閑話6 エリナの淡い期待
ズミカさんを拘束後、すみやかにガイエル副学長のもとに連れて行き、自滅魔法の解除をお願いした。
隊長から「末端魔族に施された自滅魔法は魔族の実力者なら解除可能だ」と聞いていたので大丈夫だとは思っていたが、それでもやはり心配にはなった。
そうしてしばらく待ったあと、無事に自滅魔法を解除できたのを確認したときはとてもホッとしたものだった。
そして、自滅魔法の解除後はコモンズ学園長が大張り切りでズミカさんの説得にあたった。
しかしながら、ズミカさんに植え付けられた人間族への敵対心もなかなか強固なものがあり、そこから彼女の心を変えるには学園長をして、約1週間の時間を必要とした。
……そう、ズミカさんはこの約1週間のあいだ、学園長が仕事で手を離せないとき以外、ほぼ1日中熱心に人魔融和の精神を語って聞かされるという日々を過ごしたのだ……これはある意味拷問と言えるかもしれない。
とはいえ、ズミカさんが学園長の説得に応じることができたのは、彼女が人魔大戦後に生まれた世代だからだとも考えられる。
私たち人間族にとって人魔大戦は歴史上の出来事になりつつあるが、長命な魔族の中には人魔大戦経験者もまだ多く残っており、そのときから人間族に恨みや憎しみを抱えてきた者の場合はそう簡単にはいかなかったであろう。
いずれにせよ、ズミカさんが人間族との敵対を思いとどまってくれてよかった。
そうでなければどうなっていたことか……少なくともある程度自由は制限されていたことだろうし、下手をすれば……だからこそ、本当によかったと心から思う。
それでこれからのズミカさんであるが、学園長が責任を持つというかたちで今までどおりの学園生活を送ることとなった。
それから、ズミカさんが暮らしていたという孤児院に宮廷魔法士団が捜査に向かったところ、既に誰もおらず廃屋になっていたそうだ。
近隣住民に話を聞いてみても、数年前まで孤児院があったことだけは覚えているが、それ以上のことはあやふやで誰一人としてはっきりとした記憶が残っていなかったらしい。
このように手がかりはほとんど残されていないが、今後もその孤児院にかかわる捜査を継続するとともに、同じような魔族の施設がないか王国内の孤児院を調べていくとのことだ。
また、今までズミカさんへ指示を下してきた連絡員の魔族を捕まえようとしたらしいが、逃げ切れないと判断した魔族に自爆されてしまったらしい。
そのとき捕縛にあたった宮廷魔法士たちは爆発に巻き込まれ重傷を負ったものの、幸いにして命に別状はなかったので回復できたそうだ。
こうして、ズミカさん拘束後の約1週間は過ぎていった。
そして週明けの地の日、アレス君が週末に行ったソレバ村の話をするため研究室に訪ねてきてくれた。
ただ、その内容がなかなかに驚かされるものだった。
村の子供たちが魔法で遊んでいたとは……
アレス君も村の子供たちのことを凄いとは思っているみたいだけれど、驚きが足りていないように感じる。
貴族家の人間でもなければ、ちょっとしたそよ風を吹かせる程度でも立派な魔法と言えるのに……今の時点でエアーボール。
しかも、子供たちが使っていた魔纏についても、アレス君としては防御力が気になったみたいだけれど、そもそもとして魔力を身に纏うこと自体なかなか難易度が高いのだ。
そのことをアレス君は忘れているのかもしれない。
この認識のズレについてはこれから折に触れて話していくとして、この調子でいけば数年後、ソレバ村から多くの子供が学園に入学してくることになりそうで楽しみだ。
そしてやはり、アレス君の指導力や影響力には感心させられる。
普通なら魔力操作もなかなかみんなやりたがらないというのに、リッド君を筆頭として村の子供たちは喜んでそれをやっているという……
また、この学園内でも、アレス君に感化された生徒が徐々に実力を伸ばし始めてきているのだ。
このことから、前にも冗談めかして教師にならないかとアレス君に言ったが、改めてそう思ってしまう。
とはいえ、アレス君の希望は冒険者として色々な場所を旅することだ、教師の道を押しつけることはできない。
……でもいつか、それが何年、何十年後のことになったとしても……いっしょに教師をできたらなと、そんな淡い期待を抱くのだった。
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