第742話 あのときのド根性をもう一度見せてみやがれ!!

 確かに、ノアキアは木の生成に多くの魔力を消費していたし、喰らい付いてくる黒い炎に抵抗するため防壁魔法に魔力を注ぎ続けていたからね……おそらくもう、あまり魔力が残っていないと思われる。

 それなら、空気中の魔素を取り込んで魔力変換すれば……といいたいところかもしれないが、ノアキアの周囲に存在していた魔素は既に黒い炎に喰い尽くされているだろうし、防壁魔法の内側の魔素も使いきってしまっているだろう。

 つまり、決着の瞬間はすぐそこまできているってことだね。


『さぁっ、もうあとがないノアキア選手! このまま防壁魔法を維持する魔力が尽きるのを待つしかないのでしょうかッ!?』

『あれだけインフェルノに囲まれた状態では、さすがに厳しいといわざるを得ないでしょうね……』

「……まだ……まだ勝利を確信するには早いのではないかしら? あなただって、その魔法を制御するのに力を使って限界が近いのでしょう? それに、制御を失ったとき……その黒い炎はあなた自身にも牙を剥く……今まで抑えつけられていた恨みを晴らすかのようにね……」

「まあ、そうね……否定はしないわ……」


 ふむ……ファティマもギリギリのところで堪えているといった感じだね。

 また、その制御が途切れたときに備えているのだろう、審判の先生だけでなくほかの先生たちもスタンバイを始めているようだ。

 そして、その先生たちの中に……エリナ先生もいらっしゃる!

 フフッ……エリナ先生なら! 完璧に対応してくださるに違いない!!

 そうであるなら、ファティマにノアキアよ! あとのことは心配せず、思う存分最後まで闘うがいい!!


「なるほど……これが最後の我慢比べってわけか……」

「うわぁ~ん! ファティマちゃん、大丈夫かなぁ~っ!?」

「制御できなくなったとき、黒い炎がファティマさんに襲いかかってくるだなんて……」

「そんなの! そんなのダメだよォォォォォォォォォッ!!」

「使い手すら餌としてしまうインフェルノ……恐ろし過ぎるじゃねぇか……」

「ああ、リスクが高過ぎるな……」

「でも! だからこそファティマちゃんは、そんな魔法の在り方を変えなきゃって考えてるんでしょ!? 本当に立派だよ!!」

「そうだな……ファティマ嬢の精神性の高さに尊敬の念が湧いてくるように思う……」

「まあ、さほど俺は興味がなかったが……ああいう姿を見ていると、あの子に熱を上げてる連中の気持ちも分かる気がしてくるってもんだぜ……」

「……それなら! 君たちも一緒にどうだい!?」

「我々は! いつでも歓迎するぞ!!」

「わっ!? なんだ急に……」

「い、いきなりで……ビックリしたぜ……」

「とにかくさ! 君たちもファティマちゃんの素晴らしさに気付くことができたんでしょ!? なら、一緒に応援しようよ!!」

「心が一つになった瞬間……それは何物にも代え難い経験となる! それを諸君にも味わっていただきたい!!」

「え、えぇ……」

「不用意な発言をしたせいで、絡まれちまった……」

「さぁ、一緒に! ファ~ティ~マ! ファティマ!!」

「ファ~ティ~マ! ファティマ!!」

「大丈夫! 恥ずかしがることなんてないよ!!」

「さぁ! 大いなる一歩を踏み出すのだ!!」

「「ファ~ティ~マ! ファティマ!!」」

「おい……どうする?」

「たぶん、やんなきゃ許してくれなさそうだよな……?」

「「ファ~ティ~マ! ファティマ!!」」

「仕方ない……今回だけ付き合ってやるか……」

「ハァ……どうしてこうなった……」

「「ファ~ティ~マ! ファティマ!!」」

「「ふぁ~てぃ~ま……ふぁてぃま……」」

「もっとだよ! 君たちの奥底に眠っている力を目覚めさせて!!」

「想いを届けるのだ! それがファティマさんの限界を超えた力となる!!」

「「ファ~ティ~マ! ファティマ!!」」

「「ファ~ティ~マ! ファティマ!!」」


 ファティマヲタ……勢力拡大中。

 そして俺の隣では、ロイターが渾身の応援をファティマに送っているのはいうまでもないことだろう。

 いや、俺たちもちゃんと応援してるけどさ……

 も、もちろん……ロイターに怒られるからってわけじゃないから……ね?


「おい、ファティマ! アタシとの試合を思い出せ! あのときのド根性をもう一度見せてみやがれ!!」


 ゼネットナットも全力応援……うんうん、完全にファティマのことが気に入っちゃったみたいだねぇ。

 この様子だと、ラクルスよ……何か大きなきっかけでもないと、ゼネットナットルートに入るのは難しいかもしれないな?


「……えっ? このタイミングで、なんでアレスさんは切ない表情でオレを見てきたんだ?」

「う~ん……偶然じゃないの? ほら、ファティマさんの応援をしてるでしょ?」

「あ、ああ……そう……だな……」


 そんなラクルスと、幼馴染ヒロインであるニアのやりとり……

 ふむ……今のところ王女殿下ルートを進みつつ、幼馴染ルートも残しているって感じかな?

 それから、この会場にはファティマを応援する人たちだけではなく、当然ノアキアを応援している人たちもいる。

 まあ、この世界の人々にとってエルフ族の美貌っていうのは特別みたいだからね……学生だけでなく、一般の観客からの応援も熱がこもっているのさ。


『……うぅ~ん、明らかにノアキアさんの防壁魔法が弱まってきましたね……これ以上の維持は難しいか……』

『なんと! では、ついに……ついに決着のときかァァァァァァッ!?』

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