第196話 強く生きろよ!!

 俺が受けているレミリネ師匠の剣術指導は、学園内でどのように受け止められているのかについて、先ほどの生徒たちの会話で理解できた。

 まぁ、俺のことを快く思っていない奴には、スケルトンナイトに痛め付けられて快楽を感じるヤベェ奴と思われているということ。

 そして、俺に好意的な奴には、強者に向かっていく誇り高き挑戦者と評価されているということ。

 俺がこっちの世界に転生してきた頃は、ほとんど批判的な言葉ばかりだったのに……結構変わってきたものだなぁと思わずにはいられないね。

 そんなことを思いつつ朝食を終え、自室へ戻る。

 そして、食休みがてらレミリネ師匠と脳内模擬戦を繰り広げ、それもしばらくしたら、型稽古に移る。

 そうして数時間ほど過ごし、街へ出る。

 というのも今日は、この前染色のため預けていたゴブリンの腰布を受け取りに行くためである。

 カッコよく仕上がってるかなぁ、楽しみだなぁ。

 漆黒の装備にワインレッドの差し色がさぞかし映えることだろう。

 こうしてウキウキで染色屋へ向かった。


「いらっしゃいませ、これはこれはお待ちしておりました、ご依頼の染色は出来上がっていますよ」

「それはよかった」

「こちらです」


 そういってゴブリンエンペラーの腰布とゴブリンハグの腰布を手渡される。


「おお! これは凄い」

「ただ、この2枚ですが……もともとの素材の質に差があり過ぎまして……若干ですが色の乗りに差が出来てしまっています」


 そう店員はいうものの、パッと見ではそんなに差を感じなかった。

 まぁ、違いを見つけようと思って凝視したらわかるって程度かな?


「鏡はこちらですので、どうぞ試着してみてください」

「わかった」


 そうしてまず、ハグのほうを巻いてみる。

 ふむ……なるほど、悪くない。

 次に、エンペラーのほうを巻いてみると……


「おお! 素晴らしい! よくお似合いです!!」


 店員にめっちゃ褒められた。

 まぁ、自分でもイケてるって感覚はあったからね。


「実によく染め上がっている、こちらの店に頼んで正解だった、ありがとう」

「いえいえ、こちらこそエンペラー素材の染色という心躍る依頼をいただき、ありがとうございます」

「また今度、このような素材が手に入ったら染色を頼むことにするよ」

「そのときを楽しみに、お待ちしております」


 そうして気分よく会計を済ませ、店を出る。

 そしてある実験のため、街の外に広がる森へ移動。

 その実験とは、ゴブリンの腰布を巻くと、奴らはどんな反応をするかということである。

 というのも、以前ゴブリンダンジョンで手に入れたドロップアイテムを換金したとき、ギルドのオッサンが腰布の効果に関して「ゴブリンが親近感を持つ」とかいっていたので、もしかして……と思ったのだ。

 というわけで、とりあえずゴブリンハグの腰布を巻いてみる。


「ふむ……やはりな」


 なんか、魔力探知のために俺が撒いた魔力の粒子にゴブリンが触れた瞬間、逃げようとして、でも立ち止まり、やっぱ逃げようか、みたいな困惑した動きをしているのだ。

 たぶん、脅威を感じつつ、親近感も湧いているのだろうと思う。

 さて、それではゴブリンエンペラーの腰布を巻いたらどうかな?


「おお! 逃げない!!」


 さすがエンペラーの腰布だ。

 これはおそらく、ゴブリンの俺に対する恐怖心が中和されたと見ていいだろう。

 じゃあ……ゴブリンエンペラーの帝冠を装備してみたら?

 というわけで、帝冠も装備して近くにいたゴブリンのところに向かってみた。

 ちなみに、帝冠にもサイズ調節の効果が付与されていた、やるね!


「マジか……」


 近くにいたゴブリンのところに来てみたら、ゴブリンが跪いて頭を垂れているではないか……参勤交代かな?

 そして……こんな殊勝な態度のゴブリンを討伐するなど、俺にはできそうもない。

 そう思いながらゴブリンに近づいていくと、ガタガタと震えだし、ダラダラと冷や汗をかいているではないか、かわいそうに……


「大丈夫だ、命を取ろうなどとは思っていないよ……」


 そういいながら、肩をポンポンと叩いてやる。


「ギッ!?」


 それはゴブリンにとって予想外の出来事だったらしく、驚いて顔を上げ、俺と目が合う。

 そこで、俺はゆっくりと頷いて見せてやる。

 すると、ゴブリンの表情から徐々に怯えが消えていく。

 う~ん、今の俺ってコイツにはどう見えてるんだろう?

 もしかしてゴブリンエンペラーに見えてたりして……なんちゃって。

 まぁ、それはともかく、このとき俺たちは……ほんの少しかもしれないが、わかりあうことができたのかもしれない、そんな気がした。


「じゃあな……人間族と敵対するようなら討伐しなくちゃならんくなるが……そうでないなら、強く生きろよ!!」


 そう声をかけて、ゴブリンと別れた。

 フッ……「ゴブリン狩り」と遭遇して生き延びたゴブリンとして仲間たちに自慢するがいい。

 なんてことを思いつつ、ゴブリンエンペラーの帝冠と腰布を装備するのは控えようと思った。

 だってね……なんというか、心情的に戦いづらいなって思っちゃうんだよ……

 そんなわけで、普段使いにはゴブリンハグの腰布でいいかなって感じ。


「よし、実験も済んだことだし……レミリネ師匠のところに行こう!!」

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