第772話 当たり前の話をしただけだろ……
「おっ! ロイターたちも夕食はこっちか?」
「ああ、夕食ぐらいはな……」
「一応、これまでも夕食は男子寮で取ってきていたので、それで令嬢たちも納得してくれているようですね」
「なるほど、『それが俺たちのルーティン』って感じだな!」
「まあ、そういうことになるだろうな」
「なんて話しているうちに、ヴィーンさんたちもいらっしゃったようですね」
ロイターとサンズと適当に喋っているうちに、やや疲れた表情のヴィーンたちがやってきた。
「ハァ……なんとか夕食の時間だけは守ることができたぜ……」
「実際のところ、これはこれで贅沢な悩みといえるのでしょうけどねぇ……」
「うん、男爵家の僕らだと特にね……」
「……家の爵位がどうであろうと、大変なことには変わりない」
「ふむ……ヴィーンたちもなかなか苦労しているようだな?」
「まあ、武闘大会の本戦に進出するということは、それだけ名誉なことといえるのだろう」
「昨今、文系化する貴族家が増えてきつつあるといわれてはいますが……それでもやはり、武闘大会は変わらず評価が高いということなのでしょうね」
まあ、この世界には問答無用で襲いかかってくるモンスターがあっちこっちに存在しているわけだし、周辺の国々とだっていつ争いになるか分からないもんね。
そういう問題があるうちはやはり、評価基準として武力の高さというのは重要なこととして残り続けるものなのだろう。
それに何より! ここカイラスエント王国では現在、思いっきり暗躍してくれちゃってるマヌケ族がいるわけだし!!
でもまあ、とりあえず武闘大会の進行を邪魔してこなかったことについてだけは、奴らを褒めてやってもいいかな?
前世で読んでた漫画とかで、第三者による乱入や妨害などでトーナメントが台無しにされるっていう展開を割と目にすることがあったしさ。
そういうのが今回なくて、本当によかったなって感じだ。
これでもし邪魔されていたら……あの充実した闘いの数々がなかったかもしれない。
そう考えると恐ろしくもあり、そして腹立たしくもなってくるというものだ。
というか実際に邪魔されていたら、そいつらをマジでこれでもかってぐらいボコボコにしていただろう……とりあえず、そいつらは命拾いをしたな!
「……俺としても、武闘大会でいい経験を積めたとは思っているんだけどなぁ……かといって、女共にキャピキャピいわれんのは鬱陶しい限りだぜ!」
「僕たちですら、こういう状況なのですから……ロイターさんたちレベルともなれば、さぞかし苦労されていることでしょうねぇ……」
「ちなみに、夕食はアレスさんたちと約束があるからといって断らせてもらっているんですよ」
「……まあ、これまではっきりと約束してきたわけではなかったと思うが……」
「おう! こうやっていつも一緒なんだからそれでいいだろ、存分に俺たちの名前を出すといい!!」
「ああ、実際に我々もそういって断ってきているわけだからな」
「はい、約束している……それで構わないでしょう」
なんて苦労話を適当にしながら食事を続けたところで……
「ああ、そういえば……今朝、食事を共にしたハンナという子がレミリネ流剣術を学びたいといってくれてな! それで俺は、いつもの模擬戦時間の一部を割いて指導に当てようと思っているのだ……まあ、しばらくは指導時間に割く時間のほうが長くなるかもしれんが……」
「ほう、それはよかったじゃないか……それで、いくらか指導時間に当てるということも了解した」
「ええ、常々アレスさんはレミリネ流剣術を広めたいとおっしゃっていましたものね……ようやく、本格的にその一歩を踏み出し始めることができたといったところでしょうか」
「ま、優勝したアレスさんの修めている剣術となりゃあ、説得力もあるってなもんだろ! それはそうと、レミリネ流に目を付けるとは……そのハンナって女も、なかなかやるじゃねぇか!!」
「おやおや、あまり女性のことを褒めないトーリグにしては珍しいこともあるものですねぇ?」
「ハァ? アレスさん相手には女を前面に押し出して勝負していくより、戦闘方面で何かと接点を作っていくほうが正解ってだけの当たり前の話をしただけだろ……」
「フフッ……まあ、それもそうでしたねぇ……」
「その含みを持った笑い方……マジでうぜぇ……」
えぇ……もしかして、俺の攻略法ができつつある?
ま、まさかこの世界……実は乙女ゲーの世界で、俺は攻略対象者だった? なんてね。
とはいえ、別のゲーム同士の舞台が重なり合っている……みたいな設定の異世界転生物語も何作か前世で読んだ記憶があるので、その可能性も全くないとは言い切れないだろうけどね。
「なんにせよ、せっかく学び始めようと思ったわけですし! そこで、一応僕たちのベースは王国式とはいえ、ある程度はアレスさんからレミリネ流も学ばせてもらっているので、ハンナさんやほかの学びたいと思った方々がしっかりと身に付けられるよう、僕たちも力になってあげたいですね!!」
「……レミリネ流をどこまで広めていくことができるか……まさに、ここからが頑張りどころといえるだろう」
「うむ、確かにそのとおりだ! 俺もさらに気合を入れていかんとな!!」
とまあ、そんなこんなで夕食後にレミリネ流剣術の指導もするよって話をした。
「……さて、そろそろ運動場に向かうとするか」
こうして、食事を終えた俺たちはロイターの号令の下、運動場に移動を開始したのだった。
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