第71話 そういうのはマズいよ
シャワーで汗を流し終え、朝食をいただきに食堂へ。
そして食事をしていると、また例の敵意君とその仲間たちの会話が聞こえてきた。
「だいたいにおいて、侯爵家という上位貴族に生まれておいて小汚い平民どもと一緒になって解体など、アレの頭はどうかしているとしか思えん!」
「またその話~?」
「おい、それは俺たちがとやかく言うような問題じゃないだろ?」
「ああ……我が家のように、家の方針というものもあるだろうしな」
「……」
「う~ん、でもやっぱ、上位貴族が解体をするのはちょっと変……かも?」
「そうだな、よく考えたら俺もそんな気がしてきたわ」
「我も、解体を誰かに任せられるのならそうしたいものではあるな……」
え!? なんなのあいつら、急に意見の方向性が真逆になったぞ?
意味がわかんねぇ、なんか怖いんだけど……
その後も、敵意君の意見に対して最初は反対意見を述べるのだけど、直後にそれを翻す学生たち。
なんか変だな。
もしや敵意君、なにやら悪さをしているのか?
……ふむ、そろそろ朝食も終わりだし、とりあえず授業が終わった後にじっくりと敵意君を観察してみようかね?
別に放っておいてもよかったけど、このままだと食堂等で不気味な会話を何度も聞かされることになりそうだし……さすがにそれはキツイものがあるからね。
そうして授業後、さっさと敵意君の観察を始めたかったが、腹内アレス君がまずは先にご飯を食べてからと主張するのでそれに従う。
食べ物が絡むと腹内アレス君はおっかないからね、これは仕方ない。
まぁ、結局は敵意君も男子寮の食堂にいたので同じことだったんだけどさ。
それで、敵意君がもしかしたら魔法的ななにかをしているかもしれないので、バレないように闇属性でがっちりと隠密性を高めた魔力探知を展開、ここまでして気付かれたら、それはもう気付いたそいつを褒めるしかないってレベル。
とりあえず、これで準備万端。
さぁ敵意君! 存分にやらかしたまえ!!
「……お前たちはアレの思想に危険なものを感じないのか!?」
「危険なもの~?」
「別に感じないが?」
「考え方は人それぞれだと思うが……」
「奴はいずれ平民が我々貴族に取って代わると言っているのだぞ!? しかもあろうことか、我々の祖先を平民呼ばわりなど、笑止千万!!」
「いやいや、平民だからって甘く見るなって話でしょ?」
「そうそう、だから努力を怠るなってだけのことだろ?」
「我が家の初代様は実際に平民から身を立てられたのだから、なにも間違ったことは言っておらん」
「……」
来た! 敵意君から闇属性の魔力反応アリ。
確かあれは、精神に干渉する系統の魔法だな。
何気に先日のエリナ先生との補習により闇属性魔法への理解が進んでいたのが大きいね。
そして魔法の発動体となっている指輪……どうやらあれは魔道具だな。
「でもちょっと彼、平民贔屓がすぎるかも?」
「まあ俺たちだって、生まれたときからずっと家の期待を背負って努力は積んできたはずだしな」
「初代様が平民だったのは事実とはいえ、それを他人から指摘されて気分がいいものではないのも確かではあるな……」
なるほど……他人の精神に干渉して意見を変えさせていたってわけね。
そういえば、ゲームにも「思考誘導の指輪」ってのがあったけど、もしかしてあれか?
やっぱりこれも魔族絡みのアイテムなのよね。
一応ゲームでは道を踏み外しそうなギリギリの奴の背中を押すのに使われてたけど、ああいう使い方もあるんだな……
しっかし、そういうのはマズいよ敵意君……お兄さんがっかりだよ。
っていうか敵意君、もしかして君、マヌケ族なのかい?
それなら後々の面倒を回避するため始末せねばならんくなるよ?
まぁ、ゲームのヒロインその2の魔族少女もいるけどさ、彼女については主人公君に任せるつもりだったから今回は除外。
とりあえず尾行して、1人になったところでお話ししましょってな感じの流れかな……
こうして昼食の時間が過ぎていった。
一応闇属性魔法でステルス状態にして尾行開始。
その後しばらくしてようやく1人になった。
「やあ、ちょっといいかな?」
「お前はアレス・ソエラルタウト!! 俺になんの用だ!? くだらん用なら許さんぞ!!」
「君のその指輪イケてるなって思ってさ、それどうしたの?」
「これはゾルドグスト先生にもらったものだ! だがそんなこと、お前とは関係のないことだ!!」
あれ、この子マヌケ族じゃないのかな……?
なんかこう、誤魔化す感じじゃないのよね。
……よくわからんから魔力圧でも強めに当ててみるかね、マヌケ族なら身の危険を感じて戦闘態勢に入るでしょ?
「うッ! ぐぅゥ……」
あらら、気を失っちゃったよ?
普通の学生だったのかな……ってことは失踪したゾルドグスト先生ってのがマヌケ族だったってことか?
そうして考えに没頭していると肩をトントンとされた。
はて、誰かな……と思えばエリナ先生!
「さっきぶりね、アレス君」
「エリナ先生、これは……」
「心配しなくて大丈夫、テクンド君を魔族の擬態じゃないかと思ったのよね?」
「その通りです」
「やっぱりね……でもテクンド君は魔族ではないわ……彼も魔族に思考を誘導された側の人間よ」
そう言いながら、エリナ先生は例の指輪を没収しながら光属性魔法で敵意君に施された思考の誘導を解いた。
「これでよし。目が覚めたら指輪のことも忘れているわ」
「うぅん……あれ、なんでこんなところで寝ていたんだ?」
「目が覚めた? こんなところで寝ていると風邪をひくわよ?」
「……そうですね、気を付けます……それでは………………う~ん、おかしいなぁ」
そうして敵意君はやや釈然としないものを感じている様子ではあったが、そのまま去っていった……
どうやら彼、ここでの出来事を覚えていないみたいね。
「さて、少しお話ししましょうか?」
「はい」
「じゃあ、研究室に行きましょう」
そして、エリナ先生の研究室へ移動した。
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