第517話 その勢いにやられたもんだよ
魔力操作について語る気満々だったのだが、相手の女子が早々に立ち去ってしまったので、当初想定していたより時間が余ってしまった。
そのためというか、少し物足りなさを感じるが……「それなら、デザートを追加だ!」と腹内アレス君がおっしゃるので、仕方なくいうとおりにする。
また、デザートを食べながら、中央棟の食堂にいた王女殿下一行に軽く視線を向けてみる。
もちろん、ティオグがいるかどうかの確認だ。
……ふむふむ、どうやら今日はティオグにローテーションが回ってきていたみたいだね。
となると、王女殿下の周りに一日中いる予定だろうから、今日のところはティオグに話しかけるのは遠慮しておいたほうがよかろう。
まあね、せっかく王女殿下と一緒にいられる日だもんね、邪魔しちゃかわいそうだ。
そう思いつつ、改めてデザートを食べることに集中する。
……それにしても、このパンプキンパイ、美味しいね!
なんて頭の中で感想を述べると、腹内アレス君も「そうだろう、そうだろう!」と同意してくれる。
まあ、そもそもとして前世から、かぼちゃ餡のお菓子もなかなか美味しいとは思っていたからね。
ましてや、この学園には一流の料理人たちが日々腕を振るっているのだから、それも当然といえば当然であろう。
そんなことを考えつつ……うむ、やはりこの優しい甘さがクセになる。
そうして、お腹も心も満たされたところで、自室に戻ることにする。
もちろん、勉強と自主練のためだ。
フフッ……この日々の努力こそが、俺をスゲェ奴に成長させてくれるのだからね!
「……な、なあ……お前らはさっきのを……見たか?」
「ああ、あれには驚いたな……」
「えぇと……さっきとは?」
「ボクらは今まで先生に呼ばれててさ、これから食事なんだ。だからね、君が何をいいたいのかサッパリだよ」
「ふぅん? まあ、それなら仕方ないか……」
「そうか、見てないのか、それは残念だったな……」
「なんだろう、もったいぶらずに早く話してくれない?」
「うん、たいした話じゃないなら、先にご飯を食べてきていいかな? もう、お腹ペコペコだよ」
「確かに、そろそろ話してやったほうがいいだろうな……」
「おっと、そりゃスマンね! それで、実はな……また1人、奴と接触して見事生還を果たした令嬢が現れたんだ……」
「……ッ!? な……ん、だって? それってつまり……魔力操作に飲み込まれなかったってことだね?」
「……正直、その話だけで……空腹感が吹っ飛んでしまいそうだよ……」
「ああ、俺も驚きで食事の手が止まったほどだったからな……」
早速、先ほどの女子とのやりとりがウワサになりつつあるようだ……
しかしながら、そこまでいうほどのことか? という気がしないでもない。
「あぁ……あの子だったか……なんか、納得した……」
「そうだねぇ、あの子なら……そういうこともあるかもなって気がしちゃうよ」
「はっ? えっ? お前ら……あの令嬢のこと、知ってんの?」
「まあ、見た目はなかなか美しい令嬢ではあったからな……」
「だろうね、確かに顔はいいと思うんだ……」
「実をいうと、ボクらはあの子と一度、食事をしたことがあってね……なんていうのかな、あの子は自分なりの確固とした世界観があるっていうか……その、ね?」
「そういえば……さっきも奴を相手に何やら熱く語ってたっけ?」
「ああ、あまりよく聞こえなかったが、なんとなく熱意みたいなものはこちらまで伝わって来ていたな……」
「……だろうね」
「うん、ボクらもあのときは……その勢いにやられたもんだよ」
「そ、そうか……」
「魔力操作狂いに抵抗するには……やはりそれぐらいの強き者でなければ駄目だということなんだな……」
「……かもね」
「あぁ……今の話とあの日のことを思い出して……気分的にちょっとお腹いっぱいになってきてしまったよ」
なるほど……あの子は知る人ぞ知る強者だったというわけか。
まあね、俺もいくらか感じていたところではあるが、確かに心に一本、芯のようなものがとおっていたようには感じたものな……
改めてそう考えると、先ほどの食事は何気に有意義な時間だったかもしれない。
……って、ホントか? あの子、セテルタと仲良くしろって話しかしてなかったよな?
それになんか、転生神のお姉さんが苦笑いするほど表現がオーバーだったしさ……
……ま、まあ、話の内容はともかく……強者特有の雰囲気というか、自然と発する空気感みたいなものに触れて刺激を受けることは悪いことじゃないハズ! ……と思いたい!!
そうして今回も、男子たちのヒソヒソ話に耳を傾けながら自室に戻るのだった。
ハァ……先ほどの女子との食事も踏まえるとやはり、「この王国の本質は女性の強さにこそアリ!」という自説がより強化されたように思ってしまうね……
「それはそれとして、ただいま! キズナ君!!」
そうキズナ君と挨拶を交わし、午前中にあったことなどを軽く話したところで……さて、今日も勉強と自主練だ!
「フフッ……歯応えバッチリなこの本を! 今日もガッチリ読んでやるぜ!!」
なんて気合を入れたところで腹内アレス君に「本に歯応えだなんて……」とかいわれながら、著者と頭脳のスパーリングをする。
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