第743話 咲き誇った
「……まだ、終わりじゃない……むしろ、ここからが本番といってもいいぐらいよ! ハァァァァァァァァァァァッ!!」
『ここでノアキア選手! 最後の突撃に打って出たァァァァァァァァァァァァッ!!』
『ま、まさか残り魔力のほぼ全てを推進力に使っている!? なんてことだ! ノアキアさんは、インフェルノに焼かれることを覚悟の上で最後の突撃を敢行しているのかッ!!』
「見事な心意気ね……では、私も応えさせてもらいましょう……フゥッ、ハァァァァァッ!!」
「ァァァァァァァァァァァァァッ!!」
漆黒の炎が燃え盛る中、美しい二輪の華が交わり、咲き誇った。
その瞬間、会場全体が息をのんで静まり返った。
いや、それどころか……制御を外れて二輪の華に喰らい付こうとしていた漆黒の炎でさえ、圧倒されて襲いかかれずにいたぐらいだった。
「………………く…………ぅ……っ!」
「……こ……この私が……負け……た……?」
『え、えぇと、これは……ファティマ選手が……ノアキア選手のポーション瓶を……割った?』
『はい、ノアキアさんのレイピアはファティマさんの左肩を刺し貫き……ファティマさんの鉄扇がノアキアさんのポーション瓶を打ち砕きました……』
『あ、ああ、すみません……両選手の気迫に圧されて、少々言葉に詰まってしまいました……』
『いえいえ、それも仕方ないことでしょう』
「……勝者っ! ファティマ・ミーティアム!!」
審判の先生が勝者を宣言した……これにより、ファティマの勝利が確定した。
また、その宣言が出た直後、スタンバイしていた先生たちが一斉に動き出した。
そう……インフェルノという漆黒の炎を消火するためにね。
そして、この学園には王国でもトップクラスの実力を持つであろう先生たちが勢ぞろいしている。
だからこそ、強力な光でもって炎を消すことができている。
その中でも特に! エリナ先生が勢いよく炎を消しているのだ!!
さすが! さすが過ぎます! エリナ先生!!
というか、この様子なら! エリナ先生単独でも消火活動を完了させることができるんじゃないだろうか!?
ま、まあ……そのぶん時間がかかってしまうだろうから、この場合は先生たちで手分けして効率的に消火する必要があるんだろうけどさ……
「やはり王国一の使い手、エリナ先生の技量は飛び抜けていますね……そしてあれこそが、先ほど話したインフェルノへの対抗手段の実演といったところですね」
「ああ、エリナ先生の技量が圧倒的に高いことは当然として、ああやって炎を消していくんだな……それに、とにかく強い光をぶつけるだけじゃなく、浄化の光をイメージするのがコツのようだ……その辺のところが、やっぱりエリナ先生は上手いな……」
「ええ、おっしゃるとおりですね」
なんというか、力づくの光だと、炎側は消されながら反抗的な態度を崩さない……しかし、浄化の光だと、比較的穏やかに消えていくって感じなんだよね。
まあ、俺の基本的な性格では、魔力でゴリ押ししたくなってしまうが……インフェルノを相手にする場合は、気を付けたほうがよさそうだ。
とまあ、インフェルノに関してはそんな感じかな。
そして、戦闘が終了したファティマとノアキアはというと……
「レイピアを抜くから、少し我慢してちょうだい……」
「ええ、お願いするわ…………っ……!」
「うん、よく我慢したわね……それじゃあ、ポーションで体を癒すといいわ……はい、どうぞ」
「ありがとう……」
「私が万全の状態なら、回復魔法をかけてあげてもよかったのだけれど……まだ、魔臓や魔力経の働きが本調子じゃないのよね……」
ポーション瓶を割られたことで、ノアキアは回復が始まっていた。
そして、満身創痍で動きが鈍っているファティマにポーション瓶の蓋を開けて飲ませてやるなど、かいがいしく世話を焼いているようだが……
ねぇ、ノアキアさん! 君、態度変わり過ぎじゃね!?
そんでもって君ら! 見方によっては仲のいい姉妹に見えるよ!?
そんなだからさ……
「……グハァッ! な、なんて美しい……光景……なんだ……」
「おい! しっかりしろ、お前! あんな光景、二度と見られないかもしれないんだぞ!? 気なんか失ってる場合じゃねぇだろ!!」
「たとえ足腰が立たなくとも、それは仕方ない……だが、顔だけは前を向いて! 両の眼にあの光景を焼き付けるのだ!!」
「ま、前を向いて……両の眼に……焼き付けるッ!」
「楽園は……ここにあった……」
「……チキショウ! もっと見てぇのに……どうしても、クラついちまうッ!!」
「それなら、僕が君を支えてあげる……喜びは分かち合うものだからね!」
「す、すまねぇ……」
「なぁに、いいってことさ! 僕らは仲間でしょ!?」
「あ、ああ、仲間……そうだな……」
いや、仲間とかいってるけど、お前ら……直前までファティマヲタとノアキアヲタの別派閥だっただろ……
でもまあ、そんなふうに派閥の垣根を越えて友情をたやすく育ませてしまうほど、ファティマとノアキアは心温まる友情空間を展開し、周囲を感化させていっているということなのだろうな……
そして、本気でぶつかり合ったからこそ、この感動も生まれた……そんな君たちに、一つ言葉を贈らせてもらうよ。
「おめでとう」
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