第514話 このままずっと潜り続けていたかもしれない
約1時間のランニングを終え……というかまあ、ちゃんと走ってはいたけど、気持ちは完全に「ファティマさんの相談室」状態だったね。
ま、まあね、最初にそういう話題を振ってきたのはファティマさんだったし? 俺はその話題に対応しただけだし?
……なんて、意味のない自己弁護をしてもしょうがないね。
それはともかく、ファティマさんにありがた~い策を授けてもらいつつ朝練を終え、今は自室に戻ってシャワーを浴びようかといったところ。
「それにしても、王女殿下に頼る……か」
ファティマも大胆なことを考えるものだ。
というかファティマの奴……それなりに一応、敬意は持っているのだろうとは思う……思いたいけど、王族を動かせばいいとかアッサリ考える辺り全くもって、いい根性をしているといえるかもしれない。
まあ、その考えにアッサリ乗ろうとしている辺り、俺も大概なのかもしれないけどね。
それはそれとして、王女殿下の取り巻きたちの中で、誰に話をしてみるかってところだな……
う~む……「アレスの熱血教室」参加者たちなら、割と誰でも気兼ねなくおしゃべり出来そうな気もするけど……俺が一番話しやすいのは誰かって考えると……やっぱ、未来の近衛殿ことティオグだな!!
やっぱりね、ティオグって基本的な気質が前世でいうところのアイドルオタクみたいな感じが若干あるからさ、これまた前世の友人であるアイドル好きの鈴木君と接しているような感覚がちょっとあって接しやすいのかもしれないなって思うんだ。
ま、これも「類は友を呼ぶ」ってことなのかね?
俺もアイドルオタクでこそなかったけど、インドア系男子だったからさ。
……じゃあ、今は? って考えてみたら……何系というより「魔力操作狂い」というしかないね! 間違いない!!
「とまあ、ティオグに話をするって方向でいいとして……じゃあ、いつ話す?」
ふ~む……秋季交流夜会は来週の光の日、ということは……おお、ちょうど来週の今日だね!
つまり、タイムリミットは1週間……そして、ティオグから王女殿下に話が行くまでにも時間が必要だろう……そう考えると、早いほうがいいだろうな。
また、ティオグが王女殿下とご一緒するローテーションもあるだろうから、タイミングを見計らうのも大事になってくるな。
よし、フリーでのんびりしてそうな瞬間を狙いすまして突撃するしかないな!
フフッ……久しぶりに狩猟民族の血が騒いできやがったぜぇ?
といいつつ、ただ話すだけなのに、我ながらテンションがおかしいもんだねぇ……まあいいけどさ。
「とりあえず、王女殿下方面はそれでよしとして……」
あとは……セテルタがエトアラ嬢に対して、実際のところどう思っているかっていうのも把握できるのであれば、しておきたい。
というのも、あの2人の姉弟的カップリングっていうのは、単なる俺の理想ってだけだからね……まあ、ファティマも「お似合い」と判定してくれたけどさ。
本気で嫌っているのなら、それを無理にくっつけようとするのは申し訳ないもんね。
いや、その場合は、こちらがどんな働きかけをしても無駄に終わるだろうけどさ。
でもま、なんとなくあの2人って、心底嫌い合ってるわけじゃないと思うんだよなぁ。
だってあのとき、俺のお姉さんセンサーが作動したんだもん! あれは誤作動じゃなかったハズ!!
うん、自分自身に備わったお姉さんセンサーを信じよう! 絶対大丈夫!!
きっと、セテルタたちは幸せな姉弟的カップルになる! 確信を持て!!
……このときふと、あまり思い出したくない言葉が頭に浮かんできた。
『自由に生きてこの王国を……世界を変えて欲しい、僕と同じ導き手として』
クソッ……どうにも、あのうさんくさい導き手の言葉が要所要所で俺の脳内にしゃしゃり出てくるな……
でも、確かに……俺の希望どおりにセテルタたちをくっつけようとするのって……あのうさんくさい導き手と同じなんじゃないだろうか……
どうなんだ……?
とはいえ、俺は奴みたいに相手を陥れようとか、そういった遊び感覚ではないつもりだ……
でも、100パーセント純粋な気持ちかというと……いくらか俺の趣味が混在しているのは否定できないだろう。
むむっ……ここにきて悩みが生じてきたぞ……
と、とりあえず……セテルタの様子を見て、慎重に事を運ぶ……そうしよう。
そ、それに……トキラミテ家とモッツケラス家の両家だって、いつまでもいがみ合ったままっていうのも、それはそれで問題だろうし……
べ、別に……今回カップル成立に至らなかったとしても、両家の関係修復の第一歩に役立つことがあれば、きっとそれは悪いことではないはず……
……なんて、取って付けたような言い訳を脳内でひたすら並べ立てることに終始する。
こうして、シャワーを浴びながら脳の活動にカロリーを消費していたところ、腹内アレス君の朝食要求によって、思考の海から戻ってきた。
危なかった……腹内アレス君が呼んでくれなかったら、このままずっと潜り続けていたかもしれない。
「ふぅ……朝食の約束をした女子を待たせるのも悪いし、そろそろ行くか」
そんな呟きをひとつして、制服に袖をとおし、中央棟の食堂へ向かうことにした。
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