第591話 今じゃ私もれっきとした焔好み

「ノーグデンド領のヤベェ装備って、魔力操作狂いが嬉々として広めてる印象が強いけど……あの王女殿下もご愛用なされてるんだよなぁ……」

「そして、その取り巻きたちもな……まあ、俺もそのうちの1人に借りて試してみたわけだが……」


 うん、「嬉々として」って言葉が俺に当てはまるかどうかは判断の分かれるところだろうと思うけど、平静シリーズをみんなが使うようになったら、全体のレベルがかなり上がるだろうなって思っている。

 だから、いろんな人に魔力操作と共に勧めているのは確かだ。


「……次! ティオグ・マイヅ!! それから……」


 ……ほう、ここで未来の近衛殿ことティオグのお出ましか、これは見ておく価値があるぞ。


「おい、見てみろよ! 次の対戦は王女殿下の取り巻きみたいだぞ?」

「ウワサをすればなんとやら……って感じかな?」

「魔力操作狂いたちと同じように、王女殿下の取り巻きたちも連勝を重ねてるからなぁ……」

「しかも、その中には『お前! 文系じゃなかったんか!?』っていいたくなるぐらい、文系のクセに無駄に強い奴もいるし……」

「だよな……まあ、戦闘の面白さに目覚めたってところかねぇ?」

「まあ、基本的に多くの家は武系からスタートしてるだろうから……先祖返りってヤツなんじゃね?」

「ふむ……彼らの心身の奥底に眠る武人の魂が目覚めのときを迎えたというわけか……ならば、我らもこうしてはおれんな!」

「おいおい……そういうのは暑苦しいから、どっかヨソでやってくんねぇか?」

「……なんだと?」

「あぁ? なんだ、文句あんのか!?」

「はいはい、ケンカはダメだよ~? そんなにカッカしちゃうんだったら、あとで個人的に模擬戦でもすればいいじゃ~ん? まあ、上手い具合にこれから対戦で当たれば、そんな手間も省けるんだろうけどさ」

「……それもそうだな」

「……チッ」

「つーか、お前ら……ケンカしてるうちにティオグの対戦が終わっちまうぞ?」

「ま、どうせティオグ君の勝ちは堅いだろうけどね……」

「まあなぁ、そもそもティオグの野郎は武系貴族だから、もともとそれなりにデキルだろうしな……」


 ああだこうだと観戦者たちがいっているうちに、ティオグが優勢のまま対戦を進めている。

 そして彼らがいうように、この対戦でティオグの勝利は確実であろうと俺も思う。


「……しかしながら、ティオグの奴も……なんていうか、独特な剣術を使うよなぁ?」

「うん、王国式とは全然違う……」

「ん? お前ら知らねぇの? アイツの先祖って焔の国から渡来してきたらしいぜ? だからアイツの使ってる剣術も、あっちの国の系統なんだろうよ」

「ああ、道理で……」

「そういえば彼……ちょっと僕らとセンスが違うなって思うところがチョイチョイあったもんね?」

「たぶん、その辺は焔の風習とかが影響してるんだろうなぁ……」

「……そういや、うちの学年に……その焔にメチャクチャかぶれてる奴がいるよな? 誰とはあえていうまでもないだろうけど……」

「ああ、あの人ね……」

「焔かぶれの魔力操作狂い……」

「あ、いっちゃった……」

「おっと、その『焔かぶれ』って表現はいただけないなぁ……そういうときは『焔好み』っていうんだよ?」

「……うむ、このカイラスエント王国にも焔好みの重鎮は意外と多くいるからな……下手なこといって睨まれても知らんぞ?」

「つーか、この学園の大浴場が焔風なのも、その重鎮たちが強く推したからって話を聞いたことがあるぜ?」


 ……ほう! この学園の大浴場が前世の日本風なのは、焔好みの重鎮たちのおかげなのか!!

 うむ、感謝せねばならんな! この王国にいらっしゃる焔好みの重鎮の方々よ、ありがとうございます!!

 ……ん? なんか視線を感じるな……?


「……あ、あの人が……ウソでしょ……」

「なんて……なんて穏やかな顔をしているんだ……」

「俺……奴の邪悪な笑顔しか見た記憶がねぇのに……」

「あ、あんな顔もできるんだなぁ……」

「俺はてっきり、『焔かぶれ』っていわれてキレるんじゃないかと思ってたぜ……」


 いやいや君たち……ビビり過ぎじゃない?


「……アレス様の穏やかな微笑み……まっこと、うつくしい……」

「そうか、アレス様は焔好み……このセンで行ってみるのもアリかも……でも、焔の国かぁ……あんまり知らないんだよなぁ……」

「実は私もそこから攻めようかと思っていたことがあったんだけど……『にわか者』はかえって嫌われるって聞いて、諦めたのよねぇ……」

「あら、もったいない……私も入口はアレス様に近づくためって感じだったけど、実際に自分で焔風に触れてみたらとってもステキで、今じゃ私もれっきとした焔好みになったわ」

「へぇ、そんなにいいんだぁ……じゃあ、私もちょっと試してみようかなぁ?」

「ふふっ……『目指せ、焔美人』といったところかしら?」

「あっ、それいい! なんか、そこはかとなくカッコイイ感じもするし!!」

「あらあら……焔美人への道は、そう楽じゃないわよ?」

「なぁに? 先輩面しちゃってぇ! こうなったら、この中で誰が一番焔美人になれるか勝負よ!!」

「ふぅん? 面白いじゃない、受けて立ってあげるわ」

「よし! 私も焔らしく、燃えてきたっ!!」

「仕方ない、私も参加してあげるわ……まあ、勝つのは私だけどね?」


 ほうほう、焔美人か……着物とか着るのかな?


「……おい、聞いたか?」

「うん、ばっちし」

「これからモテのトレンドは焔風になるかもしんねぇな?」

「話を合わせられるよう、僕らも研究しとこうか……」

「だな……」


 女子たちにつられる形で、これから男子たちも焔の国に注目する奴が増えそうな予感……


「……勝者! ティオグ・マイヅ!!」

「いい勝負でござった、いずれまたお相手願いたい」

「あ、ああ……俺も、そのときまで腕を磨いておく……」

「おお! それは楽しみでござるな!!」


 そして対戦のほうも、そのままティオグが鮮やかに決めたのだった。

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