第590話 今まで地味だったのに……
シュウという名の武術オタクのメガネによる瞬殺劇に観戦者たち……それも特に男子たちのざわめきが、今なお続いている。
まあ、俺も奴にはいろいろ世話になっているし、なかなか興味深い存在であるのは確かだ。
それに何より、奴は実践型の武術オタクだけあって物理戦闘能力はおそらくこの学園……いや、王国全土でもトップクラスなんじゃないかと思えるほどだからね……彼らがザワザワしちゃうのも、仕方ないといえば仕方ないのかもしれない。
それと、先ほど「奴の動きが見えなかった……」なんて言葉も聞こえてきていたが、俺も何もせず肉眼だけで見ろといわれたら、見えなかったと思う。
じゃあ、どうやって見てるの? って話だけど、俺の場合は眼に魔力を込めて見えるようにしているのだ。
しかも奴の動きを見えるようにするには、日々魔力操作でおこなっているような全身に満遍なく魔力を流しただけでは足りず、さらに眼に魔力を込めなければならないのが恐ろしいところといえるだろう。
でもまあ、そもそも前世の俺というソフト面に武術的な才能はおそらくないし、アレス君の身体っていうハード面も魔法的な方面により才能を振ってる気がするからね……素の状態ではあんまりって感じになってしまっているのは、ある意味当然かもしれない。
とはいえ、今みたいに見る力を魔力で補強するみたいに身体能力を魔力で高めることができるので、このことについてはそこまで深刻な問題だとは思っていない。
それにアレス君の身体も、武術的な方面の才能が全くのゼロってわけでもないから、努力で補える部分も多分にあると思うしさ。
そしてこの才能って部分について、シュウの場合は武術的な方面に全振りしてるのかって思いたくなるぐらい、あんまり魔法的な強さは感じないんだよね。
いや、奴のことだから抑えてるって可能性もあるし……むしろ、そう考えたほうが自然といえるかもしれないけどさ。
……なんてことを考えつつ、視線は現在おこなわれている対戦に向けている。
さて……そろそろ決まりそうかな?
「……勝者! サンズ・デラッドレンス!!」
まあ、勝つこと自体は微塵も疑っていなかったが、とても丁寧な試合運びだったなって印象だね。
「きゃ~っ! サンズ君カッコいい!!」
「やはり、私のサンズ様は最高ね……」
「いやいや、いつからアンタのサンズになったのよ……」
「いつからって? そうね……初めてお会いしたときからかしら?」
「あ、そう……まあ、思うだけなら自由だし?」
……うん、サンズも女子人気がなかなか高いみたいだからね。
勝利を決めて、キャーキャーされるのも分からなくはないって感じだ。
「……サンズの野郎も、無駄に強ぇよな?」
「だな……正直、ロイターの腰巾着でしかないと思ってたんだけどなぁ……」
「まあ、ロイターさんが目立つからさ、仕方ない部分もあるんじゃね?」
「そうだな、ロイター殿の陰に隠れがちだが、彼もなかなか優秀な成績を収めているのは確かだ」
「ていうか、そもそもサンズさんだって伯爵家の家柄で自身が派閥を率いていてもおかしくなかったレベルの人なんだから、強いのも当然といえば当然でしょ?」
「ああ、そういやアイツ、伯爵家だっけ……」
「なんか普段の態度があんまり偉そうじゃないから、ついその辺のトコ忘れがちになるよな……?」
「うんうん」
「……意外と、そうやって舐めた態度の奴を頭の中のメモ帳に記録してたりしてな?」
「え……マジ? 俺、ヤバいかも……」
「あ~あ、知らねぇぞ? 心当たりがあるなら、今のうちに謝っといたほうがいいんじゃね?」
「いやいや、サンズさんはそんなに心の狭い人じゃないでしょ……」
「さぁ~ね、どうだか?」
「やめて……怖くなってきた……」
そんな会話も聞こえてくる中、サンズが待機場に戻ってきた。
「お疲れさん」
「いえいえ」
「……む、ヴィーンもそろそろ決着のようだな」
「うん、そうみたいだね」
割と似たようなタイミングでヴィーンも対戦を始めていたが……
「……勝者! ヴィーン・ランジグカンザ!!」
こちらも危なげなく勝利を飾った。
「やっぱヴィーンの奴も勝ちやがったかぁ……」
「まあ、そうだろうねって感じ?」
「だなぁ……」
「そうはいってもヴィーンとか、ぶっちゃけ今まで地味だったのに……」
「ああ、伯爵家らしく実力そのものはあったと思うが、それでもやっぱり目立つ存在ではなかったからな……」
「しっかし、ヴィーンさん……それとまあ、ソイルが強いのは納得するにしても……あのトーリグとハソッドまで勝利を重ねてるっていうのは信じらんねぇよ……」
「だなぁ……」
「いやいや、あの2人だって魔力操作狂いと日々つるんでるんだから、それなりに実力を伸ばせるのも割と自然じゃね?」
「それにお前ら、あのノーグデンド領で手に入るとかいうダセェしキツイって評判のアレを装備して訓練できるか?」
「……ムリっス」
「俺も王女殿下の取り巻きの奴に借りてちょっと試してみたけど、一瞬で嫌になったもんなぁ……」
「……だろぉ?」
「とはいえ、あの2人でそこまで行けるってことは、やっぱあの装備の効果はマジってことか……でもなぁ……」
フフッ、君たち……平静シリーズはいいぞぉ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます