第741話 真の完成

「まさか……まだ学生でしかないあなたが……この魔法を成功させてしまうだなんてね……まったく、驚かされたものだわ……」

「……いえ、まだまだ完璧に制御できていないし……この程度では成功と言い難いわ」

「ふふっ、理想の高い子ねぇ……でもまあ、確かにエルフ族の伝承で聞かされてきたものと比べると、かなり優しい魔法になっている気はするわね……」

「ええ、そうなの……気を抜くとすぐに、愚かな魔法士が使ったときのように余計なものまで燃やし尽くそうとする魔法に成り下がってしまうから……本当に躾が大変で……」

「………………ッ!? ま、まさか……あなたがいう制御とは、本当の意味で抑えるということなの!?」

「ええ……繰り返しになるけれど、そうしないと余計なものまで燃やし尽くそうとしてしまうから……」

「そ、そんな……」


 え、えぇと……要するにファティマは、あえてダウングレードしたインフェルノを目指しているってことか?


「たぶん、認識に齟齬があるのだろうと思うけれど……この魔法って、発動させることよりも、あとの制御のほうが難しい魔法だと思うの……まあ、エルフ族の中では禁忌の魔法とされているでしょうから、あなたがよく知らないのも当然かもしれないけれど……」

「……ッ!?」

「そして、この魔法を考えた魔法士も、形を作っただけでその後の研鑽を怠ったから、あんな愚かな大戦を引き起こすことになってしまった……」

「その後の研鑽……」

「そう……私が思うに、この魔法……まだまだ真の完成に至っていないわ」

「……し、真の完成に至っていない!? そんなわけないでしょう!!」

「いいえ、この魔法の本質は外部のエネルギーを活用して魔法として成立させること……それがどうしてだか、余計な攻撃性と結びついて制御を難しくしている……この余計な攻撃性の部分を解きほぐして、完璧に制御する方法が確立されたときこそが、真の完成のとき」

「な……っ……」

「そして、今は地獄だなんて不名誉な呼び方をされているけれど……この魔法が真の完成に至り、生まれつき保有魔力量に恵まれない者にも魔法の道が開かれたとき、それは福音となり得る……そうは思わない?」

「福音……」

「ああ、そうだった……もともと保有魔力量に恵まれているエルフ族には、あまりピンとくる話ではなかったかもしれないわね?」

「ま、まさか……あの禁忌でしかなかった魔法に、そんな可能性を見出すとは……私たちにはなかった発想だわ……ふふっ、ふふふふふ……あなたは、本当に面白い子ね……」


 なんというか……ファティマさんがカッコよすぎる件……って感じだ。

 ……あれ? そういえば、ソイルとシュウが試合をしたとき、シュウが使っていたといわれている魔力と似て非なる力について夕食後の模擬戦メンバーで議論したとき、ファティマが「魔素を魔力に変換せず、魔素を魔素のまま使っているのかもしれない」とかいっていたよな……もしかすると、あのときの発言はこのことが念頭にあってのものだったのかもしれないな。


『なんと、なんとファティマ選手! インフェルノという凄まじい魔法を使うだけでなく! まさか、その先まで見据えていましたッ!!』

『ね、念のためにいっておくと……ファティマさんの口ぶりからは、インフェルノの発動がたやすいことのように聞こえたかもしれませんが……非常に難易度が高く、極々限られた魔法士しか発動させることはできません』

『ま、まあ……そうですよねぇ……』

『……しかしながら! ファティマさんの話を聞いて、私は今! 魔法史に残るであろう、新たな可能性に胸のトキメキが抑えきれません!!』

『確かに! それが成功すれば、画期的なことですもんね!!』

『ええ、まさしくです! そして、なぜ今までその発想に自分自身が至ることができなかったのか……研究家として悔しさすら感じています!!』


 スタンのテンションが爆上がりしてるねぇ……


「凄い凄い! 凄いよファティマちゃぁぁぁぁぁぁぁん!!」

「すんげぇ魔法を繰り出すだけで終わんないってところが! マジファティマちゃんって感じだよな!?」

「ファティマさん、貴女って人は……なんて気高いんだ……」

「我が天使は……本当に天使だった……」

「究極美少女ファティマちゃんは……考えることも究極……」

「まさに至高の思考なりッ!!」

「今までファティマ様をお慕いしてきてよかった……ぐすっ……」

「正直、あの黒い炎を初めて見たときビビっちまったけど……今はもう、あの炎に安らぎすら感じるぜ!」

「そうだな、スタンの話を聞いたからっていうのもあるけど……ぶっちゃけオレも、ファティマちゃんはヤバ過ぎる子なんじゃないかって思いかけたよ……」

「分かる……俺も『推し変』って言葉が脳裏をかすめたもんなぁ……」

「……でも! やっぱりファティマちゃんなんだよなッ!!」

「そういうことッ!!」

「フッ……これで我々の結束は、さらに強まった!!」

「「「応ッ!!」」」

「引き続き! ファティマ様の応援をするぞ!!」

「「「応ッ!!」」」

「ファ~ティ~マ! ファティマ!!」

「「「ファ~ティ~マ! ファティマ!!」」」


 インフェルノという魔法に圧倒されて声も出なくなっていたファティマヲタたちだったが……無事元気を取り戻したようだね。


「さて……あなたの防壁魔法も、そろそろ限界が近いのではないかしら?」

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