第740話 もうお気付きですね……

 シュウの解説なら、よりディープな話を聞かせてもらえるだろうと思ったが……ディープ過ぎだった……

 本来意思のないはずの魔素が、喰われるとき悲鳴を上げたとかヤバ過ぎでしょ……

 まあ、日頃から魔力操作で「魔力と語り合う」とかいってる俺らしくないと思われるかもしれないけどさ……

 でもそれは、どっちかっていうと俺が勝手にそういうイメージをしているだけみたいなもんだし……

 とりあえず、魔素や魔力に意思のあるなしの議論は置いておくとしても、当時の人々がそんなふうに感じてしまうほどインフェルノが恐ろしかったということなのだろう。

 そんなことを考えていて、改めて思ったのだが……


「なぁ……そんな魔法、よく禁呪に指定されなかったな?」

「そうですねぇ……国によっては禁呪に指定されているところもありますし、そうすべきだという議論もないではないのですが……」

「……ですが?」

「大戦中は利害を超えて団結できていた国々も、それが終わればまた自国優先の思考に戻る……そしてインフェルノは強力な切り札となり得る魔法……優秀な魔法士を抱えている国ほど手放したくない魔法となってしまっても仕方ないのかもしれませんね……」

「あぁ……そういうこと……」

「それに人同士の戦争用の魔法としてだけでなく、場合によってはドラゴンですら討伐できてしまうインフェルノは対モンスター用の魔法として役に立つという意見もあります……とはいえ、闇属性に耐性のある種や高位のドラゴンには防がれてしまうそうですし、モンスターの体を完全に燃やし尽くして一切素材を得られなくなってしまうので、よほどの理由がない限り選択肢に入ってこないとは思いますがね……」

「まあ、本当に追い詰められた状況でもなければ、もったいなさ過ぎて、まずはほかの魔法を試してからってなりそうだよな……というか、そもそも論として、使える奴自体がほとんどいないか……」

「ええ、たとえダウングレードされたインフェルノであっても、極々一握りの魔法士しか発動させられないでしょうね」


 そう考えると、ファティマさん……凄過ぎぃぃぃぃぃぃっ!!

 いやまあ、俺だって全ての心理的ストッパーを取っ払えば発動させること自体はできるかもしれないけど……

 でもやっぱり……そのあとのことが気になり過ぎて、無理だろうな……


「とまあ、インフェルノの恐ろしさばかりを語ってしまいましたが……実は燃え尽きるのを待つばかりではなく、対抗手段もあります」

「なぁ、それって……インフェルノに耐えることができるドラゴンに泣きつくとかいうんじゃないだろうな?」

「おぉっ、さすがですね! ドラゴンを神と崇めている国や地域なんかはそうやって守ってもらうそうですよ」

「やったぁ、正解したぁ……じゃねぇよ! そんなんドラゴンにツテのないトコはオシマイじゃねぇか!!」

「いえいえ、そういう国や地域もあるというだけで、対抗手段は別にあります」

「あ、そう……そんで? その対抗手段ってのはなんだ? きちんと再現性のある手段を期待しているからな? あと、コモンズ学園長並の防壁魔法の中に隠れるっていうのもナシだぞ? それだと、燃え尽きるのを待つのとほとんど変わらず、根本的な解決にはならんからな」

「はい、そうではないので安心してください、それでですね……先ほどインフェルノには、闇属性と反発して光属性が含まれていないといった話をしましたね?」

「……あッ!?」

「もうお気付きですね……そうです、答えは『光』です」

「な、なるほど……光か……」

「ただし……インフェルノが喰らうエネルギー以上の強い光で照らさなければならないらしいので、いうほど簡単な対抗手段ではありませんがね……」

「ま、まあ、そりゃそうだよな……燃料豊富で燃え盛ってるときとか特に厳しいだろうし、タイミングが難しそうだ……」

「ですがアレス君……お母上から強い光属性を受け継ぎ、レミリネなど強い光を持った方々に力を貸してもらえる君なら、インフェルノに負けない光を放つことができるはず……どうです、再現性のある手段でしょう?」

「お、おう……そう……だな……」


 このとき、シュウのまっすぐで澄んだ眼に見つめられて、なんでだか怯んでしまった……

 いや……たぶんシュウの強い期待に、俺の心の弱い部分が怯んでしまったのだろうな……

 いかんな、もっと強い心を育まねば……


「フフッ、多くの武人が『体を鍛えるより、心を鍛えるほうがよほど難しい』と口をそろえますからねぇ……アレス君の気持ちも分かりますよ」

「そ、そうか……うむ……」


 ……クッ! そうか、シュウも心を読んでくる系だったか!!

 ホント、俺の周りには心を読んでくる奴が多過ぎだよ! マジで!!


「さて、そろそろファティマさんの応援に戻りましょうか、ロイター君に怒られてしま……うことはなさそうですがね……」

「……うん? ああ、なるほど……」


 確かに、これだけおしゃべりをしていれば、ロイターがキレ出してきてもおかしくはなかった。

 ただ、そのロイターはというとね……

 ファティマのインフェルノに感動(?)の涙を流すのに忙しくてさ……

 こっちにキレてくる暇がなかったみたいなんだよね……


「あの……あの伝説の魔法を成功させるだなんて……ファティマさん……実にお見事……」

「ロイターよ……とりあえずこれで涙を拭ったらどうだ……?」

「あ、ああ……」


 まあ、イケメンの涙も画にはなるのだろうと思うが……これはちょっとヤベェ感じがするからね、ハンカチを貸してやったのだ。

 というか、こういうのはサンズの係なんじゃないのか?


「ファティマさん……凄い……」


 ……コイツもか!!

 いや、まあ、サンズのほうは呆気に取られているってだけで、ロイターほどヤベェ感じにはなってないけどさ……

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