かった。

 そのあいだ、エトアラ嬢の話題は出さないようにしておいた……セテルタが熱くなったままだと、このあと食事を共にするであろう女子がかわいそうだしさ。

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